目に入ったのは、世にも美麗な男だった。どっから出現したのかクラトスの隣にいた。
金髪の長い髪に細身の身体。背からはクラトスやコレットの羽よりも大きく、虹色の色を持った翼が生えている。
レミエルとは天使の格(もしあるならば)が違うと思った。月とボアチャイルド並みに。
クラトスと並んで、実に絵になる男だ。

・・・顔だけは。

顔だけはいい。その翼も。けれど、その破綻したとしか思えないファッションセンスはどーなんだ。
その謎の美青年君の装備品は全身白タイツ。

ドラ○エ風にやると

E 全身タイツ(白)

・・・多分こんなカンジ。
あんた、いくつやねん。その年(クラトスと同い年?)は痛いよ・・・故郷の両親がむせび泣くよ。
つーか、私が泣きたい。


まあ、それはともかく。

「・・・あんた誰?」

その白タイツ男(いや、だって名前知らないし!!)はなぜか視線をロイドに注いでいた。
やがて、その視線を私に向ける。クラトスは膝を折り、なんと頭を垂れた。
何者だ、この男。
服からして普通じゃない。

「ふっ・・・」
男はなにやら笑みを浮かべた。無駄に偉そうだ。

「犬に名前を教える必要などあるまい? だが、死に逝く哀れな者達のために」
じゃあいいです
私はあっさりと無視して、コレットの方と近寄った。

「待て、貴様!!」
「何だよ、お前」
鬱陶しいなぁ。何よ、この変態的な服装の男。

「私がこれより死に逝く貴様らに、慈悲を与えて名を名乗っていると言うのに・・・」
それに対し、私は男を馬鹿にしくさった口ぶりと嘲りで。

だから何?
 どうして私が今日始めて会って、他人様を犬呼ばわりする変な服着た男の名前を知らなきゃいけないの?
 どうしても名乗りたきゃ、お前が地べたに土下座して這いつくばってお願いしろよ。
 もしくはぶぶ漬け食って故郷へ帰れ

ちなみにぶぶ漬けとは、京都特有の言い回しで、これを京都でいかがですか?と聞かれたら、さっさと帰れ邪魔と言われていると思おう。

友達にはやるなヨ!
 お姉さんとの約束だ!!

「・・・私はディザイアンとクルシスを統べる者。名はユグドラ」

どごっ!

「だから聞きたくないっちゅーねん」
人のお話を聞かない男だね、オイ。
思わず手短にあったジーニアスの剣玉投げちゃったよ。
しかもクリーンヒットです。
額赤くなってるし、ひくひく痙攣してるし。

「き、貴様・・・っ!」
「やめろっ!」
ロイドが割って入って、ユグドラ何とか(・・・長いから以下タイツ男としよう)から私を守ろうとする。

「うわ!」

ぐおぉっ!どがっ!!

ロイドは軽々と吹っ飛んで、柱に叩きつけられた。脆かった柱はあっさりと崩れた。
私を含めた全員が見えない力に押さえつけられているように動けなかった。

やられる!!

タイツ男は手を振り上げ、ロイドにつき付けた。まるで、死刑を執行するように。
動け! 動くんだ、私の身体っ!こーゆー時に動かないでいつ動く!?

「異存はないな、クラトス」
クラトスは答えない。どこか、苦しそうな顔をした気がしたが、ンなことはどうでもいい。
どこでもいい、いや足だけでいい。だから動け!!

「・・・さらばだ」

やめろ!! と叫びたかった。手の甲が熱くて、痛い。身体がばらばらに千切れるかと思った。
その刹那、私の身体がぴくりと動く。ほぼ勢いだけで走った。あとは無意識。走る。

ぱあぁぁんっ!!

・・・・・・・うわあ、ヤッちまった。

それが私の感想だった。手が痛い、そしてタイツ男の頬は赤い。
となれば、私が何をしたかお気づきの方も多いだろう、
はたいた。いい音がした、頬をたたいたのだ。赤くなってる。我ながらいいビンタだった。力、スピード、角度、音、ダメージ、全てにおいて完璧だった。
私自身こうまでうまくキマるとは思っていなかった。タイツ男はゆっくりと顔を上げる。その表情は驚愕のそれだ。ま、当然だろう。ひっぱたかれたんだから。

すぅ、と今度は私に向かって手を向けた。何をするのか大体は察した。

殺される!?

きゅごぉっ!
ばちぃっ

「なっ・・・!?」
その光弾は、私には当たらずに四散した。そして驚愕の声を誰よりも早く出して驚いたのは私。
まるで、何かに守られているような。

「お前は・・・一体・・・?」
いや、私の方こそ聞きたい。これって、何?
そう思った瞬間、エクスフィアが点滅した。

「うわあっ!?」
何? 何、これ・・・。
嫌だ・・・・怖いっ!!

きゃああっ!!?
私はその光に吹き飛ばされた。その光は、人の形となって収縮、明暗を繰り返す。
その中で、私はその奥にある誰かを見た気がした。

目に入ってきたそいつは、まさに輝かんばかりの美貌という言葉が恐ろしいまでに似合う青年だった。

年は二十代、クラトスと同い年。しかし、それが正しい年齢とは思えない。クラトスと同じ、踏み込めない領域をまとっている。
風もないのに薄茶色がかった金のウェーブのかかった、ゆるやかな長髪が広がる。髪の毛と同じ色をした豪奢マントに、黒のぴったりとした服を着ている。腕にはいくつか金の腕輪が、鈴のように鳴り響いた。
その四肢からは威圧感。そして、気品を感じさせた。この二つの雰囲気は謎のタイツ男と似通っている。もちろん、こっちの方が趣味は良いのだが。
年頃の女の子がうっとりしそうな端正な顔は無表情。その冷たい瞳には何も映っていない。

誰だ? どこかで見たような気が・・・?

「うっ・・・」
激痛が体を襲った。それでも意識を保とうとした。遠くから足音がする。ああ、これが幻覚と幻聴ってやつかな・・・。
けれど、その声は聴き覚えがあった。

「くっ、やはりすでに天使化したか・・・。やむをえん、全員生かしたまま連れ帰るぞ」
身体から力が抜ける。誰かがこっちに近寄ってくる足音。

・・・誰?

「・・・しばらくはお前たちと行動をともにさせてもらおうか」
私は誰かに、担がれた。謎の声、それからクラトスの声。ロイドに向かって「死ぬなよ、ロイド」って。
あの光は何だろ・・・あの声は誰で、コレットは・・・あとタイツ男は何が目的で・・・私はどうなるんだろう。
けれど今は、沈みいく意識から手を放した。




―――――――――――――――――――




「んむ〜・・・クラトス・・・ロイド・・・お前ら何サラダのトマトを残してるんだよ・・・食え・・・」
「・・・・・・・・・」
「せ、先生・・・ロールキャベツに桃とレッドソディはカンニンや・・・」
「・・・・・・・・・」

・・・起きなさい!!

「うはあぁいっ!? ・・・・・あり?」

目が覚めると私はベッドにいた。ロイドとジーニアスとリフィルとしいなと・・・無表情なコレット。それから・・・。

「・・・えーと・・・?」
そして金髪美青年様。見覚えはない。壁にもたれかかって、これまた無表情。
緩やかな金髪。切れ長の瞳。威厳をたたえた物腰、動作。迫力がある。美形だ。
あのタイツ男といい勝負。

・・・って!? こひつわ!?

「あ、この人はね。を運んできてくれたんだよ」
「・・・そ、それはどうも」
「礼を言われる筋合いはない」
淡々とした声は、恐ろしく寒々しかった。
・・・私はこの男に見覚えがあった。しかもゲーム内で。

「・・・あのー、お名前は?」
私はどきどきしながら聞いた。しかし返答はそっけない。

「好きな名で呼べ」
「じゃあ
ハニーちゃん

即答。

・・・睨まれました(当たり前だ)

「・・・冗談です」
失敗した。
・・・しっかし、名前勝手に付けていいのだろうか?本名を当てるわけにもいかないし・・・。

あ、そだ。

「・・・じゃ、ゼクンドゥス。ゼクンドゥスでどうよ?」
エターニアの時の大晶霊の名前をつける。
さて、ここまで来ればお気づきかもしれないが・・・この男、外見がテイルズオブファンタジアのラスボス、ダオスにそっくりなのだ。
ただの私の見解だが。

「・・・好きにするといい」
さっきハニーちゃんを却下したくせに。
それだけ言うと、またゼクンドゥスは黙った。・・・クラトス以上の無愛想だ。

「なあ、先生。も起きたし状況を説明してくれよ。何があったんだ?」
コレットを気遣うように見ながら、ロイドは言った。

「そうね、まずここはトリエット砂漠よ。あなたとが捕まってたあの基地ね」
「じゃ、ここはディザイアンの?」
だがリフィルは首を横に振った。

「いいえ、私達は救いの塔で“レネゲート”というディザイアンに似た集団に助けられたの。
 彼らはクルシスとディザイアン、二つの組織と対立しているわ」
「んじゃ、あの全身白タイツの天使は・・・」
それにリフィルはちょっと苦笑した。

「彼はディザイアンとクルシスを統べると言っていたわ」
「そういえば・・・アスカード牧場でユグドラシルってクヴァルは言ってたな」
ユグドラシル。それがあの金髪変態白タイツ天使の名前なんだろうか?
なにせ名を名乗っているの中断させたからな、私。剣玉投げて。

「じゃ、クラトスは・・・」
あの裏切った傭兵の名を出すと、一瞬、重い空気が部屋に立ち込めた。リフィルは沈痛そうな顔で言った。
「彼はおそらく・・・ユグドラシルの部下ね」
誰も何も言わなかった。ロイドはベッドの柱にもたれかかった。みんな、暗い顔をしている。

シュンッ、とドアが開いてレネゲートの兵士が入ってきた。外見だけはディザイアンとそっくり。しかし、まったく違う態度―――恭しいまでの礼儀正しさを匂わせて言う。
「お目覚めですか?隣で我々のリーダーがお待ちです」




―――――――――――――――――――




「あー! あんたは!!」
その部屋にはボータと青髪変態青年がいた。思わず指差す私。

「ようやく目覚めたか」
「お前は・・・あの時の!」
ロイドはコレで二回目の対面。私は実質上、これを含めて三度目。最初はこの基地、そしてアスカードで。私は訝しみつつ、油断はできないと睨んだ。

「・・・あんた達がレネゲート?」
「ああ、我々はクルシスとディザイアンに対抗する組織だ」
「2つは同じ組織なんだね」
男はうなずく。

「表でマーテル教を、裏でディザイアンを操る」
器用な人形使いっぷりだ。

「でも天使なんだよね」
と言っても、ただの種族名だが。

「・・・ああ。元々はハーフエルフだ。我々、レネゲートもな。
 “クルシスの輝石”と呼ばれる特殊なエクスフィアを使用し進化した」
「クルシスの目的って何?」
「それは・・・・」
「―――マーテルの復活ではなくって?」
男のセリフを遮ってリフィルは言った。私もそれに同意する。

「・・・そうだね、レミエルとクラトスが言ってたし。神子は生贄、器って。
 封印開放が何なのか知らないけど・・・マーテルの器がどうとか言ってたよね」
「ああ、そのためにユグドラシルは歪な世界を創造した」
なにーっ!?
思わず絶叫する私。

ちょ、ちょっと待て!!
「ちょ、待ってよ! じゃあ、ユグドラシルがテセアラとシルヴァラントを作ったの!?」
ジーニアスも驚きを隠せないようだ。

「ほう? テセアラを知っているのか・・・」
「それで、あなた達は何が目的なの?」
ま、ボランティアではないのは見ればわかるけど。

「我々の目的はマーテル復活の阻止。そのためには器となる神子が邪魔だった」
「・・・それでコレットを狙っていたのか」
何の解決にもなってない気がするけど。

「だが神子は天使化してしまった。こうなっては防衛本能に基づき、敵を殺戮する兵器のようなもの。
 ・・・うかつに手出しはできん」
「そんな! コレットはずっとこのまんまってコト!?」

「・・・・・・・・・・。だが我らの目的のために、もはや神子など必要ない。我らに必要なのは・・・」

ギラッ

男の目が光って(私の目にはそう映った)ロイドを見た。
・・・・・・・・・・・・・すっごく嫌な予感がする。
あ、鳥肌。

それが合図のようにレネゲートが乗り込んできた。全員やはりと言うか、なんと言うか武装していた。

「何のつもりだ!?」
「我らに必要なのは貴様だ、ロイド=アーヴィング!!」
「しっつこい男だね、あんたっ! まだロイドのエクスフィアを狙ってるの!?」
しかし男はそれを鼻で笑った。

「エクスフィア? ・・・フッ、そんなものはどうでもいい!!
どうでもいいのか!?
まさか、あんた本気で今の今までロイドの身柄が欲しいって意味で襲ってきたんかい!?」

オイオイオイオイオイ、
こいつ、モノホンかぁ!?

いや、確かに私は今までこの男に変な意味でロイドが欲しいのか、と問い詰めてきた。
誤解だと思ってたし、なぜか否定しないコイツ(否定したとしても変な否定をする)に違和感を感じていなかったといえば嘘となるが・・・。

「ま、まー、ヒトサマの趣味をとやかく言うつもりはないけど・・・節度を守ってくれたらうれしーなー。
 ・・・ぶっちゃけ大声で言って欲しくないなーなんて思うんだけど?」

「さあ、捕えろ!」
人の話を聞かない男である。
私はキレた。

人の話を聞けーっ!そして節度を持って、理由を吐けーっ!!

どごすっ!!

思わずひざで蹴りを入れる。すると、なぜかうずくまる変態男。
そ、そんなに痛かったのかな?

「ユアン様!」
「くっ・・・ハイマでの傷が・・おのれ、クラトス・・・どこまでも邪魔を・・・!!」
「あー! やっぱクラトスを襲ったのはお前か!! ・・・パルマコスタやルインで襲ったのもまさか・・・」
苦しむ変態――改めユアンを支えるボータ。

「・・・何をしている。逃げるのではないのか?」
この部屋に来てからまったく喋らなかったゼクンドゥスに声をかけられ、私は我に返る。
とりあえず、私は脱兎の如く逃げた。




―――――――――――――――――――




「ここまで来れば簡単には追いつけないよね?」
基地内をぐちゃぐちゃに逃げた私たちは、開けた場所で立ち止まった。

「うん、そうだね。ところで・・・」
そこで私たちの視線が一斉にある一点に集中した。

ゼクンドゥスである。

「あんた・・・ゼクンドゥスとか言ったよね? あんたはレネゲートじゃないのかい?」
「違うな」
それにすぐさまゼクンドゥスは否定した。

「私は、誰の仲間でもない。・・・少しの間、お前たちと行動を共にさせてもらう」
「どーして?」
私がそう聞くとなぜか睨まれた。

「言う必要はない」
返答も無愛想だ。

「じゃ、コレットが元に戻る方法を一緒に探してくれる?」
それにゼクンドゥスはしばし黙り込み、考え込んだ。

「・・・・・・・・・善処しよう」
「始めに言っておくけど」
リフィルが私とゼクンドゥスの間に割って入った。

「私はあなたを信用していません」
「せ、先生!?」
いきなりナニを言い出すのかこの人は!!

「あなたが敵と決まったわけではないけれど・・・釘はさしておかないとね」
「はっきり言う女だ」
それを面白そうに見るゼクンドゥス。

「それはどうも」
先生も余裕です。ゼクンドゥスは建前だけの微笑を浮かべ、リフィルも冷たく微笑んだ。何か怖い。

「構わんさ。だが、私も言っておこう。私は始めからお前たちを信用する気など毛頭とない。
 ・・・私の目的のためにお前たちを利用させてもらう。が、逆にお前たちが私を利用しても構わぬ」

ピッシャーンッッ!!

二人の間に、インディグネイション並みの雷が迸った。
いやああああああっ、挟まれてる私の身にもなってよおぉぉぉお・・・・(段々小さくなる声)

「・・・そう、わかったわ」
あう、怖いですよ、お二人さん。

「ね、ねえ、これからどうするの?」
ピリピリした空気を振り払うように、私は話題を持ち出した。リフィルはちらりとしいなを見た。

「しいな、あなたのエクスフィアはどこで手に入れたの?」
「え? よくわかったね。あたしがエクスフィアを付けてるって」
そーなのか?

「ええ、その動きは常人をはるかに凌駕してるから」
しいなは観念したように肩をすくめた。
「ここに来る前に王立研究所で付けられたんだ」
「おーりつけんきゅうじょ?」
「ああ、エクスフィアはレネゲートからもらったものなんだ」
「え! じゃあ、テセアラとレネゲートはグルなの!?」
しいなはぽりぽりと困ったように頭をかいた。

「その辺はあたしも知らないよ。でも神子を殺すようになったのはレネゲートのせいだよ。
 あいつら、王家に何か吹き込んだんだ」
「なるほど・・・」
大方、シルヴァラントが繁栄すると、衰退しますよって言われたんだろーな。
それにしても、しいなってばどっかの会社の中間管理職か、大きな会社に依頼された子会社みたいだ。
・・・身に詰まる話だなぁ・・・。

それはともかく。段々構図がわかってきた。
クルシスとディザイアンは、ひとまとめのグループ。ユグドラシルはそこのトップで、クラトスはその直属の部下。
その下にレミエル、五聖刃がくる。個人的にクラトスの顔が、五聖刃に知られてなかったのが気になる。
このグループの目的は、マーテルの復活。そのためにコレットが必要で、これからも付け狙われるであろう事が予測される。あと、“デリス・カーラーン”に行くとか言ってたな。

そしてレネゲート。これは変態青髪男あらため、ユアンが率いるグループ。クラトスと知り合いっぽい。
ディザイアン、クルシスと対立。そのために器のコレットが邪魔で、殺そうとした。それからユアンはエンジェルス計画にも関わってたみたい。ロイドの事、なぜか知ってたし。
関係ないが下っ端兵士の態度が紳士的なのが気になった。部下の教育に力を入れてるのね・・・(遠い目)

まあ、とりあえず利害は一致するが・・・あのリーダーはいまいち信用できん。敵の敵は味方には、そう簡単にはならない。
・・・・・・・・いや、なって欲しくない。あの男色趣味のありそうな男にだけは。

「私はテセアラに行く事を提案するわ。
 クルシスの輝石もエクスフィアなのだから、魔科学の発達しているテセアラなら何かわかるかもしれない」
リフィルの提案にしいなは強くうなずいた。

「そうだね、王立研究所でも、マナの神子が持ってたクルシスの輝石を研究していたはずだからさ。
 きっと何かわかるよ」
「え? テセアラにもマナの神子がいるの?」
ジーニアスは目を丸くした。

「ああ、そうさ。こっちにもマーテル教は存在してるからね」
「じゃあさ、テセアラの神子ってどんな人?」
私の質問にしいなは腕を組み、やや眉をひそめた。

「そうだねぇ・・・、一言で言うなら・・・」

「うんうん」
うなずく私。ロイドとジーニアスも興味深々だ。

「アホだね」
「ア、アホ?」
どんな人ですか、テセアラの神子。

「始めてコレットを見たときは、イメージ違うなぁって思ったよ、本当に」
・・・うーむ、会ってみたいな、その神子とやら。

「じゃあ、早くテセアラへ行こう! 今度こそ俺は責任を果たす!」
「しいな、どうやってテセアラに行くの?」
「あたしはレアバードっていう飛行機で来たんだ。レネゲートにもらったものだから、この基地にもあると思うよ」
「じゃ、目指すは格納庫か」
ちょっと探すのに時間がかかりそうだ。

「・・・・・・・・・」
今まで無言を保っていたゼクンドゥスが、スタスタと別の扉を開ける。

「ちょ、ちょっと!?」
「・・・格納庫へ行きたいのだろう?」
「へ? あ、うん」
ちゃんと私たちの話を聞いていたのか。つーか存在を忘れていたぞ、ゼクンドゥス。

「・・・だったら早くついて来い。こっちだ」
「何で知ってるの!?」
「見取り図を記憶させてもらった。近いぞ」

・・・・・・・・・・。

「この地下、・・・この向こうにエレベーターがある。それに乗った先だな」
淡々と言うゼクンドゥス。私はそんな彼の肩を軽くぽんとたたいた。
「ゼクンドゥス、あんた、地味に役に立ったね!!」
褒めたのに、それでもゼクンドゥスは無表情だった。




―――――――――――――――――――




格納庫の、わけのわからない機械を動かすと、鉄の床がせり上がった。
「これがレアバードかぁ・・・」
私は感慨深くレアバードを見た。鳥のような形をした・・・あれだ、ナ○シカが乗ってそうなヤツ。
それに、ジャンプして飛び乗る。ハンドル(?)を握り、アクセル(?)を踏んだ。
軽い浮遊感。響くエンジン音。うなる動力炉。・・・よし。

「よし! 行くぜ、テセアラ!!」
レアバードが起動すると同時に、ウインウインと滑走路が浮かぶ。私は操縦桿を強く握る。
びゅおんっ!!と強い、風を切る音が心地良い。

ああ、飛んでる。飛竜よりも、もっと早く、もっと強く飛んでる!!
みんなが、あとから列になってついてきて、光が溢れた。まぶしくて、目を一瞬瞑った。
そして、見えた!!
そこは砂漠ではなく、大きな山と森。空の青と木々の緑。シルヴァラントではこんな緑はイセリアでも見ない。

「ここがテセアラ・・・」
シルヴァラントとは空気が、雰囲気が違う。もっと景色を見ようとした。その刹那。

がくんっ

「へっ?」
い、今、何か・・・重力がかかったような・・・。

「ちょっ! どーなってるの!?」
レアバードの機体が不安定になるが、それはみんなも同じらしい。
「あんた達がシルヴァラントの封印を解いたから、テセアラのマナの濃度が薄くなったんだ!!」
「つ、つまり・・・?」

それは、もしかしなくとも。

しいなは、声を張り上げた。
「落ちるって事さ!!」
「マジかよ!!」
その、しいなの言葉どおりに。


レアバードは墜落した。



BACK
NEXT
TOP