ミズホの里はシルヴァラントとテセアラから独立した文化を持っていた。
私に言わせれば東洋、もとい和風。石を使っていない藁ぶきと木の家に、着物の住民。畑に生えている穂は、多分お米だろう。
その中でくちなわの兄、おろちの格好はくちなわの忍者ルックとまったく同じで、深い藍色をしていた。案内されたのは頭領の家だ。

えー・・・ちなみに。
しいなとテセアラで再会する少し前に、シルヴァラントの少年少女達に、まちがった知識を教え込んだ某神子くんは、しいなにゲンコツ一発食らったことを記録しておこう。

話を戻そう。

ミズホの里の最高責任者、副頭領のタイガの前で正座する私。
あ、あの囚人も一緒だ。彼には、しばし捕虜でいてもらうことにした。
タイガの背後には寝床らしきベッド(?)があって老人が眠っていた。あれが本来の頭領らしいが、どうやら病気で眠ってるらしい。
私は正座してタイガを見据えた。その目に宿るのは百戦錬磨のそれだ。

「事情はしいなから聞いた。頭領は病のため、私がお相手する。ご存知かも知れぬが・・・しいながおぬしらを殺せなんだことによって、我らミズホの里はテセアラ王家とマーテル教会から追われる立場になりつつある」

何ぃっ!? 初耳だぞ、そんなこと!!

私達の心配そうな視線を感じ取ったのか、タイガは私達の顔を順々に眺めた。
「そこで貴殿らに問いたい。おぬしらは敵地であるこのテセアラで、何をするというのか」
「・・・・・・ずっと考えてたんだ」
静かな、湖底のような声で、ロイドは言った。

「ある人に言われたんだ。お前は何をしているんだって」
クラトスだ。彼の重みのある声が、言葉がまた聞こえてきそうだった。
「俺が何をしたいか。俺はバカだから、難しいことはわかんないけど・・・みんなが普通に暮らせればいいって思ってる」
ロイドの瞳は、どこか穏やかだ。コレットに視線をやる。

「誰かが犠牲にならなきゃいけなかったり」
コレットのことだ。彼女は微笑んだ、優しく。

「差別をされたり」
ジーニアスとリフィルが震える。

「誰かが傷つかなきゃいけなかったり」
今までの旅で死んだ人々、傷ついた人達。

「・・・そんなのがなくなればいいって思った」
「理想論だな」
タイガは薄く笑った。

「しかしシルヴァラントとテセアラは互いを犠牲にして共存する世界。その仕組みを変えぬ限り、全ては詭弁だ」
「だったら変えればいい!」
ロイドが立ち上がって言った。

「2つの世界が人の手によって作られたものなら、俺達にだって変えられるはずだ!」
それにタイガは笑った。

「ふははははっ! まるで英雄ミトスだな! かつて存在した二つの国に共存する道はあると諭し、古代大戦を終結させた気高き理想主義者。おぬしはミトスを気取るつもりか?」
それにロイドは首を横に振った。
「俺はミトスじゃない。俺は俺のやり方で、仲間と一緒に二つの世界を救いたい・・・」
「なるほどな。古いやり方にはこだわらぬ、ということか」
タイガの顔には笑みが浮かんでいた。心から満足したような笑み。その目には新たな決意が秘められていた。

「では、我らも新たな道を模索しよう」
 それじゃあ・・・」
タイガが静かにうなずく。
「我らは我らの情報網でおぬしに仕えよう。その代わり二つの世界が共存する道筋ができあがった時、我らミズホの民の住処をシルヴァラントに要求する」
それに、ロイドは困ったように頭をかいた。

「よ、要求するって言われても・・・俺に決定権があるわけじゃないし・・・」
「なに、我らミズホの民の小さな引越しを手伝ってくれればいいだけだ」
ロイドはみんなに向き直って、答えを求めた。
目は口ほどにものを言う、とは言ったもので、反対するような奴はいない。私は大きくこっくりうなずいた。

「では、我らはレアバードの行方を追おう。しいなの式紙のおかげで、すぐ見つかるだろう」
「では、よろしくお願いします。タイガさん・・・あと・・・」
私は深々とお辞儀をして振り返る。

「えーと、お名前聞いてませんでしたね」
「・・・リーガルだ」
蒼髪の囚人は素直に答えた。
「なぜコレットを狙ったのかしら?」
「その娘を野放しにしておけば、世界を滅ぼす存在と聞かされたのだ」
「半分は正しいから言い返せないね・・・厳密に言えば違うけど」
私は大きく肩をすくめた。つい最近まで世界を救う神子一行が、今じゃ犯罪者か。状況が変われば世界も変わるのね。

「・・・今の話を聞いて、わかったと思うけど。まだコレットを狙うって言うのなら・・・」
それにリーガルは少し悩んで。
「信じてもらえるとは思っていないが・・・お前の言葉に嘘はないと感じた。今の私には何が真実なのか、見極める時間が欲しい。・・・それに、その子にたずねたいことがある」
「プレセアと話がしたいの?でも無理だと思うよ・・・」
「なぜだ?」
私は少し悩み、どう言ったものか迷った。隠すつもりはない。そんな私を遮って、ゼロスが肩をすくめて言った。

「プレセアちゃんは教皇の計画のエクスフィアに寄生されて、まともに話せる状態じゃねぇんだ」
「教皇が!? まさか、信じられん・・・」
そこで、私はぽん!と手を叩いた。

「じゃ、リーガルもプレセア助けるの手伝ってもらおう!」
!何言ってるの!?」
ジーニアスは大いに驚いたようだが、リーガル本人はもっと驚いたようだった。
「だあって、ジーニアス。利害はばっちし一致してるし、何か話を湾曲して聞いてたみたいだし。何より悪人じゃないみたいだし」
「悪くないわね」
「姉さん!」
私はまあまあとジーニアスをなだめた。周りが見えてないっぽい。

「狙われているのなら、目の届くところにいたほうがいいわ。一緒に戦ってくれるなら有難いんだけど、どうかしら?」
ロイドは反対する様子はない。リーガルはうなずいた。
「・・・いいだろう。我が戒めと名にかけて、その少女と話ができるまで、決して裏切らぬと誓おう」
「わかった」
決定だ。しかしジーニアスはリーガルを親の仇のように睨んだ。

「・・・少しでもおかしな素振りを見せたら、ボクの魔術で黒焦げにするからな」
「好きにするといい」
リーガルはおびえる様子も無く、静かに答えた。

「じゃ、よろしくね、リーガル」
「よろしくお願いします〜」
まったく警戒の念を見せず、私とコレットは微笑んだ。




―――――――――――――――――――




森に抱かれた、と言う比喩がピッタリなその村の名はオゼット。プレセアの故郷で、彼女はスタスタと家に帰った。
そしてこの村、ハーフエルフと余所者を特に嫌っているらしく、視線が刺々しく突き刺さる。プレセアを追いかけると、小屋があった。プレセアは小屋の前で誰かと話してる。

「助かりますよ・・・おや?」
赤い縁のメガネの中年男が、こちらに気づいてふり返る。
「お知り合いですか?」
「・・・運び屋」
「ほう、運び屋さんですか!」
「プレセア! 待って!」
ジーニアスが呼びかけるが、プレセアの反応は冷たい。

「・・・仕事・・・さよなら」
「あ、待って!」
ジーニアスがプレセアを追いかけて、その男とは擦れ違いに家の中に入る。男はスタスタと去っていった。

そして、家の中は―――

う・・・っ!?
ものが、腐っている臭いがした。強烈な悪臭は奥から臭う。
プレセアは本当にここに住んでいるのだろうか?
何十年もほおっておいたかのように、床はホコリだらけで、クモの巣がはってある。プレセアは台所で料理をして、お盆の上にはオートミールの入ったおわんを持って、奥の部屋に入った。

ごっきゅんと、唾を飲み込み、私は無言でみんなを見た。全員、覚悟を決めたのかうなずく。

私はそお・・・と部屋の中に入った。足元にネズミがいたようだが、今の現状では叫びたくもならない。
テーブルの上には、2つほどおわんがあった。湯気がたっているのは、先ほどプレセアが作ったもので、もう一つのは真っ黒だ。黒かびだと気付くのに、数秒と要した。気持ち悪くて吐きそうになった。このオートミールは、きっと奥に寝ているであろう誰かのためのもの。
ベッドにはほこりが積もっている。プレセアはお盆を置いて、今度は研ぎ石で斧を研ぎ始めた。私は毛布を手にやって、ばっと思い切ってはぎ取った。

うっ! こ、これは・・・!?」
今まで見てきたものの中で、一番吐き気がした。悲鳴を誰も上げなかっただけ、上々だろう。
かつては、人を為しえていたもの。今では見る影もなく腐って、ミイラと化している。死後から、かなり月日が立っている。素人の私でもわかるくらいに。

「プレセアは・・・この人の状態がわかってないの・・・?」
呆然と呟いた声はかすれていた。エクスフィアの寄生で、こんな・・・。
気分が悪くなった一同は、一旦外に出た。私は大きく深呼吸した。

「あれもエクスフィアの寄生のせいね。・・・プレセアはあの人がどうなっているのかわかってないのね」
そう、プレセアはあのエクスフィアのせいで止まってしまった。凍りついた時計みたいに。
こんなことを許していいのか?
そんなわけ、絶対にない! 
ありえない!!
「急いでアルテスタの所へ行って、要の紋の修理について聞きましょう」
ひとまず、プレセアはここに置いてアルテスタの元へと急いだ。待っててね、プレセア!




―――――――――――――――――――




アルテスタは全然まったく、これぽっちも友好的ではなかった。それどころか門前払いをくらった。
しかし、アルテスタの身の回りの世話をする緑髪の、不思議な喋り方をする少女タバサのおかげで、プレセアを元に戻す方法がわかった。抑制鉱石と言う鉱石で、すぐにとは言わないが多少は寄生を防ぐらしい。
リーガル曰く、抑制鉱石は海を越えた南の大陸にあるトイズバレー鉱山にあるとのこと。
彼は昔、そこで働いていたらしいのだ。
・・・苦労してるなあ、リーガル。
しかし、ゼロスはそう思っていないのか、珍しくリーガルにつっかかった。

「ところでさあ、ちょっと聞きたいだけど」
「・・・何だ?」
「俺、あんたとどっかで会った事ないかなぁ?」
リーガルは答えない。すっと無視した。

「・・・ちぇっ、冷てーの」
するとゼロスは今度はしいなに話しかける。
「なあ、しいな。トイズバレー鉱山を持ってんのが誰だか知ってるか?」
それにしいなは、軽く首をかしげる。
「レザレノ・カンパニーだろ? それがどうかしたんだい?」
「・・・ちぇっ! しいなが立派なのは胸だけかよ」
するとごんっ、と鈍い音。
「殴るよ!」
「殴ってから言うなよ〜!」
口は災いの元なのだよ、ゼロス君。




―――――――――――――――――――




「はい、任務完了!プレセアの所へ早く戻りましょー!」
抑制鉱石を見事ゲットした私達は、急いでトイズバレー鉱山から出た。
古代の魔科学の技術によって生まれ、発掘された機械は今でも稼動している。リフィルが貴重なそれを保護しないとは!とこの場にいない責任者を責めたてた。なぜかリーガルが「すまん」と謝ったのかは永遠の謎である。

えー、ついでに私は空元気だ。そう、無駄にハイテンションなのだ。
・・・色々あったんだ・・・
色々。聞かないでね。・・・そう、こっそり隠しに隠し持っていたワインを・・・クレイアイドルに・・・酒が食べたいって・・・大事に持ってたのに・・・うわああああああ!!(以下省略)

そして、帰り道。トイズバレー鉱山の出口付近で、私達とは別口の侵入者を発見した。

「ヴァーリ!? 貴様、なぜここに・・・っ!!」
そいつはプレセアと初めて会った時に一緒にいた男だ。
その時、リーガルは怒ってた。彼のあんな顔は始めて見た。理知的、冷静な彼にしては珍しく、その声には怒りがにじんでいた。賭けてもいいが、ヴァーリとやらと親しくはないだろう。つか親の仇といっても通用しそうな殺気だ。

「ほお、リーガル。お前、出てきたのか」
「黙れ! なぜ教皇は、貴様のようなヤツを・・・!!」
それにヴァーリとやらは鼻で笑って。
「オイオイ、お前みたいな犯罪者との約束を、教皇様が本気で果たすとでも思ったのか?」
「・・・黙れ」
刺すような殺気は、嫌でも感じ取れた。リーガルは、これ以上ないくらい怒ってる。

「約束が果たされぬのなら、私が貴様を討つまでだ!」
「へ、へえ・・・いいのかねぇ、そんなことをして・・・」
リーガルが一瞬だけ眉をひそめた。その刹那、ヴァーリは横穴に逃げ込んだ。
私は何となく地面の石を条件反射に近い速度で、投げた。ごつっ、と鈍い音がしたので当たったんだろう。

何で私、投げたんだろう。謎だ。リーガルもちょっと驚いた顔をしてこっち見てくる。

「リーガル、あいつ何者なんだ?」
「・・・仲買人だ。金になるならものだろうが人だろうが魔物だろうが、何でも扱う。・・・最近はエクスフィアに着目しているらしい」
「おお、じゃあ石投げて正解だったな」
多分、テセアラのエクスフィアにも関係しているし。人身販売、反吐が出るね。

「・・・で、リーガル。罪ってさ・・・?」
「・・・否定はせん。私は、人を殺めた。それだけは紛れもない事実だ」
そのリーガルの声には、深い深い悔恨があった。どうしようもない、暗くて、悲しい何か。
私は、何か言おうとしたけど、声が出なかった。でも、振り絞って言ってみる。

「でも、何で・・・? あなた、そんな事する人じゃない・・・と、私は思うんだけど」
それに、リーガルは目を瞑り。
「言えば言い訳になる。私は罪を負った・・・。それだけだ」
暗い。暗いな。
私はがしがしと頭をかいた。

「俺も、さ・・・俺の馬鹿な行動で、沢山の人を殺した。他にも、色々と斬ってきた。それについては、言い訳はしない。・・・でも、苦しい時に苦しいって言うくらいはいいんじゃないか? 俺は支えてくれる仲間がいたから、こうやってここにいる」
ロイドが、励ます・・・とは違うけど、今までの経緯を言った。
「・・・そうだよ。リーガル、私みたいな子供じゃ不満かもしれないけど・・・サポートくらいできるし、話聞く程度ならできるし・・・」
私も付け加えるように言う。それに、コレットがおずおずと申し出た。

「わたし、うまく言えないんだけど・・・人の心の中には神様が住んでるんだと思います。だから、リーガルさんの罪を、神様も背負ってくれてると思います。えっと・・・それだけです」
私は微笑んだ。リーガルは、遠くを見るようにして、語った。

「・・・いずれ、話す時がくるならば・・・だが、今は・・・すまない。罪人と旅をするのは恐ろしくもあるだろうし、辛かろう。だが、辛抱して欲しい。プレセアをエクスフィアの呪縛から解き放つまでは」
「別に、全然平気」
私はにっこりと笑った。

「タフで、単純なのが、長所なんですよ」
それに、かすかにリーガルも微笑んだ。
「・・・あんただけじゃないさ。・・・みんな、一緒なんだ」
ジーニアスが、ぽつりと言った。




―――――――――――――――――――




その後は良かった。順調だった。
あっという間に鉱石を見つけて(ロイドが鉱石のこと知ってて良かった・・・無駄足踏む五秒前だった・・・)オゼットへ向かったまでは良かった。うん。
ただ、いやはや、まさかオゼット村人に通報(?)され、教皇騎士団を派遣されるとは思わなかったさハッハッハ。

「・・・ごめんね、わたしのせいで・・・」
「んなことないでしょーよ」
コレットが悲しげに言う。私が何か言おうとすると、ゼロスがフォローした。
私は、それを聞きながら、もう慣れた感じで騎士の腹を容赦なく殴った。

「俺様だって命を狙われてる。リフィル様もガキンチョもハーフエルフだから追われてる。しいなは今や裏切り者のミズホの民。リーガルのおっさんは教皇との約束破ったんだから脱獄囚扱いだろ?みーんな理由があって狙われてるんだよ」
「・・・いっそ清々しいな、ここまで無罪の犯罪者揃いだと」
無罪というところがポイントだ。

「・・・私を混ぜるな」
「はいはい、ゼクンドゥスは何もしてないですよー」
つっこむゼクンドゥスは適当にあしらっておく。

「はーい、ラストー。しゅーそーらいざーん」
やる気のない声で襲爪雷斬を繰り出す。ばりばりと騎士は感電して倒れる。
「ま、こんなもんかな?」
それで最後だったらしい。

「・・・うん・・・そう、だね・・・」
「? コレット?」
具合が悪そうなコレット。何だか熱でもあるみたいだ。私は近寄ろうとした。
だが、私は気がつけなかった。
それより早く、私に近寄る桃色の髪の少女に。

しゅばっ

髪の毛が、空を切る。前髪数本、持ってかれた。
でも、それよりも、彼女が一体何をしているか、わからなかった。
「プレセア!? 何を・・・!?」
彼女は無表情で無口で、何を考えているかわからない。でも、こんな事をするような子じゃなかった。どうして・・・?
「どうしたの、プレセア!?」
プレセアは何かに操られてるみたいに、苦しんでるコレットの首に一発食らわせた。
それから荷物みたいにコレットを担いだ。

「ふぉっふぉっふぉっ。良くやった、プレセアよ!」
コレットを受け取ったのは、見覚えのある男だった。確か、プレセアと話をしていた・・・。

「我が名はロディル! 五聖刃の知恵者よ! 再生の神子はいただいていきますぞ!」
「ま、待て! うわ!!」
突風によって、思わず目を庇う。突風の正体は、なんと私達よりもさらに強大な飛竜だ。
救いの塔へ送ってくれた竜とは、比べ物にならないほど大きく、そして凶悪さをかもし出していた。
一体はロディルが乗って、もう一体にコレットを乗せる。

「コレット、コレット―――っ!!」
ロイドが叫ぶ。しかし、その叫び声はコレットには、届かなかった。
「コレット! ・・・も心配だけどプレセア!!」
私はプレセアに駆け寄った。まったく、何も反応がない。怖いくらいに。

ロイド! 鉱石カム!!」
ロイドがうなずいて、私に鉱石を渡す。心配そうなジーニアスを背景に、私は静かにプレセアに抑制鉱石を装着させる。

・・・お願い・・・!

「・・・あ・・・わたし・・・?」
何度か瞬き、彼女の声に感情が宿った。目にも、わずかであるが光。
「わたし、どうして・・・・・・パパッ!?」
思い出したように、プレセアは走った。止める暇を与えずに、自分の家へ。
私達も、すぐに追いかけた。そして、プレセアの悲鳴。

いやあああっ!? どうして、わたし・・・パパ・・・なぜ・・・!?」
「プレセア・・・っ!!」
私は、何も言わず後ろからプレセアを抱きしめた。




―――――――――――――――――――




「パパの埋葬を手伝ってくださって、ありがとうございました。・・・わたし、みなさんに迷惑を掛けていたみたいですね」
「や、プレセアのせいじゃないよ・・・」
自我を取り戻したプレセアは、確かに感情があった。悲しみという名の、深いそれが。
その表情が痛々しくて、私には見ていられない。
感情なんて、なかった方が良かったって思えるくらいの痛々しさだ。

「・・・バカなこと・・・」
ぽつりと呟いて、私は首を振る。
辛いかもしれない。でも、これからプレセアは笑顔を取り戻す。そのために助けたんじゃないか。

「うし! じゃあ、コレットをまずは取り戻そう! まずはそこから!」
「・・・神子を奪われたか」
「そうなのよ。コレットをあのムカつくジジイにさらわれて・・・コレット、大丈夫かな? シンデレラの幸せになる前みたいな扱い受けてないかな?」
わかりにくい例えだな。

・・・って、待てえぇい。

何か、絶対この場にいそうにない人の声が聞こえたのですが。
ぎぎぎぎ、と私は首を旋回するように振り向く。
そこにいたのは―――

クラトス!!
叫んだのは、ロイド。

ななななな、
何で貴様がここにいらっしゃるのでごじゃりまするかっ!?
「・・・何なんだ、その口調は。少しは落ち着け」
ゼクンドゥスが呆れて私に言う。

よし落ち着こう。素数を数えて落ち着くんだ。
「1、・・・3、・・・5、・・・7、9・・は3で割れるから・・・11、13・・・17・・・に19・・・」
よし、落ち着いてきた。

「また出やがったな、クラトス! コレットをどこにやった!!」
ロイドは完全に頭に血が上った状況で、剣を抜き放ち今にもクラトスに斬りかかっていきそうだった。
「落ち着け、ロイド。さあ、一緒に素数を数えよう」
「そ、そんなことをやってる場合じゃ・・・!!」
ロイドが慌てて言うが、私は至極冷静につっこむ。

「ってか素数って意味がわからないのでは?」
「う・・・」
図星かよ。

「・・・ロディルは我らの命令を無視し、何かを画策している」
クラトスが独り言のように言う。
事実、独り言に近い。私はわざと聞いてないフリをするし。ささやかな、嫌がらせ。そして復讐だ。
「それは、我らの関知するところではない。しかし、結局は奴も神子を放棄することになるだろう」
随分、引っかかる言い方だ。私は、ロイドを引っつかみ、口を押さえて黙らせた。また下手なことを言いそうだし。
神子を放棄する。・・・だから、手を出さなかったのか?

「・・・だから、襲ってこなかった」
ぴくり、とクラトスの眉が反応する。
・・・意外と素直なヤツだな。お前って。

「獣は、餌をつかまえたとき、どこに運ぶ?」
「・・・・・・は? な、何だよ、急に」
本当に急だ。私はロイドの口を押さえている手を緩めた。

「わからぬか? ならば、神子は諦めるのだな」
言って、クラトスは去っていった。
・・・何しに来たんだ、あいつ。

「・・・ストーカーか、あの男は」
ぼそりと、小さく呟いてやる。
「それはともかく・・・獣がエサを運ぶって言ったら・・・」
「住処・・・巣・・・か?」
ゼクンドゥスが呟く。

「・・・可能性は高いわね」
「でも、飛竜の巣ってどこに・・・?」
「おそらく空だな。レアバードが・・・必要になる」
言って、ゼクンドゥスはしいなに目をやる。
それはつまり雷のマナがいるということ。

「一旦、ミズホの里に戻りましょう。ここは目立つわ」
まったくだ。
「・・・プレセア、少し聞きたいのだが・・・」
リーガルがプレセアに話しかける。
あ、そーいや何か話したいことがあるって言ってたな。
「君に・・・他に家族は、姉はいなかったか?」
「いえ・・・妹だけです・・・」
少し寂しそうにプレセアは答えた。リーガルもプレセアに気遣ってか、それ以上はつっこまなかった。
「・・・コレット、待っててね・・・!!」
私は自分の意思を確認するように、静かに言った。


クラトスは「ストーカー?」の称号を手に入れた!!
「気が付けば後ろにいる。見守っている。
・・・でも、そんなキャラだったっけ?(BY )」



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