「あー、死ぬかと思った」

墜落して第一声がこれである。いや、だって本当に死ぬかと思ったし。墜落した場所はフウジ山岳という所だ。
レアバードはエネルギー不足で、ここに置いておく事にした。目指したのはテセアラの王都、メルキトオだ。
意外と近く、すぐに着いた。パルマコスタよりも大きい。壁で囲まれて、中央部にはこれまた大きな城があった。

「大きいなぁ・・・」
町並みに見入っているとしいなが暗い顔をした。

「悪いけど、あたしはここで別れさせてもらうよ」
「え?」
意外気な一言に、しいなは苦笑しながら説明した。

「忘れたかい? あたしはコレットの暗殺に失敗したんだよ。頭領に報告しないと」
「ここにはいないの?」
「ああ。あたしはミズホの民さ。普通にここで暮らしてるヤツとは、ちょっと違うんだ」
「でもさー、失敗したって報告したら・・・」

やっぱ任務失敗したら怒られるんだろうな。謹慎処分とか、何か言い渡されるのかな。
私はじいっとしいなを見つめた。それに、またしいなは苦笑する。

「大丈夫だよ。それとこれを・・・」
しいなはロイドに手紙を渡した。

「国王陛下にこれを渡すといいよ。あたしから、って言えば謁見できるよ」
「ありがとう。また会えるんだろ?」
それにしいなは顔を赤らめて。

「会えるかもしれないし、会えないかもしれない。・・・じゃあねっ!」
しいな!!
私は立ち去ろうとするしいなを呼び止めた。しいなが振り向く。

またね!
すると、しいなは微笑んだ。

「ああ、・・・また!」
しいなは、名残惜しそうに去って行った。




―――――――――――――――――――




私達は寄り道せずに、まっすぐにお城に向かった。
観光したいという気持ちもあったが、今はコレットの方が何倍も大事だ。すたすたとお城へ向かう。
街の中心にあるので、わかりやすい。迷う事はない。
階段を上がり、石畳の広場に出る。ベンチや花壇など、きちんと整備されている。

「おっと・・・」

どんっ

コレットが目を離した隙に誰かにぶつかった。
ぶつかったのは派手な男だった。赤いウェーブのかかった髪に、切れ長の藍色の瞳。美形である。
今まで会ったタイプではない。今まではクールビューティな感じの人しかいなかったからな、私。
この男を言い表すなら、きっと優男の二文字である。もしくはナンパ兄ちゃん。
ぶつかった無愛想なコレットに向かって、これ以上ないくらいの微笑を向けたが、当のコレットは当然というか何というか無反応だ。

そして、その周りにいた女がなぜか吠えた。

ちょっと! ゼロス様にぶつかって何よ、その態度!!」
「そうよそうよ! お祭りでもないのに天使様の格好なんかして!!」
天使、ねぇ。一応は本物なんだけど。

事実を指摘され、私はちょっと苦笑する。きゃんきゃんと犬のように吠える、ドレスで着飾った女達を囲っている、その中央にいる男――ゼロスと言うらしい――は女達をいさめた。

「まあまあ、おさえておさえて。俺さまのかわいいハニー達ぃ〜♪」
ゼロスというナンパ男の言葉に、うっとり聞き入る女三人。
女三人集まれば姦しいと言うが、やかましいの間違いだと思う人間は私だけではあるまい。
ロイドとジーニアスの二人が「うげ、何だコイツ」という顔をしていた。リフィルは「もう・・・」と呆れ、ゼクンドゥスに至っては興味ないのか腕を組み無表情だ。

「そっちのクールな彼女〜♪ケガはなかった〜?」
歌うように言うゼロス。それにコレットはまたまた無反応。
・・・私はこの男、ユアンとは別の意味で苦手かもしんない。

んまあああああっ!!
うわっ、何だ!?

「ゼロス様が声をかけてくださったのに無視!?」
「信じられない! このブス!!」
ンな事でいちいち騒ぐなよ・・・
ホントにやかましい女どもだな。

「何だって! 誰がブスだよ!?」
ジーニアスがずい、と詰め寄る。しかし、意外にもそれをいさめたのはロイドだった。
「やめとけ、ジーニアス」
そして、ロイドは
後世に伝わるくらい素晴らしい発言をしてくれた。

「こいつらの家にはきっと鏡がないんだ」
ロ、ロイドーっ!? ロイドが・・・テストで(ピーッ!)点だった、あのロイドが・・・人に嫌味を言った!?
良く言った! 天国のお母さんは(きっと)喜んでるわ、
偉いぞ、ロイド!!
けれど、私は彼らのいさめ役。一緒にはやし立てたいところを、ぐっと理性で我慢する。
もちろん笑いを堪えるのも忘れない。

「ダメだよぉ、ロイドー? そんな本当のことを・・・いやいや、そんな事実とは無縁っぽいこと言っちゃあ・・・」
こみ上げてくる笑いを抑え、私は二人を制した。いかん、本音がもれた。
つーか、本音が最後のほうにそこはかとなく残ってる。

キーっ! 何よ、あんた達!!」
「ひどい侮辱だわ!!」
「へえ? じゃあ、初対面の女にブスって言うのは侮辱じゃないんだ?」
私は世にも邪悪な顔を浮かべ、言い返してやる。もはやいさめ役なんざ、知らん。

「自分のことを棚にあげて、言い返されて、それに腹立ててんじゃねーよ。このドブス」
「な、何ですって!?」
「ちっ、聞こえないの? そ・れ・と・も、メス豚って言ったほうがお気に召したかしら?」
ははははははっ、売られたケンカは買ってやるさ。

「落ち着けって〜。ねえ、彼女〜、怒ってるのかな?
 君、笑ったらきっとひまわりみたいに、キュートなんだろうなぁ」
すると男は馴れ馴れしく、コレットの肩に手を伸ばした。しかし、その手を逆につかまれ、ほおり投げられる!

きゃーっ!
わーッ!!

取り巻きの女どもが悲鳴をあげ、ついでに私も別の意味で悲鳴をあげる。
しかし、男は空中で体勢を整えて、何事もなかったように着地した。
・・・オイオイ。あ、良く見れば彼もエクスフィアを装備しているらしく、きらりと胸元のそれが光った。

「いやー、驚いた。天使ちゃん強いねえ、俺さま超びっくり!」
そしてまたコレットに近寄ろうとするが、腕がそれを阻止した。ゼクンドゥスだ。
彼がコレットを守るように立ち塞がり、男を睨む。ゼロスは口笛を吹いた。

「これはまた・・・美しいお姉さまだ」

ぶっ!!

私は思わず吹き出した。ちょ、ちょい待て。この男、ゼクンドゥスを女だと思ってるのか!?
私はちらっとゼクンドゥスを見た。中性的な顔立ち、線の細い輪郭、そしてバカみたいに大きなマント。

・・・・・・まあ、わからんでもないか。ゼクンドゥスは見ての通り中性的な顔出し、羽織ったマントで身体のラインはわかりにくい。うまい具合に喉仏は隠されてるし、黙って微笑めばかなりのものだろう。私より頭一つ分大きいけど、・・・声を聞かねば彼を男とは気付かんだろ。

ゼクンドゥスは五秒ほど、マヌケな顔して固まった。私はその時の彼の顔を永遠に忘れないだろう。呆然として、信じられないと言いたげな顔。そして、瞬時に顔が怒りで染め上げられる。私は止めない。

「う・・・くくくっ・・・あはは・・・あはははははっ!!」
私は耐え切れず大声で笑った。涙が出てきた。ツボにはまっちゃいましたよ、奥さん!
男はきょとんとして、ゼクンドゥスが私につかみかかった。

「貴様っ・・・!!」
あははっ・・・! ご、ごめん、ごめん! でも、・・・あはははははっ・・・!!
プライドの高さを刺激して、さらにゼクンドゥスの怒りが煽られる。

「笑うな!」
無理っ! いやっ、おにーさんナイス勘違い! 面白いよっ!!」
黙れッ!!
とうとうゼクンドゥスは実力行使に来た。私の身体を羽交い絞めにして・・・ってヤバいだろ!!

「あ、ちょっと! 花の乙女に何を・・・って痛い痛いっ!! 
折れる折れる折れるってばーっ!!
「・・・えー。ナニ? つまりそっちのお姉さまは・・・」
男はおそるおそると聞いてきた。

「ゼクンドゥスは男だよ」
「私のどこを見れば女に見えるのだッ!?」
色々(オイ)

男はものすごぉーくショックを受けていたが、すぐ立ち直り(早いな。この間1コンマとかかってないぞ)今度はリフィルに声をかける。

「ゴージャスでお美しいあなた、お名前は?」
「人に名前を尋ねる前に、まず自分から名乗るのではなくて?」
リフィルが面白がるように言う。後ろでジーニアスとロイドが。

「あ、ロイドの真似っこ」
「他人が言ってるの聞くと偉そうだよなぁ・・・」
それに関しては同感だ。

「おっとぉ! 俺さまをご存じないとは・・・俺さまもまだまだ修行不足ってことかな?」
どーゆー修行だ、それわ。
すると取り巻きの女たちが騒ぎ始めた。ぴーちくぱーちく騒ぐ姿は、まるで鶏のようである。決してヒヨコではない。そんな可愛げなどない。

「ゼロス様、行きましょう!」
「そうですわ、どうせオゼットから来た田舎者に決まってますわ! ああ、やだやだ」

・・・ちっ、この雌犬どもがっ!!

私の胸の内に煮えたぎるそれに、まったく気付いていない男はやれやれと方を落とし、私達に挨拶する。

「わかったよ、それじゃゴージャスなお姉さま♪
 クールな天使ちゃんに可愛いお嬢さん、そのほか大勢さんよ〜♪」
「・・・・・・・・・」
去っていく男をゼクンドゥスが睨む。美しいお姉さまから一気にクラスダウン、いやクラスチェンジか?

「ニヤニヤしちゃって・・・バッカじゃない!」
その他大勢扱いされたのが気に入らないらしく、ジーニアスがぷりぷりと言った。
私はゼロスとやらの言葉を思い出し、疑問に思ったことを口にしてみた。

「ねえ、ロイド、ジーニアス」
「ん?」
「・・・可愛いお嬢さんって私の事かな?」
それにロイドとジーニアスは顔を見合わせて。
「・・・そうなんだろ、きっと」
「・・・そうなんでしょ、多分」
と、同時に言った。・・・怒るべきなのか、これは。




―――――――――――――――――――




「さて・・・どうする?」
城には入れなかった。陛下は病気らしい。・・・ちっ、それぐらい気合で何とかしろよ、国王!!(無理だ)
兵士には教会言って祈って来いと言われたが、祈って病気がなくなるのならエイズなんてなくなるわ。

「うーん・・・」
唸る三人。
さて、どうするか・・・。

ずずず・・・ごごご・・・

うん? 何だ、この音。何か重いものを引きずるような・・・。

振り返ると女の子が片手で、太い丸太を引きずりながら教会から出てきた。
桃色の髪を二つ結びした、ひどく無表情な女の子だ。少しだけ今のコレットと似ていると思った。

「プレセア!」
すると広場の方から太った中年男が、その子に話しかけた。ふと視線を外すと、ジーニアスがほうっ、と顔を赤らめていた。
・・・あえて何も言うまい。

「陛下の祈祷は寝所で行う予定だ。城へその神木を運んでくれ」
「・・・わかりました」
プレセアと呼ばれた女の子はうなずいて、その丸太を引きずりながら城へと向かった。

「・・・・・・・・・かわいい」
「へ? あの丸太がか?」
「違うわ」
ぽつりと呟くジーニアス。それにロイドがあんまりにも的外れな事を言うので、思わずつっこんだ。

「今の子、エクスフィアをしてたな。あのゼロスってやつもだけど」
「うん、そうだよね。かわいいよね!」
「え!? あのゼロスってヤツがか!?」
だから違うって
何やら言葉と言う言葉が耳に入っていない様子のジーニアス君。
天然にボケるロイドに、さらに今度はシュビっ! と手つきでつっこんだ。

「なるほど」
リフィルはプレセアを見てうなずき、言った。
「これは好機よ。あの子に頼んで、一緒に城に入れるようにしてもらいましょう」

う、うん! 賛成っ、大賛成!!」
「どうしたんだ?ジーニアス、顔赤いぞ。風邪か?」
いや、春が来たんだ。青い春が、ちょっぴり早く。

「あ、あの・・・! ねえ、君、プレセア!」
名前を呼ばれると、プレセアという女の子はぴたりと足を止める。
「あの、ボク達に神木を運ぶのを手伝わせてくれないかな?」
じっと、プレセアはジーニアスを見て、わずかな間の後にうなずく。

「・・・わかりました、それ、運んでください」
任せとけ、とロイドとジーニアスの二人が丸太を持ち上げようとする。だがしかし。
「ちょ・・・!? 待って、これ重い・・・!!」
その声を聞くと、プレセアは無表情なまま、ずりずりと一人で丸太を運んでいった。それも片手で。
後ろの方で置いてかれたジーニアスとロイドは。

「何か・・・俺、自分がすげー弱いって思い知らされた気がする・・・」
「・・・うん、そうだね・・・」
と、寂しく呟いていた。




―――――――――――――――――――




「しっかし・・・どーして時の権力者とゆーものは、無駄にデカい建物を建てるのかね」
「己の権力を誇示したいのだろ」
豪華なお城の中で、私はさらりと無礼なことをほざいてみる。ゼクンドゥスはそれに律儀に正論を述べてくれる。
神木は入ってすぐのところに放置しておき、現在王の寝所を探している。プレセアには今いなくなると不自然なので、もう少しだけ付き合ってもらう。
「広いな・・・一体寝所はどこに・・・、って・・・ゼクンドゥス?」
すたすたとゼクンドゥスは我知った顔で階段を駆け上る。

「おいっ、どこへ行くんだよ?」
「・・・城は何のために作られたものだと思っている」
「へ?」
いきなりな質問に、ロイドと私はきょとんとした。
「城とは王を守るものだ。その王を守る、一番安心でき一番攻めにくい場所と言えば、一つしかあるまい。
 つまり・・・」

ゼクンドゥスはかつかつと靴音をたてて、階段を上がって、私たちもそれに続く。
そして、豪華な装飾のついた扉の前に着く。ゼクンドゥスは、それを何の躊躇もなく一気に開けた。
広い部屋である。文字通りのキングサイズベッドには、王冠をかぶった男が一人。
その横にいる美人なねーちゃんは姫様、王女だろう。
そして、派手な司祭とそのリーダー格らしき、さらに華美な司祭。
さらに、なぜか広場で出会ったゼロスがいた。

「あれ、お前ら・・・」
驚いたようにゼロスがこっちを見てきた。私達もきょとんとした。
「神子、お知り合いですかな?」

へ?

「み、神子ぉ?」
ジーニアスが胡散臭げにゼロスを見た。私も改めてゼロスを見る。
・・・なるほど、神子って男でも構わないんだよね、巫女と違ってさ・・・。
んでもって、彼がウワサのアホ神子(しいな命名)か。
呆然とゼロスに見入っていると、ゼクンドゥスがロイドをつついた。ロイドは意を決したように手紙を取り出した。

「王様、俺達はシルヴァラントの人間です。ミズホの民、しいなから手紙をあずかってきました」
「衰退世界の人間だと!?」
ゼロスがぴくりと反応する以外、全員が顔を驚愕でゆがめた。
・・・約2名ほど出身地不明ですが(私とゼクンドゥス)

「しいなと知り合い?」
「俺達は神子の護衛なんだ。しいなとは、まあ色々あって・・・」
するとゼロスは納得したように腕組した。

「で、ではシルヴァラントは再生されたのか!?」
私はそれを首を横に振って否定した。

「いいや、ギリギリの所で中断した」
「・・・ふむ。目的はその神子を元に戻す事か」
手紙を読み終え、王がこちらに向き直った。
「はい、そのためにテセアラの技術を借りたいのです」
リフィルが冷静に言う。
「なりませぬぞ、陛下! 衰退世界の神子を救うなど、なりませぬ!!
 ここで殺してしまいましょうぞ!衛兵!!」
その一言で衛兵が雪崩れ込んできた。ええい、人の話を聞けよ!!

「ちっ、これだから馬鹿は困る・・・」
ゼクンドゥスは舌打ちして、私達を庇うように前に出た。そして衛兵たちを睨みつけた。
衛兵達は気圧されたように、圧倒される。

「痴れ者が。下がれ、王の御前を貴様らの血で汚す気か?」

ぞくっ

怖ッ!!
今のセリフって衛兵達に向かって言ったんだよな・・・10人近くはいるのにどこから出るんだ、その自信。
つーか鳥肌たったぞ、寒くもないのに!
そして、衛兵達はおろおろと立ち止まる。美形の睨みつけは怖いのだ。

「まーまー、落ち着いて、教皇様。そっちのおにーさんも」
「・・・フンッ」
いや、ゼクンドゥスは常に落ち着いているような。

「では、取引しませんこと?」
「取引だと?」
挑むようなリフィルの口調に、教皇と呼ばれた中年親父は興味を示した。
「ええ、彼女が心を失ったのは、天使として生まれ変わりシルヴァラントを救うため。
 逆に言えば彼女が天使にならず、元に戻ればシルヴァラントは・・・」
つまりそれは、シルヴァラントを見捨てると言う事。

「しかし、それはシルヴァラントを見捨てると言う事になるが?」
「構わなくてよ」
先生!

ぎゅりっ!!

ロイドが何か言おうとするが、私が体重全部をかけて踏みつけて遮ってやる。
――――っ!!
「少し静かにね、ロイド♪」
とりあえず、今は話をややこしくするので黙らせる。

「では・・・さらに条件を出そうか」
ゼクンドゥスが教皇を挑発させるように言う。その目には何故か嘲りと嫌悪があった。
「クルシスの天使がハーフエルフである話を、一切口外しない。それでどうだ」

ピシャーンッ

周囲の空気が一気に張り詰めて、冷たいものへと変化する。
「断ればどーするんだ?」
ゼロスは切れ長の瞳を細めて、ゼクンドゥスを睨む。

・・・なるほど、しいなが言ってたな。テセアラ王家、と言うかテセアラ全体はハーフエルフを差別しているって。
一方でハーフエルフを迫害し、もう一方でハーフエルフを崇めていた。
そんな事を言いふらせばどうなるか。少なくともロクでもない事態になるだろう。
つまり、ゼクンドゥスは最終勧告をしているのだ。協力しろ、と脅していると思ってもいい。
ゼロスの睨みにゼクンドゥスは嘲り笑う。

「どうなるのかは、おまえ達の方が良くわかっているだろう」
ご、極寒のブリザード吹き荒れる北方地域か、ここわ! 寒いぞ、まぢで。

「信用できませぬ! このような連中!!」
するとゼロスがやれやれと肩を落として、割って入る。何か言おうとするが、それより早く私が口を挟んだ。

「じゃ、そっちが代表出してさ、監視でもつければ?」
そう言うとゼロスはなぜか目が合って、ウィンクを飛ばされた。
「いいねぇ、それ。俺さまが監視するのに立候補。それでいいよな、教皇様?」
疑問系だが、有無を言わさぬ強引さがそこにはあった。

「・・・そこまで言うのなら・・・」
ゼロスは、笑みを崩さず国王に向かって優雅に一礼する。
「では陛下。俺さまは衰退世界の神子一行の監視の任に着かせていただきますね」




―――――――――――――――――――




「いよっ!お待たせ〜♪」
軽薄そうな声がして、私達は振り返る。男一同は、何か疲れた顔をしているのは気のせいではない。
それより、私はきょとんとして、ゼロスの後ろにあるそれに凝視した。

「それ、何? 車?」
「あ、これ?これはエレカーっつって、これでサイバックまで行くんだ。そだな、今日中に着くと思うぜ」
「・・・魔科学の産物か・・・」
眉をひそめてゼクンドゥスがつぶやく。私は大事な事を思い出して、ぽんっ! と手を打つ。
「あ、そだ。自己紹介してなかったね。私は。んで、こっちがリフィル、その弟のジーニアス。
 神子のコレット。赤いのがロイドで、この無愛想なのがゼクンドゥス」
何やら無言でゼクンドゥスに睨まれた気がしたが、気にせず続ける。

「この子はプレセア。ついさっき知り合ったばかりで・・・」
「んー、OKー、OKー。
 こっちのゴージャスな美人がリフィルさまで、天使ちゃんがコレットちゃんで、クールなのがプレセアちゃん。
 ステキな自己紹介をしてくれたのがちゃんね♪ 野郎3人も覚えた覚えた!」
ステキな自己紹介か・・・?
しっかし、ものすごいわかりやすい女尊男卑な思想の持ち主だな・・・。

「えっと、ゼロスっだっけ?」
ちょっと嫌そうにジーニアスが話しかける。
「ん? ああ、そっか。まだ言ってなかったっけ。
 俺さまはゼロス=ワイルダー、お嬢さま方は愛情こめてゼロスくんって呼んでね♪」
言ってしなを作るゼロスくん(自称)

・・・今さらながら、しいなが彼のことをアホ神子と言った意味が良くわかった。
コレットと同じ神子とは思えないよ・・・。

「・・・ただのゼロスでいいだろう」
「ゼクンドゥスに賛成ー」
ぽつりとつぶやいたゼクンドゥスに、ジーニアスが抑揚なく言う。

「ちっ、かわいくねえガキんちょだな」
「かわいいって言われて喜ぶ男がいるなら、ぜひとも見てみたいよ」
言って肩をすくめるジーニアス。

「おやめなさい・・・・それでプレセアは解放してくれるのかしら?」
「そりゃ大丈夫。プレセアちゃんは神木を採ってこれる貴重な人材だからな。
 サイバックのさらに北にあるオゼット出身だから・・・途中まで同行してもらうだけだな」
とゆーことは特に問題なし、か。

「さ、ちゃっちゃと行ってコレットちゃんを救いましょーや」
軽くゼロスは笑って言った。




―――――――――――――――――――





「うわあ・・・キレー・・・」
エレカーの窓から顔を出して、私は言った。
「すげぇ・・・」
左側の窓際の席に座っているロイドも、同じように感嘆の声を上げる。
目の前に広がっているのは、海! 蛇や魚のウロコのように太陽の光を反射して輝く海は、まさに絶景。
そしてその上には大きな長ーい橋が見える。

「ねー、ゼロス。あの橋って何?」
「はいはい。
 ご説明いたしますと、あれはフウジ大陸とアルタミラ大陸にかけられたテセアラブリッジにございます」
なぜかバスガイドのような口調で喋るゼロス。

「・・・フツーに喋んなさい。何かイヤ」
「あれま、ご不興? ・・・ま、とにかくあれを渡ればサイバックまで目と鼻の先だぜ」
「動力は何かしら? やはりマナ?」
「いんや」
言ってゼロスは橋の一部分を指差した。小さな石の集合体のようなそれはもしかして・・・。

「・・・まさか、あれ全部がエクスフィア?」
私はぽかんとした。一つ二つとかそんなレベルではなく、あれじゃ壁だ。
「そっ! 三千個のエクスフィアを動力にしてんのさ」
「・・・けど、何か不気味だよね」
それは、エクスフィアが人の命によって出来ているからの発言だったのだろう。

「・・・不気味、ですか・・・」
「あ! いや、違うよ!! 別にプレセアがどうとか、そんなんじゃなくて・・・!」
「・・・・・・はぁ」
プレセアの横に座ったゼクンドゥスがため息をつく。

あ、ちなみに席割りは前の運転席がゼロスで助手席にリフィル。
その後ろの真ん中がコレットで、左にロイド、右に私。
んで私の後ろにはジーニアスで、真ん中にプレセア、その横がゼクンドゥスだ。

「三千個のエクスフィア・・・三千人の命・・・か」
「? どーゆー意味だ、それ?」
ロイドはおそらく無意識の呟きに、ゼロスはすかさず追及した。

「・・・・・・それは」
「私が説明するわね」
言いにくそうなロイドの代わりに、リフィルが説明したのでロイドはほっとした顔になった。
私は改めて自分のエクスフィアに見入った。そしてコレットを見た。
いつもの笑顔は消えて人形のような無表情が何だか痛々しい。
リフィルが話し終えると、ゼロスは沈黙した。ここからだと表情は見えないが、多少なれど顔をしかめているだろう。

「ハードな話だな・・・それ、マジなのか?」
「こんな嘘、つくかよ」
・・・・・・・・・。
また車内が沈黙したが、ゼロスは明るく言った。

「まあ、気にした所で仕方ないか。今さら死んだ人間が生き返るわけでもナシ、ポジティブに行こうや〜」
それにほぼ同時にリフィルとゼクンドゥスがため息をついた。
「・・・前向きだね、あんた」
「ん〜? そう? 惚れた?」
私が呆れてそう言うと、ゼロスはこっちに振り返ってウィンク一つ飛ばす。
私はコメカミに指を当てて、頭痛をこらえるよう一言。
「呆れたわい」
と言った。





―――――――――――――――――――




学園都市、サイバック。学者なんかが人口の大半を占める文字通りの学問の都市だ。
無口で無表情なプレセアは、何だかここに嫌な思い出があるらしく、不快感と嫌悪感を露にした。
ジーニアスが必死に話しかけるが無駄に終わった。がんばれ、ジーニアス。

コレットが無表情なのはやっぱクルシスの輝石のせいで、体内のマナが暴走しているだとか。
施設にちょうどあった要の紋。あれを使うらしく土台とまじないの修理たのめ、ロイドは工房にこもりっきり。
コレットも施設で待ってもらう。

そんなわけで。

私たちはちょっと観光する事にした。プレセアとジーニアスは宿屋で待機。プレセアはこの街にいたくないらしいので、待ってもらうことにした。ジーニアスも言わずもがな。
ゼクンドゥスは私達と別行動で図書館へ向かった。これはゼロスに言わせれば。

「はっ・・・、協調性がないと女の子に嫌われるぜ?」
とのことらしい。当の本人はそれを一笑したが。
そんなワケで、私とゼロスとリフィルと言う何とも言えない組み合わせが結成した。

・・・私がストッパーか?

ゼロスは妙に嬉しそうだ。まあ、パッと見は両手に花状態だし。・・・けど嫌な予感がする。

「いやー、野郎どもがいないと華やかでいいね〜」
「何言ってんの。そーゆーことはコレットが元に戻ってから言うもんだよ」
「はいはい、わかってますって。・・・で?どんな子なんだ?」
「・・・う、うーん・・・」
せ、説明しにくい・・・っ! ど・・・どじっ子?

「おおおおおおっ!!」
「な、何だぁ?」
こ、この声はっ・・・!?(
シリアスに

「素晴らしい! これは古代大戦時に使われていた剣だなっ!
 この装飾は間違いないっ・・・・ああ! そっちの石版はまさしく・・・!!」
遺跡マニアのリフィルせんせーだ。モード全開。久しぶりにキたな。
止まらない、やめられない。
私はがっくりと肩を落とした。

「ど、どーしたのよ、おねーさま」
「・・・気にしないで。遺跡とかが関わるといつもああだから」
驚くゼロスの背中を、私はぽんぽんと叩いた。
日の光がやけに目にしみるサイバックのある日の出来事・・・。




―――――――――――――――――――




翌日の早朝。完成した要の紋をコレットのクルシスの輝石にはめ込む。
「コレット・・・遅くなったけどこれが俺からの誕生日プレゼントだ・・・」
ゆっくりと首輪を首にかけて、ロイドが話しかけた。

「コレット、俺がわかるか?」
「・・・・・・・・・」
ダメだ、まだ無反応だ。

「コレット! 目を覚まして!!」
私が呼びかけるが、やはり無反応だ。
「・・・仕方ないわね。一度シルヴァラントで何か良い方法がないか、ダイクに聞いてみましょう。
 ここの人たちならレアバードにマナを補充して飛ばすくらいは出来るでしょう」
「おいおい、ちょっと待てよ」
ゼロスがやや慌てて割って入った。

「何が?」
「いや、何がじゃなくて・・・・。あんたらは俺さまの監視下にあるんだぜ?
 シルヴァラントに帰るなんて許すわけないでしょーが」
「じゃ、ゼロスも一緒に来れば?」
さらりと言うとゼロスは面食らったような顔になった。

「そうね、それがいいわ。まさか見捨てるなんて言わないわよね?」
凄みのある微笑だ。ゼロスは肩をすくめて、次の瞬間、真面目な表情となる。

「そうまで言われちゃ仕方ないねぇ・・・。ま、昔からシルヴァラントがどんな所だったのか興味あったしな」
「決定、だね」
私はしてやったりと笑みを浮かべた。

「それじゃ早速レアバードを回収しに・・・」
「―――そこまでです!神子様!!」
まるでタイミングを見計らったように騎士たちが私たちを取り囲んだ。

な、何だ!?

「マーテル教会はアナタを『反逆罪』を犯したと認定し、一切の権利を剥奪します」
「へえ、それはそれは・・・」
「ちょっと待った!!」
私は声を荒げてゼロスのセリフをかき消した。
「何でゼロスが反逆罪になるのよ。私たちはコレットを、神子を元に戻すのが目的だよ。
 何でゼロスが監視してる状況で反逆罪になるんだよ」

それに対して騎士はよどみない口調で答えた。
「我々は教皇様の命で動いている、それだけだ。正式な逮捕状もある」
それに私はがしがしと頭をかいた。

「あー! くそっ、これだから命令聞くだけの下っ端はっ!!」
「どれどれ・・・あれま、本当だ。反逆、ね。どっちが反逆してるのやら」
ぎゃんぎゃん喚く私とは対照的に、ゼロスは落ち着き払った様子で逮捕状を見た。

「ご理解いただけましたか?」
「冗談・・・と言いたいところだけど、今は大人しくしときましょーか」
言ってゼロスは大げさに肩をすくめた。

「わ! 何するんだよ!?」
ロイドが騎士に腕をつかまれ、用途不明な機械を押し付けられる。
「ここじゃ罪を犯すと生体検査されんだよ」

「・・・隊長っ! 大変ですっ、この二人・・・ハーフエルフです!!」
騎士の一人が驚いて声を上げる。その騎士が調べたのは・・・リフィルとジーニアス。

「お、おい! 待てよ、二人はエルフだぞ?」
「・・・・・・・あ」

私はふとアスカードのハーレイのセリフを思い出した。
『あの先生はハーフエルフみたいだし・・・』
そして、その後のジーニアスの怯えたような言動。
あれは、もしかして全部、全部ハーフエルフということを隠すために言ったのか?

「・・・そうよ、私と弟は確かにハーフエルフよ」
姉さん!
悲鳴にも似た声でジーニアスが言った。

「マジかよ・・・」
言ってゼロスが舌打ちする。
「だから何だって言うんだよ! 関係ないだろ、そんなこと!」
いや、おそらく関係している。
しいなが言っていた。テセアラではハーフエルフが差別されている、と。

「関係大有りなんだよ、これが」
ゼロスが冷淡な声で告げる。
「テセアラじゃ身分制度があるんだ。ハーフエルフはその最下層・・・人を殺そうと、物を盗もうとすぐに死刑だ」
何だそりゃ! 聞いてねーぞっ!!

「人員を割かなければならんな。それに数が足りん。あと一人はどこへ行った?」
ゼクンドゥスのことだ。彼は昨日から図書館へ言ってから帰ってない。探したけど見つからなかった。
朝には帰ってくると思ったが、結局帰ってこなかったのだ。

「まあ、いい。どうせ何もできまい。この二人はメルキトオまで連行しろ。
 神子様たちにはこの研究所の地下に監禁させていただきます」
「ふざけるなっ! 二人をはなせっ!!」
ロイドが叫ぶが、ジーニアスとリフィルは兵士たちに脇を固められ、手錠をはめて連行された。
私たちは為す術がなかった。最後まで唇をかみしめて、泣くのを堪えるのが私の精一杯だった。



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