メルキトオの警備は当然ながら厳重だった。ついでに橋も封鎖されてる。
「当然の結果ね」
とはリフィルのセリフ。
・・・そーですね。敵(しかし中ボスレベル)の親玉の本拠地がスカスカなわけないもんね。
「どーしよ・・・これじゃケイトに会えない・・・」
「そーゆー事なら俺さまに任せなさーい!」
「え? 何?」
「ん、こっちこっち」
手招きしてゼロスは城壁に向かってスタスタと、門とは別方向に歩き出した。
「? 何コレ?」
城壁にぽっかりと開いたトンネルがあった。汚水(悪臭がする)が流れているのを見ると・・・。
「あ、もしかして下水路?」
「ぴんぽ〜ん♪さっすがちゃん、冴えてるねぇ」
・・・いや、別に。あんま嬉しくないです。
「・・・ここを通るのかい?」
しいな、と言うか女性陣(コレットとプレセア除く)が露骨に嫌そうな顔をする。無論それは私も含まれている。
「まあ、そう言わないで。メルキトオは夜になると閉鎖されるんでね。良くここから家に帰ったもんだ」
遠い昔を懐かしむように、しみじみと言う。コレットはきょとんして聞いた。
「どうして夜まで帰らないんですか?」
するとゼロスはにんまり笑って。
「教えて欲しい? なんだったら今晩にでも教えてあげようか?」
「ほほう? それは是非とも教えてもらいたいねぇ」
聞き捨てならないそれに、私はにっこりと立候補する。
「ちょっ! !?」
しいなが慌てて言った。ゼロスは、なぜかものすごーく嬉しそうだ。
「おおっ! ちゃん、大胆〜♪」
嬉しそうなゼロスに、私は女神みたいな笑顔を浮かべて言う。
「んん? 手取り足取りと人間の頑丈さと、構造について語り合おうか! ナニ、大丈夫!
骨は折れてもすぐくっつくし、先生いるから大怪我負っても元に戻るし、大出血してもレバー食えばすぐに治るさ!!」
「すいませんでした」
わかればよろしい。
その横でプレセアが。
「・・・敵の気配あり・・・危険です・・・」
と言っていたのに、私はまだ気付かなかった。
―――――――――――――――――――
「ケイト、大丈夫かなぁ?」
「変なヤツだったよなぁ、教皇のことを悪く言ったら怒ったんだぜ?」
「へ? 何で?」
「さあ。でもハーフエルフを貶める頂点にいるようなもんだぜ〜、あのジジイ」
言ってロイドに抱きつくゼロス。ロイドは露骨に嫌がって、暴れた。
下水路でいちゃつくう男二人。ステキな光景だ(そうか?)
「重い! 離れろっ」
「つれないなぁ、ハニーってば」
ロイドのあだ名はハニーかい。・・・しかし、ゼロス。あんたもしかして両と・・・いや、なんでもない。
「あ」
プレセアが声を上げ、暗い天井から人影のようなものが、ひらりと降りてきた。
「うわあっ」
ゼロスの悲鳴。いや、違った。人影のようなものではなく、人そのものが降りてきたのだ。
ゼロスは這いつくばったカエルのような状態で動きを封鎖されている。
「動くな。動けば神子が死ぬ事になる」
言われて、全員の動きが反射的に止まる。よく通った低い男の声だ。
30代くらいの風貌に、青くて長い髪の毛。手錠をしている飾り気のない姿からして、囚人だろうか?
ゼロスは踏みつけられたまま、呆れて言った。
「おいおい、おっさん。神子にこんな事していいと思ってるのか?」
それに男は冷淡に、微かに怒りを漂わせて。
「世界の滅亡を企む者など神子ではない」
んーむ・・・すっかり悪役だな、私達。
「あ、そ」
するとゼロスはロイドの方に。
「お〜い、ロイドくーん! 俺さま見捨てたら化けて出てやるぞ〜!」
「・・・今、猛烈に見捨てたくなったぞ」
何で素直に助けてと言えないかな、キミ。
その刹那、囚人に向かって白刃の軌跡が煌めいた。プレセアだ!
ぶおん、と風を切る音をさせて、斧が閃いた。それを避けようとして囚人は一歩距離をとる。
その隙をついて、ゼロスがさかさかと害虫のように逃げる(すごい言い草だ)
「あー、助かった〜」
「だから抱きつくなって!」
言ってまたロイドの抱きつくゼロス。読者サービス?(違います)
「お、お前はっ!?」
その時、無骨な囚人の顔に驚愕が浮かんだ。プレセアを見て・・・驚いてる・・・?
「くっ・・・なぜここに・・・!?」
・・・? どーゆー意味だ?
囚人は見切りをつけたのか、ひらりとその身に似合わぬ俊敏さで撤退して行った。
私はプレセアに駆け寄った。
「・・・今の人、知り合い?」
「・・・・・・いえ」
無表情で首を振る。嘘ではない、と思う。
「ま、先を急ごうか」
―――――――――――――――――――
精霊研究所。そこにケイトはいる。何でもしいなはここで召喚術を学んで、コリンと出会ったらしい。
それから王立研究所で、くちなわと言う名のしいなの幼馴染と出会った。
典型的な忍者のような格好をしていたから、印象に残った。
ケイトはこっちにいないらしい。サイバックにまだいるそうだ。
ただ、わかったのはプレセアのエクスフィアが色々と特殊な事。教皇の命令でやったという事。それくらいしかわからなかった。
ただ、エレカーにウンディーネの力を付加して、海の上を走れるように改造してくれるのは御の字だった。言ってなかったが、グランテセアラブリッジは封鎖され、サイバック方面に出れないのだ。
そして、私達はなんとゼロスの家に泊まる事になった。
貴族の住む区画は王城、教会の目と鼻の先。
いくらなんでもそんな所に隠れるわけないという常識を逆に利用するものであった。
ゼロス邸宅は、アホみたいに豪華だった。
効果音はどどん! かばばん! ってカンジ。
「お帰りなさいませ、ゼロス様」
出迎えてくれたのは、だいぶ年を取った執事のおじいさんだ。
・・・セバスチャン、って名前が実に似合いそうな人だ。
「おう。何か変わったことはあったか?」
軽い口調でゼロスが聞く。それに執事さんはうなずく
「教皇様と陛下の使者により、神子さまが戻られ次第通報するようにと・・・」
え、マジですか!? まさか、通報されちゃったり・・・?
「あー、それは無視していいからな」
「は、承知しました」
承知されちゃったよ!! いや、すごいありがたいんだけどね!!
「ゼロス様、そちらの方は?」
「俺さまのハニー達」
「どーゆー紹介だ」
スコン、と私はゼロスの頭をチョップ。
ゼクンドゥスなんて、ものすごく嫌そうだ。ロイドが「誰がハニーだよ」なーんてブツブツ文句を言っていた。
男性陣には不人気なあだ名だ。
「・・・それにしても、無駄に豪華だね」
「そりゃ、俺さま貴族だし〜」
へらへらとゼロスは笑った。
「・・・普段の素行からは考えられんな」
ゼクンドゥスがぽつりと言う。否定できないな、それ。
「どーゆー意味だよ、ゼクンドゥス君ー?」
それにゼクンドゥスは涼しげな顔で。
「お前が感じ取った意味そのままだが」
言ってゼクンドゥスは執事さん(本当にセバスチャンって名前だった)の出した湯気の出ている紅茶の入ったティーカップに口付ける。
「本当にすごいね、神子ってそんなにエラいの?」
私が聞くと、ゼロスの瞳に鈍い光が宿った。しかし、それはすぐにころりと明るい笑顔に変わった。
・・・何、今の・・・?
「そうそう。俺さま、神子はねー、王と教皇の次に権力持ってんの」
「・・・ってことは、テセアラ王家で3番目に偉い貴族!?」
「その通り。その下に三大公爵ってのがあって、貴族、平民・・・んでハーフエルフがくるの」
「・・・なるほど」
それにしても奇妙な縁だ。王家有数の権力者と差別されるハーフエルフが一緒に同じ目的で旅をするとは。
「けどさ、ハーフエルフも大変だけど、神子も神子で苦労してんの?」
何気ない質問だった。他意はなかったし、少し気になって言っただけだった。
しかし、ゼロスにとっては心底意外でショックを受けてるようだった。
見たくないものを直視して、怯えるような。喉元に刃を突きつけられたような、恐怖の表情。
決定的な、それでもほんの一瞬だった。見間違いだったのではないと断言できる。
なのにゼロスは笑う。作り物めいた、仮面みたいな笑顔で。
「そーそー!もう大変なのよっ、俺さまモテモテで・・・いや、何度も女の子がケンカしちゃってさー」
「あんた・・・本当にそればっかだね!」
しいなが呆れて言ったが、ゼロスはまた笑って。
「何〜? しいな、もしかしてヤキモチ?」
「な!? バ、バカなこと言うんじゃないよっ!!」
「でっひゃっひゃっひゃっ」
「・・・・・・・・・・・」
私はそんなゼロスとしいなの、会話を見てただ一言だけ呟いた。
「・・・・・・・・・・うそつき」
―――――――――――――――――――
「はあ、どこへ行っても星だけはキレーだねぇ・・・」
平民じゃどれだけ指たてふせをしたって(何で指たてふせ)食べれそうにない貴族の夕飯にお呼ばれして、久しぶりのお風呂に入り、私はバルコニーから星を見ていた。
シルヴァラントほどではないが、テセアラの星空はそれなりに澄んでて綺麗だ。
・・・思い出すな、クラトスの言葉。眠れない夜に星を数えるほど、私はロマンチストじゃないけど。見てるだけで充分だ。
こんこんっ
ノックの音だ。誰だろう。今日はメンバーは全員一人一部屋という豪勢さだ。だから、この部屋には私しかいない。
「どうぞー!」
私が促すと、誰か入ってきた。
「失礼します」
「・・・セバスチャンさん?」
そこには執事のお手本みたいなセバスチャンさんがいた。
「何か用ですか?」
「・・・あなた様に少々とお話が」
神妙な顔と声でセバスチャンさんは言った。
「・・・何でしょう?」
「ゼロス様のことです」
はあ、ゼロス。彼がどーした?
「ええ・・・友人としての意見をお聞きしたいのです」
「はあ、友人として、ですか」
それならいくらでも答えれるよ。異性として答えるのは死んでもやだけど。
つか、ぶっちゃけヤツを男性として意識してみるのは不可能だが。顔はいいけど、性格があれじゃあねえ。
「・・・ゼロス様は、どのような方だと思われますか?」
は? それはまた・・・。
私はちょっと悩んで腕を組んだ。
「んーと、まあ女好きな遊び人? あと、メンドいことは嫌いで・・・それなりに頼りになるヤツ、かなあ?
ああ、女性関係は賭けてもいいけど幅広く浅くがモットーだね。絶対本気になんないの。
それから・・・臆病なのかな。まだ何か隠してる気がする」
それを聞くと、セバスチャンさんは深々とお辞儀をした。
「・・・ありがとうございます」
「へ? そんなお礼を言われるようなこと言いました?」
あんま誉めてないんですけど、よろしいのでしょうか。
「いえ・・・様がとても正直におっしゃられたので・・・」
「あ、あはははー」
それにはちょっと苦笑い。
「・・・ゼロス様はああ見えて情緒不安定な所がありまして・・・。
申し訳ありませんが家族や神子である事に関しての話題は、極力避けていただきたいのです」
「・・・・・・・・・わかった」
私は神妙にうなずいた。
「でも、どうして私に?」
「様がゼロス様の変化に気付いた数少ない人物だからです」
「・・・・・・・なるほど」
ゼロスは作り笑いがうまい。わざとらしいまでに。
・・・でも、あの決定的な瞬間は、私は見逃さなかった。なかなかうまくやってたようだが、私には通じなかったか。
「わかった。・・・ゼロスを傷つけるような真似はしない。努力する」
「ありがとうございます」
セバスチャンさんは一礼して、部屋から出てった。私はその背中を見て、つぶやく。
「・・・でも、恵まれてるよー、ゼロス君」
扉を見て、私はバルコニーに寄りかかる。
ゼロスはある意味で幸せだ。
昔に何があったか知らないが、今の自分をあんな風に心配してくれる人間がいるという事は、本当に幸せで恵まれているのだ。
「大事にしよーね」
言って、私は夜空を見て笑った。
―――――――――――――――――――
海の上を走るエレカーは橋の横に隠してあった。
メルキトオ周辺では目立つから、くちなわがわざわざ運んでくれたのだ。
しいなにお守りを渡して、ロクにお礼を言えないまま去って行った。
・・・まあ、また会えるよね、きっと。
そしてサイバック、エレカーのおかげで楽々と行けた。
そして・・・。
「あなた達・・・!?」
ケイトとご対面だ。彼女は目を丸くして驚いている。
「ふっふっふっ、私たちの美点は必ず約束を守るというのがあってね♪信じてもらえた?」
私がいたずらっぽく笑うと、ケイトは静かにうなずいた。
「ええ・・・わかるわ・・・その二人がハーフエルフね・・・。信じられない・・・」
ケイトは感慨深くジーニアスとリフィルを見た。ハーフエルフ同士はお互いのことがわかるらしい。
何でかはわかんないけど。
「それよりプレセアのエクスフィアは何なのかしら?クルシスの輝石を作ると聞いたけど・・・」
リフィルの問いにケイトはうなずく。
「ええ、私達はエンジェルス計画と呼んでいるわ」
「エンジェルス計画だって!?」
ロイドが思わず声を上げた。それは、ロイドの母親が関わっていた計画だ。
「普通のエクスフィアを使って少し特殊な要の紋を装着させ、エクスフィアの寄生行動を数十年単位に引き伸ばしてるの。
すると中にはクルシスの輝石に突然変異するものがあるわ」
「じゃあ、プレセアは・・・」
「寄生が始まって感情が極端になくなり始めているわ・・・」
「ほおっておくと、どうなるの?」
ジーニアスが不安そうに聞く。
「そのまま・・・死んでしまうわ」
「そんなぁ!」
ジーニアスが誰よりも悲しそうに悲鳴を上げた。
「どうにか助けられないの? 要の紋をつけるとか・・・」
私が言うと、ケイトは眼鏡のフレームを直して言った。
「ガラオキラの森に住んでいるアルテスタというドワーフを訪ねて。彼も同じ研究に関わっているから」
ドワーフと言われて、私の脳裏に優しいロイドの養父の姿が思い浮かんだ。
「みんなっ、早くプレセアを助けてあげようよ!!」
おそらくこのメンバーの中でも、一番プレセアを心配しているであろうジーニアスが声を張り上げた。
無論、彼女を見捨てるわけもなく、私たちはガラオキラの森へと急いだ。
―――――――――――――――――――
ガラオキラの森は不気味であった。
薄気味悪い空気と、巨大な樹木。昼だと言うのに随分と暗く、奇妙な鳥の鳴く声も聞こえる。
「ここには昔、盗賊が財宝を隠して恨み辛みを残して死んだってウワサがあるんだよな・・・」
神妙な口調でゼロスがポツリと語る。それに聞き入っているのはロイドとジーニアスだ。
「その盗賊どもは森に入った連中を見境なく殺す亡霊になっちまった・・・」
それにジーニアスがやけに乾いた笑い声を上げる。
「ま、まさかぁ・・・そんなわけ・・・ねえ、ロイド」
「そ、そうだよな・・・お化けなんているわけ・・・」
そこですかさずゼロスが声を上げる。
「ロイド! お前の肩に血まみれの手がっ!!」
「う、うわあああああっ!?」
ロイドとジーニアスはそろって同時に叫んで、走って逃げてった。
「あ、ちょっと! 2人とも、どこ行くのさ!!」
しかし恐怖に駆られた二人が振り返るなんて出来るわけもなく、走って逃げて(?)しまった。
「今時、赤ん坊でも信じねえぞ・・・こんな話」
呆れと失笑の入り混じった目で、ロイドとジーニアスを眺めるゼロス。それと同じく私も苦笑した。
「それだけ純粋なんだよ、あの二人はね」
イタズラっぽく私が言うと、ゼロスは私の顔をじっと見た。
「何?」
「いや、ちゃんは全然びびらねぇなって思って」
私はそれに、嫌な(某塔の出来事より)こと思い出して、やさぐれたみたいに吐き捨てるような嘲りこめて言い放った。
「はっ、この世で一番怖いのは生きてる人間でしょーよ。その分、死人の方がかわいいね。
喋らないし、視覚的に怖いけど裏切ったり嘘つかないし」
「同感だな」
うなずくゼクンドゥス。ってお前はうなずくな!!(なんとなく)
一転して暗い空気になって、私は慌てて言い直した。
「で、でも、やっぱり生きてる方がいいのよ。やり直せるから」
「・・・そっか」
ゼロスの瞳に、また淋しそうな光が宿る。
・・・・・・・・・何なんだ、あの目は。
「しかし、あの二人はどこまでいったんだい?」
「まったく・・・」
しいなが遠くを見るように手を目の上に当てて、リフィルはため息をつく。するとロイドとジーニアスが待っていた。
「ん? どしたの、二人とも」
「あ、! 見て、コレ!」
ジーニアスが足元を指をさす。暗いが、それが何か即座に理解する。
足跡。それもかなりの数の。
「・・・待ち伏せか?」
「わからない。どうする?」
んーむ・・・どうしたものか。
「じゃあ、コリンを偵察に向かわせよう。おいで、コリン!」
煙と共にぽふんっ、と姿を見せたコリンは尾を振って、森の奥へと駆けた。
ひとまず安心、かな?
ザザッ
葉と葉がこすれあう音がして、何かが姿を見せる。
青い、長髪の囚人。メルキトオの下水路で襲ってきたあの男だ。襲われて踏んづけられたゼロスは大いに警戒した。
「ああ、もう!また、あんたかよっ。今度はお前なんかに踏まれねーかんな!」
そんなこと、ロイドの後ろに隠れて言われても。
「待て、ゼロス。その男は我々と戦うつもりはないようだが?」
ゼクンドゥスが制して言うと、囚人も同意した。
ゼロスは「どうだかな!」と言って男を睨む。相当根に持ってるようだ。
「目的は何だ?」
「・・・その娘と話がしたい」
その視線はピンクの髪の毛の斧をもった彼女に注がれている。
プレセアと?
「・・・話せるかな?」
正直な話、プレセアはエクスフィアの寄生のおかげでまともに話せない状況だ。
別にこの囚人と話すようにしても、私は構わないと思う。完全な悪人ではなさそうだし。嘘をつくようなタイプにも見えないし。
「ダメだよっ! 冗談じゃないっ、ボク達の命を狙ってたくせに!」
ジーニアスはプレセアを守るように前に出た。男は首を横に振る。
「命を狙う?私が命じられたのはコレットと言う少女の回収だ」
言ってコレットを見る。そしてプレセアの首にあるエクスフィアを凝視し、目を大きく見開いて絶句する。
「それはエクスフィア!? まさか、お前も――」
「――ちっ!」
舌打ち一つして、誰の目にも止まらぬ速さで動いたのはゼクンドゥスだ。
首元に手刀を一撃。それだけで男は倒れた。乱暴だが、今は仕方ない。
「・・・気絶させた。事情があるようだな」
「そのようね」
リフィルがうなずく。そして遠くからガチャガチャと聞こえてくる足音。
それからコリンがこっちに走ってきた。
「しいな! 大変! たくさんの兵士がこっちに来てるよ!!」
「・・・仕方ないね」
しいなは少し悩んで、静かに口を開いた。
「みんな、ミズホの里へ案内するよ。ここで戦うのはまずいだろ?」
「いいのかよ。秘密の隠れ里なんだろ?」
そーなのか? 初耳だ。
「状況が状況だからね。そいつも連れて行くよ。ほっとくわけにもいかないからね」
「へーい」
ゼロスがやる気なさそうに囚人の腕をつかむ、が。
「わたしも手伝うね〜」
コレットが片手で男の手を掴み、さらに身体を荷物みたいに軽々と持ち上げる。
プレセアに勝るとも劣らない力だ。コレットは相変わらずニコニコ笑ってる。
「思ったより軽いみたい。わたし一人で運べるよ」
「そ、そう? あは、あはははは・・・」
その光景を見てゼロスが背中に冷や汗流しつつ、乾いた笑い声を上げる。
それにリフィルは唇を吊り上げ皮肉った口調で。
「まったく・・・昨今の男性ときたら。嘆かわしいこと」
私はくすりと笑って、その場から離れた。
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