パルコマスタの牧場から数日の時が流れた。
ショコラのお母さん、カカオには彼女を絶対に無事に戻すようにしてみせるとロイドが断言し、後始末については全てニールに任せることにした。
そして私達はソダ間欠泉へと向かった。再生の書を見るために像が必要なのである。ってなわけで私達はソダ島遊覧船のある桟橋へと足を向けたのだが・・・・。
「たらい・・・だよな?」
「たらいだ・・・」
「たらいか・・・」
いやロイドもジーニアスもクラトスも一回言えばわかるでしょーに。気持ちはわからなくもないが。
まあ、とにかく。
ソダ島遊覧船とやらは・・・まさしくたらいである。
ただしコントなんかの金ものではなく木製。金物なら沈むし当然か。
・・・・・いやしかし。たらい・・・・・。
なにゆえたらい? 船はないんですか、船は。
「うわあ、おもしろそう!」
コレットは妙に嬉しそうだ。まあ、おもしろいっちゃーおもしろいが・・・。
「わ、私はここで待っています。さあいってらっしゃい」
ん? どーした先生?
「どうしたんだよ、先生」
「別に・・・何でもありません。よくって? 私は乗りません」
・・・何か冷や汗が見えます先生。
ついでに声がちょっといつもと違うような・・・。
「おもしろそうですよ、乗りましょう」
「そうだよ、姉さん」
ジーニアスがリフィルの手をつかみ、たらいに乗り込む。
すると。
「・・・きゃっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
きゃ?
ロイドが、ジーニアスが、コレットが、そしてクラトスでさえも。
目を丸くして悲鳴の主のリフィルに視線を集中させる。
きゃ、きゃと申されましたか先生。
「・・・・・・きゃ? 先生・・・まさか・・・水が怖い・・・とか?」
「きゃあ楽しみと言いかけたんです」
顔をちょっと赤くしてリフィルは平然と言った。
いやウソだろそれわ。
そして気丈な態度でたらいに乗り込むリフィル。
「意地っ張りだなぁ・・・」
うんうん。
「・・・・・フッ」
あ。クラトスが珍しく笑った。
こーして水キライ一人と一匹を連れて、ソダ島へと向かったのでした。
あ、ノイシュも連れてってるんだよ。忘れないでねー。
―――――――――――――――――――
突然ですが。
水浸しを覚悟して私は洞窟に入っております。
いや、実はここソダ間欠泉こそ水の封印だったそうで。水がキライなリフィル先生、まるで水を得た魚の如くすいすいと探検しております。
・・・水キライってウソだろ、せんせー。
「・・・? どしたの、クラトス」
ぴちゃぴちゃと滴ってできた水溜りを歩き、歩みを止めたクラトスに向かって振り返る。
「・・・あの娘は来なかったようだな」
「あの娘?」
どの娘さんでござんしょ?
「オサ山道の暗殺者だ」
「え?」
「全然気付かなかった・・・」
それを聞いてロイドがしょぼくれた。
私も全然気付かなかった。気配を感じるのは・・・慣れないや。どうにも。
「でも来なかったんなら一安心でしょ、今だけだけどさ」
「・・・・・・・・・」
・・・・あう。クラトスの目が冷たい。
わかってるさ、自分が足手まといって事くらい・・・。
「先を急ぐぞ」
「あ、待ってよ!」
「あ、置いてくなって!」
再び歩き始めたクラトスを追って、私達は奥へと急いだ。
―――――――――――――――――――
ってなわけで。水の封印を解きました(早ッッ!)
いえ、無駄な時間をとりたくないんで・・・。
レミエルから天使の力はもらったし、また試練だ。
・・・ちょっとこれに関しては気が重い。平気そうな顔してたけど、本当は辛いんだろうな。
まあ悪運が強い私のおかげか、ソダ島の救いの小屋で休めただけでも万々歳だろう。
ちなみに暗殺者のしいなは襲ってこなかった。
ハコネシア峠へ行って、やっと再生の書をゲット!
・・・ではなくて。
見せてもらいました。先生曰く、アスカード遺跡に封印があるのではないかと推理。
そして希望の街ルインで一泊する。
また宿屋にて襲われました。
・・・襲われたのはコレットでもなければリフィルでも私でもない。あまつさえロイドでもない。
・・・・・襲われたのは恐ろしい事に・・・・クラトスだった。
昨夜、私は物音がしたのでどうしたんだろ?程度にしか思わず、寝てしまったのだ。
・・・・・・・・・・・何でクラトスを襲うんだ。何て命知らずな。そして逃げられたと言っていた。
その襲撃者、只者じゃないな。いろんな意味で。
まあ、それはともかく。
それから私達はアスカードへ向かった。一日もかからない距離で大して離れてない。
回りを見渡すと、あちらこちらに風車の姿が見受けられた。宿屋がけっこうたくさんあるので観光都市として栄えてるのだろうと言う事が目に見える。
印象としては山に抱かれた遺跡の町、とでも言うべきか。
不思議な香りの風がして、ルインのような落ち着きがあった。
ちなみに。
リフィルが異常なまでにはしゃいでいるのは言うまでも無い。
「ふははははっ! アスカードだっ、アスカード遺跡だっ!!」
「あ、先生・・・ってもう行っちゃった・・・」
早いな。今の彼女ならオリンピックでも優勝できそうだ。
リフィルは真っ先に階段へと向かって走った。
「・・・先に宿をとっとこうか」
「そーしよ」
私の提案に力なくジーニアスが従った。
―――――――――――――――――――
宿屋のサインはリフィルとクラトスの名前だ。ここは宿屋が多い。
3つぐらいあって、私達はその中で一番大きいところに泊まる事にした。
「ご家族でお泊りですか?」
「あ、いや・・・」
まあ子持ちに見えるかもな、クラトス。ただし3〜10歳とかのちみっ子に限るが。
「今ならご家族でお泊りなら、割引システムが・・・・」
「家族です、似てないってよく言われるですよネー! ねえ父さん!!」
にこやかにクラトスに語りかけるわたくし。
「は? 、何言って・・・」
どごすっ!
めしぃっ
「ハハハハハ、ロイド、何? もうお腹減った? もう、しょうがないなぁ」
「・・・・・・・・・・・・」
しかしロイドは答えない(当たり前だ)
今のお金を大事にする私に恐れをなしたのか、クラトスは無言である。
「では何名様ですか?」
「えーと、あとお母さんとー」
「・・・・姉さんが聞いたらなんていうか」
ごがっ!
「!?」
お黙りあそばせジーニアス。
「それにお父さん、それから私と妹と弟二人っ、全部で6人です♪」
「では鍵をどうぞ」
「はーい♪」
「・・・・・・・・・・・・」
ちょっぴり怯えるクラトス。こーして安くなった宿で、一夜を過ごすことが決定した。
―――――――――――――――――――
さて、遺跡モードに入ったリフィルを追いかけて、私達は石舞台へと向かう。
少し高い、ちょっとした丘くらいの高さにあったのは石の板のようなものだ。不思議な光沢を放っている。その四つ角の隅にはオブジェがあった。説明文らしき石碑があったので、それをロイドが読み上げる。
「えーと・・・? この隅っこにあるオブジェが風の精霊・・・」
「そう、その通りだ!!」
リフィルがどこから出て来たのか顔を興奮で赤らめ、目を輝かせて言った。
「この石はだな、マナが大量に含まれている貴重な代物だ。
しかし現在マナが少なくなっているので、この石舞台のマナも失われつつある」
一息にそういわれ、ロイドはちょっと顔を青くしてふーんとだけ適当に相槌を打った。
「石に含まれているマナが大気中に気化し、そのときに独特の香りを放つ。
これをフィラメント効果と言い、香りと共にマナの輝きが火花のようにあふれ出す。
本来、マナは夜になると青白く輝き・・・」
以下省略。
コレットはにこにこと聞き入っている。クラトスはもはや諦めている。
私は途中からは聞いていたが・・・いかんせん、眠くなる。何だ、この催眠効果は。
ロイドも同じなのか逃げた。ずるい、私も連れてけ。
「・・・・ん?」
ふと見ると石舞台の裏側に人がいる。一人は耳がとがっている赤髪の青年だ。少し刺々しい印象を受ける。
もう一人は青い濃い色の髪の青年で、大人しそうな学者みたいだ。何やら言い争ってる様子で、近くには小型の装置があった。何だろ?
「しかしハーレイ、ここは貴重な遺跡だ・・・。本当にやるのか?」
何やら穏やかではない様子。私はロイドの背後に行って隠れて聞いた。
「いいのか、ライナー? 遺跡がどうとか言ってる場合じゃないだろ。アイーシャが殺されるかもしれないんだぞ」
「・・・穏やかじゃないなぁ」
「うわ! 、いつのまに!?」
いや、さっきからいたじゃん。
「!? 誰だ!?」
「あ、えーと・・・」
見つかってしまった。
「何してるんですか?」
直球に聞くとライナーといった青年は慌てて言った。
「ち、違うんです!僕たち、遺跡を破壊しようだなんてそんなっ・・・!」
・・・・ライナーさん、あなた素直ですね。でも長生きできないタイプです。
さあ、来る。来るぞ、あの人が・・・。
「何だと貴様っ!!」
そして彼が叫んだとほぼ同時にリフィルがどこから聞きつけたのか、石舞台から降りてきたのは言うまでも無い。
遺跡があれば高笑い、ちょっとでも遺跡を傷つければ半殺し・・・。
その名も遺跡マニアのリフィル=セイジ!!死にたくなけりゃ、土下座しろッッ!!
つーかどうやってここまで・・・?
結構距離があったのに・・・それにどーゆー耳をしてるんだ。良く聞こえたな、あの会話。
「今、何と言った!?」
「遺跡を破壊すると申されておりました、先生」
すいません、お二方。
わたくし、恐怖のあまり即答にございます。迷わず成仏をお願いします(おい)
「貴様らそれでも人間かぁっ!?」
「オ、オレはハーフエルフだ!!」
あ、そーなんだ。
しかーしそんな言い訳がリフィルに通用すると思ったら大間違い。
「それがどうした! いいか!よく聞け! この遺跡の重要性をなっっ!!」
バシッ!
リフィルの熱弁と共に、何やら不吉な音が・・・。
私とロイドの視線がハーレイに疑問を投げかけた。それにハーレイはコクコクとうなずく。
・・・・・マジか?
・・・・・マジだ。
ハーレイの視線がそう語ってる気がした。
「せ、先生?」
「何だ? 質問なら後にしろ!」
「あ、いえ。ある意味質問ですが・・・その・・・爆弾のスイッチ、入ったって」
「だから質問なら後に・・・え」
ここで始めてリフィルが我に返る。
「女っ! 数分後には爆発だぞっ、お前のせいだ!」
「人のせいにするなっ!さっさと解除しろ!」
ごげしっ!
人の事言えないような発言をしたハーレイが、リフィルに足蹴にされる。ちょっと哀れ。
しかしハーレイはしてやったりと言いたげに言った。
「へ、へへんっ! そんなものはねぇよ!」
「威張るな!」
どがしっ!
またリフィルのけりがハーレイに炸裂。しりもちついた彼がさすがに哀れになって、手を差し伸べた。
「仕方ねぇな・・・俺が解除するよ」
おお、さすがロイド。頼りになる〜。
ロイドはその爆弾を解体し始め、ライナーはしきりに感心した。
もともと悪事には向いてないのだろう、この二人は。
「すごいな。制御できない爆弾を解体するなんて」
「・・・制御できないものを作るなよ」
まったくだ。制御できない兵器なんて毒にも薬にもならない役立たずよりタチ悪い。
「こらあ! 石舞台は立ち入り禁止じゃあっ!!」
「やべっ! 町長だ!!」
「早く逃げたほうがいいですよ!!」
言って二人は一目散に逃げてしまった。
・・・・って何か落としたぞ?
「何コレ?」
イヤリング、のようなものだろうか?
カフスと言った方がわかりやすいかもしれない。耳に引っ掛けるアレだ。
「・・・あの二人のものかな?」
「! 先生! それより・・・逃げるぞ!」
「りょ、了解!」
まだ調査が足りないリフィルを説得(?)し私達神子一行は急いで石舞台から離れた。
―――――――――――――――――――
「えーと。あのハーレイってヤツはハーフエルフで・・・人気ないみたいね」
聞き込みをしてハーレイとライナーとやらの家はわかった。何であんな事したのか聞きに行くのだ。
「そ、そーだね・・・」
ん?どーしたジーニアス。何か暗いぞ。
あのハーレイってヤツはハーフエルフですこぶる評判が悪い。
私にはとてもそんな人には見えなかったなぁ。悪いヤツじゃなさそうだったけど。
「あ、あとこれを返さないとなー・・・」
と言って私はハーレイの落としたイヤーカフスを手にする。
時計の文字盤のようなのに、雷を模した模様が付いて先の針金部分を耳に引っ掛けるのだろう。
ジーニアス曰く不思議なマナを感じるとの事。何に使うか用途は不明だ。
「・・・まったく! 貴重な遺跡を破壊しようなど・・・考古学者の敵だっ!!」
いや。先生のせいで一度破壊しかけたんですが。
でも言わない。だって怖いから。
「あ、あれかな?」
アスカードの中でも一番奥のほうに位置する家が見えてきたのは、それからしばらくしての事だ。
「えーと、あの一番奥の家だよ」
「じゃ、入ってみるか」
私は軽くドアをノックして、お邪魔する。
「こんにちわー」
「ハーレイ! 兄さん! 町長さんから聞いたわ!遺跡を壊すだなんて何て事を・・・」
うわおう。お取り込み中ですか?
「・・・・・・・ごめん」
「・・・・・・・・・」
叱っているのは藍色の女の人だ。しょぼくれるライナーの妹だろうか? 雰囲気が良く似ている。
「あ! あんた達はあの時の遺跡の・・・」
「どうも〜・・・」
私は力なく挙手する。
「何しに来たんだ。今取り込み中だ、帰ってくれ」
いや、取り込んでるのは良くわかってるんですが・・・。
「それより貴様っ! 何故あの遺跡を破壊しようとした!? 返答次第では・・・」
「ストーップ!リフィルっ、犯罪はあかん!犯罪は!!」
激昂するリフィルを必死に押しとどめる私。
・・・最近、ジーニアスが何であの症状を隠していたか、何となくわかってきた。
「あ、もしかして兄とハーレイを止めてくれた方ですか? ありがとうございます・・・」
「あ、いえ、そんなぁ〜」
何か照れるな〜。
「それでどうして石舞台を壊そうとしたのさ?」
「それは・・・」
ジーニアスが聞くとライナーが言いにくそうに言葉を濁す。
「アイーシャが・・・この馬鹿アニキのせいで生贄にされちまったんだよ」
「はぁ?生贄?」
何だそりゃ。
「こいつは学者でな。アスカードの石舞台を調べてたら、封印が解けて、風の精霊が生贄を要求してきたんだ。
そのせいで妹のアイーシャがとばっちりくらって・・・」
「やめて、ハーレイ。兄さんのせいじゃないわ」
「だがよぉ・・・」
「・・・なるほど、そんな事なの」
「へ?」
遺跡モードから通常に戻ったリフィルが冷静に言う。
「だったら私が生贄になります」
「ええっ!?」
「ちょっ・・・先生っ・・・・」
「町長にも話しておくわ。大丈夫よ、心配しないで」
ここでリフィルは小さく耳打ちする。
「もしかしたら、風の精霊を守護の魔物と勘違いしてるかもしれないでしょう?
それに要求しているのがマナの神子かもしれないわ」
あ、なるほど。
何かの拍子に封印が解けたとか言ってたし、だから神子を要求してるのかもしれない。
「なるほど、じゃリフィルに今回はお任せ状態になるね」
それにリフィルは自信満々な様子で。
「任せておきなさい」
と婉然とと微笑んだ。
―――――――――――――――――――
宿屋。
リフィルは生贄の巫女(神子じゃないのだ)の儀式の手順を覚えるだとかで宿屋に戻ってこない。
そして日が暮れて夕焼けが見えてきた。
そんな宿で私は・・・。
「えーと、どっちだっけ?」
迷いました(何で!?)
・・・いや、トイレ行って荷物は置いてきたのはいいんだけど道順忘れて。
えーと、こーなったら手当たり次第に扉を開けてやるっっ!!(普通はいけません)
ガチャッ
あ、開いた。
ん? でも普通は鍵があったはずだから普通は入れないんじゃ・・・。
悪い事した、宿の人に聞こう。そう冷静な判断をして扉を閉めようとした。そう思った刹那であった。
「・・・トリエットは失敗したが、・・・今度こそは!」
青い髪のどこそこのうら若き若社長のような麗しい顔立ちをしたお兄さんが書類の束を片付けながら、片手でアスカード名物香り良きコーヒーブレンドの香りを匂わせて、優雅にコーヒーブレイク。
もっとわかりやすく端的に言うと。
トリエットでの「お前を我が物とする」発言した変態青年が宿の一室で書類処理の事務仕事。
思わず悲鳴を上げそうになるあてくし(なぜか変わる一人称)
何でテメーがここにいんだよ!?
ロイドを本当に追ってきたのかこの変態!
つーか何しに来たんだよアンター!?
そんな絶叫を何とか押しとどめてマッハで扉を閉めます。そう、光の速さで。
バレてない!? バレてないよねっ!!
扉を閉めて聞き耳を立てるっ!
「・・・ん?」
どきどきどきどき。
「・・・気のせいか」
ええ、そうです! 気のせいです! あなたの心の妖精が見せた幻覚です!!(何だそれは)
よほど集中していたのか、それ以上は何も言ってこない。
・・・・・・ものすごーく危なくないか、この状況。
滅茶苦茶ヤヴァイ状況になったと痛感し、私は急いで部屋に戻ってロイドに忠告しようと走った。
気がつくと、夜になっていた。
―――――――――――――――――――
「ロイドー、ちょっといい?」
青髪変態青年再会(こっちが一方的に)事件から数時間後。
私はロイドに話しかけた。
「ん? 何だ?」
「・・・あのね、大した事じゃないんだけど・・・」
こしょこしょと話す。
・・・とゆーのがあったのが数時間前。
そして今は――――
吹き付ける風が、どこか冷たい。
アスカードの夜は寒い。月は冴え渡り、白刃の様な輝きを放っている。
凛とした空気、梢の音が心地よく、周囲の家にぽつぽつと明かりが灯る。
静かないい夜だ。
天空に浮かぶ月は空の王者の如く輝き、星が瞬く。
遺跡の街アスカードの夜が、今――――確実に深けていく。
雲の足が速い。それはきっと風のせいだろう、風車が回る。その音すらも自然に溶け込んだように思えた。
声を潜め、息を同調させる。
鎌首もたげた蛇のように、私はそれに近づく。
ゆっくりと、獲物を狙う肉食獣のように。さすがに舌なめずりするような下品な真似はしない。
―――そして目標物に私は攻撃を開始した。
「死にくされやオラアアァァぁぁぁあああっっっ!!!」
「!?」
おおよそ夜の静寂とは程遠い、優美とか幽玄とか言った単語とは、数百年ほど縁の無い絶叫が響き渡った。
その手には鋭い光を放つ凶器のナイフ。
しかし獲物を捕らえた感触は無い。
「くっ・・・!」
そしてその「青い髪」をした青年は舌打ちをする。
・・・そう、皆様ご存知なあの人です。
「おにょれっ! まさかさすがに「我が物」とか言ってたけど「さすがに風呂場は犯罪だしのぞかんだろーなー。あー、でも念のために見張っとくかー」なーんて軽い気持ちで見張ってたらホンマに来やがったわね、この世界を代表する犯罪者め!
もうテセアラが、月が、ラスボスが許しても、この私は許さん!
法律とお前を生んだ両親と一般常識に代わって私が今度こそ貴様を裁いてくれる!!」
この世界に法律がどうこうあるかは心の玉手箱の置いておいて。
「・・・チッ、失敗か・・・まあ、いい」
言って変態はにやりと笑い。
「貴様を人質にすればロイドも我が物になるだろう」
「うわ、最低っ! 人質作戦!? でも甘いわね!
そんなんでロイドの身体はものにできても、心までは自由にできない!
第一、ここでやられるほどヤワじゃないんだよ、私はね!」
言ってナイフを一閃!
びっ!
ハラッ
「!?」
浅い、か。だがマントを一部分切り裂いた。
「退け! そしたらあんたを青髪変態男と呼ぶだけで許してやる!」
変態のレッテルは拭えませんが。決して。
「ふんっ・・・その程度で勝ったつもりか! 甘い!」
ばちいぃっ!
「!?」
紫電の稲妻が私にまとわり付いた。マナにより生まれた放電現象・・・ライトニング?
「そうか・・・お前ハーフエルフだっけ」
「そうだ、お前のほうが分が悪いのは明らかだな」
まさにその通りだ。私には剣術の腕前はロイドより下だし、かと言って魔術も治療術も使えない。
第一、この男のほうが剣術も少し上回ってる。
ちっくしょー・・・。
「何やってんだ! あんたら!!」
唐突に聞こえたのは男の声だ。
ってこの声は・・・。
「ん? あんたは今日の・・・」
「ハーレイ!ちょうど良かった! 助けて!
実は今日、とっても不審な人物が私の仲間を奪おうとしてるの!!」
「はあ?」
「意味が違う! 私は変な意味ではなく・・・純粋にロイドの身柄がほしいだけだ!」
「余計に悪いわああアアアァァァッ!!」
真剣な顔で語る男に私はすぐさまつっこむ。
「・・・・良くわかんないが・・・少なくともアンタの方はウソついてるとは思えないな」
「それじゃ・・・!」
「ああ、アイツが・・・・まあ、不審者なのはわかった」
ありがとう、ハーレイ!! あんたいい人・・・いや、いいハーフエルフだ!!
「ありがとう! じゃあ魔術できる?」
「ああ、少しだけだが」
「じゃお願い」
そして私とハーレイは改めて男に向き直る。
「ふんっ・・・しかしその程度の実力では増援が来ようと私には敵わん!」
偉そうな男のそれにちょいとカチンとくるが、私は一言。
「あ! ロイドだ!!」
「何っ!? どこだ!?」
今だ! つーか引っかかるなよ!!
「飛燕連脚っ」
「ウィンドカッター!」
私の開発中の必殺技と、ハーレイの風の刃が男の身体を切り裂いた。
風と共に変態は去りぬ(ちゃんちゃん♪)
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