始めて監禁された部屋はずいぶんと湿っぽかった。
地下だから当然かもしれないが、それ以上に不健康である。
「・・・誰?」
何人かいた研究員一人が聞いた。緑色の髪に眼鏡をかけた女性で、理知的美人だ。兵士が高圧的な態度で返答する。
「黙れ、ハーフエルフ風情が俺たちに気安く話しかけるな!お前は黙って作業を続けていろ!」
それだけ言うと兵士はこんな場所汚らわしいとばかりに出て行った。

「何アレ! カンジ悪ーい!」
ぷりぷり怒って私は去った兵士を罵倒する。なんて失礼な態度なんだ。連れてきたくせにさ!

「・・・神子様? 神子様ですね?どうしてここに・・・」
ゼロスは有名人らしく、理知的美人が疑問を顔に出しつつ口にした。
「まあ、ちょっとねー。んで、あんたは? ハーフエルフってのはわかるけど」
「わたしはケイトと申します。ここで働く研究員です。神子様はどうしてここに?」
ケイトの質問に、私は怒りを込めて答えた。

「濡れ衣着せられたの! 
私は無実だ!
そうだ! 俺達は何もしてない!」
「そうそう、ちょっとシルヴァラントへ帰ろうとしただけだよな〜」
やかましいわ。

しかし研究員、ケイトの視線が私の背後へと注がれている。
「プレセア・・・? プレセアなの?」
「う・・・来ないで・・・」
その無表情が不快感で歪み、プレセアは後退さった。
へ? 知り合い?」
しかもプレセアの様子からして単なる知り合いじゃない。

「へえ。王立研究員のハーフエルフが知り合い、ねえ?」
「? どーゆー意味?」
深みのある言い方に、私は思わず聞き返した。
「王立研究所で働くハーフエルフは研究室から外に出られない・・・一生な。さて、不思議だね」
ゼロスはじっとケイトを見た。

・・・軽そうに見えて、深い奴だ、ゼロス。

「・・・その子は、プレセアはわたし達研究チームの実験体だったのよ」
げぇ!? 
じ、人体実験かっ!

「ど、どんな研究してたの?」
恐る恐る聞くと、ケイトは眼鏡のフレームを神経質そうに直した。

「クルシスの輝石を、人間の体内で生成する研究」
ぶっ! ちょ、ちょっと待てぇい!
いや・・・確かに理論上は可能かもしれないけど!
クルシスの輝石はエクスフィアの上位に位置する代物だ。無機生命体でもあるそれは、人間に寄生する。
要の紋がないと、体内のマナは暴走し・・・怪物と化す。今のコレットや、マーブルさん、クララさんが良い例だ。
そして、逆に言えば、うまく行けばコレットやクラトスみたいに羽が生える。天使にもなれるのだ。
かつて、ロイドのお母さんが関係したエンジェルス計画とは、天使を量産する計画じゃないのだろうかと私は思っている。

ここでもそんな事してんのか・・・ああくそムカつくなあ、オイ!!

「マジかよ?」
「本当よ。エクスフィアと仕組みは同じだから、時間をかけてゆっくり寄生させれば・・・」
ふざけるな!!
ロイドがとうとう怒号した。
・・・その迫力は大したもので、私もビクッとしたくらいだ。

「それじゃディザイアンがエクスフィアを作っているのと変わりないじゃないか!!」
ケイトが眉をひそめた。
あ、そっか。こっちではディザイアンが存在しないんだっけ。

「・・・何を言ってるの? ディザイアン?」
「人の命は何だと思ってるのか、そう言ってるんだ!!」
それにケイトは目を細め、冷たく言った。

「・・・その言葉、そっくりそのまま返すわ。あなた達人間こそハーフエルフを何だと思ってるの?」
そんなの同じに決まってるだろ! くだらない事聞くな!!」

即答だ。

いやあ、ロイド、カッコイイ〜♪ さっすがだね。
その返答がよほど意外だったのか、ケイトは戸惑い、驚いたようだ。

『そいつはテセアラの人間じゃないんだよ』
部屋に響くような、声。

こ、この声は・・・!?

『シルヴァラントでドワーフやハーフエルフと育った、変り種サ』
そして、彼女が姿を見せる!
黒い髪の、召喚術士、しいなっ!!

・・・と、あれ? 何でゼクンドゥスまで一緒?

「しいな!! ・・・とゼクンドゥス。助けに来てくれたの?」
「ああ、こいつがあんた達の事を知らせてくれたのさ」
それにゼクンドゥスがうなずいて。

「神子という監視者がいるのに尾行されては、信頼できるものも信頼できん」
あ、そーいやものすごい良いタイミングで出できたし。尾行されてたのか、私達。
っていうか、気付いてたのねゼクンドゥス。

「あんた達がちょうどサイバックにいるって聞いてね。そこでこいつと会ったのサ」
「少々締め上げればあっさりと吐いてくれたぞ。教皇とやらは王を追いやり、権力を握りたいようだな。
 そのためには神子が邪魔・・・今回の一件でお前を亡き者にするらしい」
「なーるほど。あのタヌキじじいらしいや」
ゼロスが肩をすくめる。命を狙われていると言う事実に驚いた様子もない。
しいなはケイトに向き直り、その目を見据えた。

「あんた・・・一つ言っておくよ。こいつは身分とか種族とかで他人を判断する奴じゃないんだよ」
「そっ! 今からハーフエルフの仲間を助けに行くしねー」

う、うそよ! 人間がハーフエルフを助けるなんてあるわけない!」
・・・この人、よっぽど酷い目に合ったんだろう。しかし私はケイトの目をまっすぐ見て断言する。

「信じる信じないのはあなたの自由。嘘ついてるほど酔狂でも暇じゃないのも事実だけど」
「・・・本気なの?」
私はにっと挑発するように笑った。

「当然! 二人は仲間だから、ね! ロイド」
「ああ!」
そんなやり取りを見て、ケイトはまだ信じられないと言う表情だったが、やがて意を決したように静かに言う。

「・・・わかったわ。わたしがあなた達を逃がしてあげる」
「いいのか? そんな事したらタダじゃすまないぜ?」
それに関しては大いに同感だ。しかしケイトの決意は固かった。

「構わないわ。・・・ただ約束して。もう一度ここにハーフエルフの友人を連れてきて。
 そしたらプレセアを研究体から開放していいわ」
「・・・・・・・わかった」
ロイドは静かにうなずく。ケイトが本棚に触れると音もなく棚が横にずれて、階段が出現した。

急ごう!
「うんっ」
急いで階段を上るが、ゼロスは思い出したかのように足を止める。私も連れられて階段を上りかけて足を止めた。

「プレセアちゃんの研究ってのは誰の命令だ?」
「それは・・・言えないわ」
口ごもるケイトに、ゼロスが目を鋭くして指摘する。

「・・・教皇、だな?」
ケイトは沈黙した。その沈黙が肯定だと物語っていた。

「ゼロス! 早く早くっ!」
「はいはい、俺さまも人が良いねぇ、我ながら!」
私の言葉に苦笑しつつ、ゼロスは階段を駆け上った。




―――――――――――――――――――




「リフィルとジーニアスはもう橋を渡り切ったかなぁっ!?」
「どうだろ? まだギリギリで間に合うよっ。でもこの橋は一部分が跳ね橋になってるからね!」
「どっちにしろ急いだ方がいいねっ。つーわけでゼロス!
 限界までスピードを上げなさい! 
風より速く、メロスのように急ぐんだ!
「急いでますよ、お嬢さま方っ! つーかちゃん、けっこう過激だねぇ」
こんなの序の口! ・・・あ!見えたっ!!」
目標物を発見し、私は顔、いや頭を窓から出した。
限界速度で疾走するエレカーのおかげで、ギリギリながらも追いついたっ!
リフィルとジーニアスの所まであと少し!

「まずいっ、跳ね橋が上がるよ!」
ここで追いつかなければ、もう手遅れだ。徐々に角度を大きくさせる橋を見て、私は吹っ切れた目をして叫んだ。

そのままつっこめ、ゼロスッッ!!
「りょーかいっ!!」
テンションの上がったゼロスは、私と同じ目をして答える。
スピードを落とすことなくつっこんだエレカーは何とか橋を渡り切った。

「俺さま、さいこ〜っ!」
「うん! とりあえず今だけ短い時間、褒めてあげよう! 良くやった、偉いぞゼロス!」
「む、無茶するよ・・・まったく・・・」
衝撃で座席からずり落ちたしいなが、呆れて言った。
そして、誰より早くエレカーから出て、ロイドは慌てふためく兵士に言い放つ。

「二人は返してもらうぜ!」
そして騎士達とのバトル。

しかし、仲間を助ける私達の敵ではなく・・・。
以下省略。

「ロイドォ! みんなぁっ!!」
ジーニアスが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

「ジーニアス、リフィル! 良かった・・・二人とも、無事だったんだね」
気絶して倒れた騎士から失敬した鍵を持って、私は二人に近づいた。
・・・うん、二人とも怪我はないみたいだ。

「助けに来てくれたの? ・・・でも、わたしとジーニアスはハーフエルフなのよ?」
それにロイドは首を横に振った。

「そんなの関係ない。
 大事なのは先生もジーニアスも、ハーフエルフなだけで、何も悪い事なんてしてないって事だ」
「私も同じ。別に純エルフだろーと、ハーフだろーと、クウォーターだろーと二人は二人じゃない。
 今までと何も変わらないよ。二人は私達の仲間、それだけで充分だよ」
ロイドと私が続けて言うと、ジーニアスの目が潤んだ。

「ごめん・・ごめんねっ・・・!
 怖かったんだ・・・ボク達がハーフエルフだって知られて・・・ロイドやみんなに嫌われるって・・・」
「そんなわけないだろ? 大丈夫だ」
そんな微笑ましい二人を見て、リフィルは少し嬉しそうにうなずき、テセアラ組に向き直った。

「あなた達はどうなのかしら? 私達が合流してもいいの?」
「あたしは構わないよ」
即答したのはしいなだ。

「あたしら、ミズホの民はちょっと毛色の違う一族だからね。
 あんた達と変わらないし・・・あんた達はあんた達だろ?」
それにしいなは照れたように笑って、リフィルもつられて笑った。
この二人も最初と違って、結構打ち解けてきたなぁ。

「正直、俺さまはまったく平気ってワケじゃないが・・・」
ゼロスはやや困ったような表情を浮かべたが、やがて苦笑に変わった。
「俺さまも天使の血を引いてるとか言われてるし・・・お互い様だ」
言って、いたずらっぽくウィンクする。美人(リフィルのことだ)に弱い男の性もあるかもしんない。

「・・・わたしは・・・帰りたいだけ・・・」
ぼそりとプレセアが言う。

「ゼクンドゥス、あなたは?」
それにゼクンドゥスは、腕組したまま無愛想に答えた。

「・・・お前達が何者であろうと私には関係ない。
 それに・・・お前達よりハーフエルフを差別する人間の方が気に入らん」
・・・ちょっと人間である身の私達には厳しいお言葉です。正しいだけに。

「・・・ありがとう」
リフィルは優しく微笑した。彼女がこんな風に笑ったのは始めて見る気がした。

「そう言えばしいなは、どうしてここに?」
手錠を外し、自由になったジーニアスが思い出したかのように聞いた。
「副頭領の命令さ。あんた達を監視しろってね」
それにゼロスは納得したようにうなずいた。

「なるほど・・・ミズホの連中は王家につくか、ロイドにつくか検討中ってワケだ」
「何だよ、その言い方。あたしはロイドたちをどうこうしようなんて、これっぽっちも考えてないよ!」
「それは私たちが一番良くわかってるよ」
本当ならコレットに相槌を打ってもらうつもりだったが、まだ話せない事を思い出して言葉を止めた。

「まずはレアバードをなんとかしなくてはダメね。
 雷のマナがあればいいから・・・雷の精霊ヴォルトと契約してもらえば補充できるわね」
ヴォ、ヴォルトだって!?
飛び上がらんばかりの勢いで言ったのはしいなだ。

「? どしたの、しいな?」
「あ、それはいいんだけどさぁ・・・」
ゼロスが挙手して提案した。

「まず先にレアバードを回収しようぜ。こっから近いしさ」
「え? でも四機もあるし・・・無理じゃない?」
「大丈夫、俺さまに任せなさ〜い!」
そんなゼロスの提案により、一行はフウジ山岳へと向かったのだった。




―――――――――――――――――――




「で、どうやって運ぶの?」
「おう、こっちこっち」
言われるままに近づくと、なぜか全身を悪寒が覆った。

・・・・・・イヤな予感。

「うわっ! 何だ!?」
オレンジ色の光が走って私たちを取り囲んだ!
いや、・・・違う。約一名だけ外にいる。コレットだ!

「まんまと罠にかかったな、愚か者!」

ぎゃあああああぁっ! 出たーっ!!
色気とかまったく感じられない悲鳴を発し、私は脊髄反射の勢いで後退する。
私をここまで怯えさせるに相応しい変態男、そう、ユアンである。
シルヴァラントにいたくせにこの男は・・・!! 筋金入りのストーカー根性だな!!
その粘着質は、きっとスライム以上だ!!

「愚か者、だとさ」
ロイドの皮肉げな一言で一点に咎めるような視線が集まった。
「・・・ゼロスくん・・・ドジです」
無口なプレセアが珍しく口を開いた。

「え!? 俺さまのせい?」
しかし、プレセアはそれ以上語らず、原因であるゼロスに背を向けた。
目は口ほどにものを言うというが、プレセアの場合は背中でそれを物語っている。

「・・・俺さま、しょんぼり」
言ってがっくりするゼロス。
自業自得?

「おや、ユアン様ではありませんか」
女の声がした。どこから姿を見せたのか、派手な女だ。化粧が濃い。
露出の高い水着みたいな服を着て、周囲にはダイヤみたいな形の盾がふわふわと宙を舞っている。
その、青い口紅を塗った口からは、わざとらしいまでに丁重な口調が紡がれる。

「プロネーマか・・・なぜここにいる? お前達、ディザイアンは衰退世界を荒らすのが目的だろう」
それにプロネーマとかいう女は淡々と答えた。

「私はユグドラシル様の勅命にてコレットを追って参りました。よろしいですか?」

全ッ然よろしくないわ!

しかしそんな私の声が聞かれる事などないので、ユアンはしばし思案してコレットを見た。
「・・・いいだろう。しかしロイドは私が預かる」

やめんかああああああぁぁぁっ!!
 ジーニアス、プレセア、
見ちゃダメです、見てはいけませんロイドもボケーッとしてないで、逃げなさい!!」

ぅおのれい、まだ諦めていなかったのか、このど変態さんわっっ!!

それに呆れたようにプロネーマが。
「・・・やかましき小娘よのぅ」
じゃあっかあしいぃっ!!
 
友人が男、もとい同性につけ狙われ、あまつさえそいつがメチャクチャ関わりたくねーヤッベーやつに襲われかければ、心配して口煩くなるわ!!
しかも、一度面と向かって「お前が欲しい」と発言した前科もある!!

その私の叫びにやや顔をしかめるユアン。プロネーマはため息をつくとコレットに向き直った。
「・・・なんと、このような粗雑な要の紋をつけるとは。取り除いてくれるわ」
「コレットに触んないでよ、この
おばはん!
おばっ・・・!? 劣悪種の分際で、今何と・・・!?」
をを、ノッてきた♪
私は調子に乗ってさらに言った。

「おばはんが嫌なら、ババアでどうよ? それとも年増かしらあ?」
それにプロネーマはひくひくと反応した。・・・が、すぐさまコレットに向き直る。

コ、コレットに触るなっつってんだろ! この大年増のお局ディザイアン!!」
私の反応を見て、プロネーマはしてやったりとにんまり笑った。

「ホホホホホ、なるほど。この娘が貴様の弱点か」
勝ち誇った笑みを浮かべ、プロネーマはコレットの要の紋に触れ・・・。

「コレット!」
やめて!

・・・へ?

「コレはロイドがわたしにくれた誕生日プレゼントなんだから!」
「・・・声が・・・出た?」
戻った? 戻ったのか!?コレット!!

「み、みんなぁ! あのねっ・・・わたしっ・・・!」
「コレット、後ろぉ!」
嬉しそうに何か言おうとするが、背後からプロネーマの魔の手が迫る!

「きゃっ!」
コレットの羽から光が放たれる!
多分、エンジェルフェザーとかの応用技だろう。そして勢いあまって尻もちをつく。
すると尻もちついたところから煙がぶすぶすと上がる。
「ああ! どうしよう〜、壊しちゃった・・・」
煙を合図に光の格子は消えて、晴れて自由の身となる私達。

上出来よ、コレット!
言って親指をおっ立てて、晴れ晴れとした笑顔を向ける。そしてゼロスはぱちんっと指を鳴らして。
「やるねぇ〜、コレットちゃん! 俺さま、惚れちゃいそう〜♪」
しかし喜ぶ一行とは別に、なぜかしいなが暗い顔で。

「・・・悪夢が蘇るよ・・・」
オサ山道でよほどロクでもない目にあったしいなは、肩を落として嘆息した。

「ロイド、ごめんねっ!
 いっぱい迷惑かけて・・・・すごく嬉しかったのに・・・・あの時はどうにもならなくて・・・」
「いいんだよっ、そんなこと!」
「コレット、本当に戻ったの? 私の事わかる? 変なトコとかない?」
「ううん、平気。でもちょっと寒いかな・・・」

え? 寒い?

「・・・って事は五感が戻った!?」
すごいすごい!!
私はコレットが戻ったのが嬉しくて、自分の事のようにはしゃいだ。

「おのれ・・・このような下賎な輩に・・・!」
下賎とは失敬な! ちゃんとした正当防衛だっ!!」
不意打ちくらったプロネーマがよろよろと立ち上がる。私はそれを見て挑発するように鼻で笑った。

「ま、年増だし仕方ないかもしれないけど?」
小娘がっ!
「ふんっ! ついでにユアン、あんたも一度ぶちのめされなさい!
 ロイドが欲しけりゃ私の屍を越えていけ!!」
高らかに私が宣言すると、ユアンは私を、ロイドを睨んで一笑した。

「フッ・・・言ったな? 後悔することになるぞ!」
言ってユアンの背から光の羽が生えた。
まさか、こいつもクラトスと同じ・・・!?

「! あんたも天使・・・!?」
「だとしたら何だ!ロイド、貴様は力ずくでも我が物にしてくれる!」
「誰がだ! お断りだ!!」
ええい! 真性の変態さんめ!!」
さっきの私の屍を越えていけ発言を後悔しかけたぞ! うわ、鳥肌。
私はナイフを引き抜こうとした。が、やめた。

そこには、音もなく降り立った、青い羽の天使。
コレだけ聞くと、
幻想的に聞こえるから人間の耳って不思議。

そう、そこにはトマト嫌いの(認定済み)裏切り者、クラトス=アウリオンが!!
ただし、ツバメ・・・いやゴキ・・・すいません。冗談です、石を投げないで。
では改めて。
ただし、黒いあのマントではなく、革ベルトを何度も巻きつけたコスプレイヤー泣かせな衣装であった。

「貴様・・・何をしに来た!?」
え? ユアンとは顔見知り?

「ユグドラシル様からの伝言だ。至急戻れ」
なんとも端的な伝言だ。
それにユアンは顔をしかめた。

「・・・神子はどうする?」
構えていたダブルセイバーを収め、静かに聞く。
「例の疾患だ。神子は一時、捨て置く」
それにユアンは納得したようにうなずいて。

「そうか、ロイド。勝負は一時預けたぞ」
いや、出来ればもう二度と身体を賭けた戦いなどしたくありません。ごめんこうむります。
それだけを言うとユアンは去って行った。ついでにプロネーマもクラトスに一礼して去ってった。とりあえず安心。

「くそ! 待て、ユアン!!」
「絶対に追うんじゃない、ロイド! 
ヤられるぞ!!
何をヤるかは心のくずかごに捨てておいて。
私はロイドをいさめた。深追いはあかん、それも飛んでる相手だと余計に。

「・・・・・・お前は何をしている?」

・・・・・・・・・・・へ?

そう言ったのは、クラトスだ。
「わざわざ時空を飛び越え、今、何をしているのかと聞いている」
「決まってるだろ! コレットを助けるためだ!!」
しかしクラトスの口調は変わらずに皮肉そうだ。

「神子を助けてそれでどうなる。結局、テセアラとシルヴァラントの関係は変わらぬ」
ぐ、裏切り者のクセに正論を・・・。でも・・・。

「この世界をユグドラシルが作ったならどうして・・・!?」
思わず疑問が口から漏れた。どうして、どうしてユグドラシルはこんな風にしたのか。
互いを犠牲にし合わなければならない世界。
と、同時にまた疑問が湧き上がった。

「・・・・いや、クラトス、その前に二つほど疑問」
「何だ?」
この様子からして、もしかしたら答えてくれるかも。もう手段は選んでられん。私はダメで元々、思い切って聞いた。

「とりあえずクルシスとディザイアンがマーテルを復活させたいのはわかった。
 ・・・んで疑問その1。どうして、マーテルを復活させたいの? そして疑問その2。マーテルってそもそも誰?」
そう、神子のシステムはまさに文字通りマーテルためだけのもの。
クルシスはどうしてマーテルを復活させたいのか。
そして天使がハーフエルフなら、女神だってハーフエルフかもしれない。

・・・実在した人物なのかもしれない。

クラトスの目に珍しく動揺が灯った。・・・図星、か。

「私からももう一つ聞こう」
ずずい、と今まで忘れられてきた(オイ)ゼクンドゥスが前に出る。
「この世界、いやテセアラとシルヴァラントに大樹カーラーンが存在しないなら、このマナはどういうことだ?」

・・・あ! そーいやそーだ。マーテル教では勇者ミトスの魂がマナになったとか・・・。

「何言ってんだい!勇者ミトスの魂がマナになったんだろ?」
しいながゼクンドゥスの質問に口を挟んだ。それをゼクンドゥスは鼻で笑った。

「勇者であろうと、それは「人」だ。エルフであろうとハーフエルフであろうと死んでマナになるなど有り得ん」
「・・・だね。もし、そうならマナの搾取なんてする意味ないし」
私もうなずく。クラトスは何も答えない。しかし、それは逆に私達に答えてはならない問いなのだと物語っていた。

「ユグドラシルとやらがこの世界を作ったのなら、奴の都合の良い様に世界が作られていても不思議ではない。
 ユアン、だったか。アイツは言ったな。この世界が、奴には都合のいい世界なのだと」
「だったら、マーテル教の教えだって信用できない」
私とクラトスの目が合う。さあ、何か言え!

「・・・ふっ、せいぜい頑張る事だ」
言うとクラトスは宙に浮かび、空に姿を消した。

「・・・本当に伝言して帰っちゃったよ」
戦わず去って行ったクラトスを見て私は呟く。

「すかした奴だなぁ。何者?」
「元仲間、いわゆる裏切り者」
さらっと私は答えた。ロイドが少し暗い顔をする。

「あ! ねえ、さっきのおばさんってアスカード牧場の投影機に移ってた奴だよ」
「とゆーことは、やっぱクルシスとディザイアンはグルか。あれ?でも何でユアンが・・・」
あいつはクルシスと敵対してるんじゃなかったっけ?本人も自称してたのに。

「ねえ、コレット。他の感覚も治ったの?」
「うん! ちょっとお腹空いたよ〜」
おお、それは良かった。

「やっぱコレットちゃんが笑ってるほうがかわいいね〜♪」
上機嫌にゼロスが言う。それについては同感だ。

「さて・・・これからどうしましょう」
「決まってるさ」
ロイドはうなずいてコレットを見た。

「もうコレットみたいな犠牲者を出さずに、テセアラとシルヴァラントを救ってみせる!」
「うん・・・そうだね」
コレットが優しく微笑む。

「あ、その前にケイトに会おうよ。約束したじゃん」
ロイドはうなずき、私はちらりとプレセアを見た。
・・・まるで人形のような仮面めいた少女だと、私は改めて痛感した。
私達はメルキトオに向かう。そこに何が待っているか、知りもしないで・・・。



BACK
NEXT
TOP