ドアの用意した宿はパルマコスタ唯一の宿で『夕凪停』、そこは最近のぞきが多いとかなんとか。
昨日もコレットを狙った不届き者がいたし。リフィルはあのしいなと言う暗殺者ではないかと疑っていたが、コレットが慌てて男の人だと弁解した。

・・・・・・気に入られたな、しいな。

そして頭に浮かぶあの青い髪の兄ちゃん。
なぜかしら、あなたの「
ロイド、貴様を我が物とする」と言う発言が頭にリフレインする。
やだな、私ったらあの状況で
ときめいた?待て

とにかくそんな危ない事件があった翌日。
私は事件とか騒動の類は立て続けに起きる、もしくは引き寄せられるのだと実感した。
朝食を食べ終え、優雅に紅茶なんかを飲んでいたのだが。
甲冑を着込んだ兵士が荒々しく、そして慌てた様子で飛び込んだ。そして一言。

「た、大変です! か、カカオの娘のショコラがディザイアンにさらわれました!!」

・・・この一言で私のティータイムは終った。何でまあ立て続けにこーゆーことが・・・。

「何だって!? ディザイアンに!!」
「はい、牧場へと連れ去られ・・・・・・」
私は急いで荷物の中からナイフを取り出した。戦うのだろう、やっぱり。

「みんなっ、助けに行こう!!」
「聞くまでもないでしょ」
私はナイフの鞘でこつんっ、とロイドを小突いた。

「本当ですか!? ありがたい!ことは一刻を争います。すでにドア総督も義勇軍を引き連れておいでです。
 でしたら神子様は先行されるとありがたい、と申していました」
「ああ、まかせとけ!」
ロイドが大きくうなずくと、男は嬉しそうに踵を返して去って行った。ロイドは後ろを振り返り、私とコレットとジーニアスの三人は大きく深くうなずく。それからまた、誰かが部屋に入ってきた。

「・・・ニールです。少し時間をいただけますか?」
声を潜め、静かに部屋に入ってきたのは確かに副総督のニールだ。
ただ周りを気にするような様子は明らかにおかしい。

「ショコラがさらわれた事・・・何か知ってるの?」
当てずっぽうに言ったのだが、どうやらドンピシャ、大当たりらしい。

「・・・・・・・・・はい」
ニールはその重い口から言葉をつむいだ。

「・・・神子様には・・・このパルマコスタを去っていただきたいのです」

「!? どうして!?」
私はニールの言葉の真意がわかり顔をゆがませた。なぜそんな事を忠告するのかはわからないが。

「やはり・・・罠、か?」
クラトスがそう言うとリフィルは肩をすくめた。
「嫌な方の予感が当たってしまったようね」

「でもどうして・・・? ショコラを人質に取ってる時点で罠だってのはわかるけど・・・・・・あ」
そこで私の視界にニールが入る。彼は忠告した。なぜそんな事ができたのか、それはつまり・・・・・・。

「どういうことだよ!?」
ロイドが声を張り上げる。私も少しわかった程度だ。

「・・・ドア総督はディザイアンと通じているのです」
「でも・・・・・・!」

「・・・・・・有害じゃないから」
ぽつりと私は言った。

「・・・そうだ、思い出した。トリエットのあの基地。ディザイアンの技術は私たちが逆立ちしたってかなわない。
 パルマコスタがほおっておかれるのは有害じゃないから。でなかったらとっくの昔に全面戦争になってるよ」

「その通りね」
リフィルが私の意見に同意した。

「だとしたらどうするの、コレット?罠とわかった以上、飛び込む真似をしない方が得策ね」
「そんな・・・!」
それは、ショコラを見捨てる事になる。コレットが叫んだ。

ダメです! そんなの!! みんなが困っているのを見過ごすなんて、わたしはしたくない!」
そんな決意の固いコレットを見て、リフィルはため息をついた。
了承したと言う意思表示なのだろう。コレットはロイドの方をじっと見た。

「ロイド、協力してくれる?」
「ああ!」
ロイドは大きくうなずいた。

「しかし・・・・・・」
ニールは納得しない様子で戸惑った。そんなニールの肩をジーニアスが叩いた。

「大丈夫だよ。ねっ、姉さん!」
リフィルはうなずいて考え込んだ。

「彼がディザイアンと通じているのなら牧場の構造にも詳しいはずよ。
 彼には少しおしゃべりになってもらおうかしら」
リフィルは冷たく微笑んだ。
ちょ、ちょっと寒気がするよ・・・・・ガタガタ)・・・リフィルは怒らせないように気をつけよう、うん。




―――――――――――――――――――




そんなわけで総督府。ドアは地下室にいた。そしてディザイアンの姿。
まるで悪代官と越後屋の会話のようなシュチュエーションだ。何か話してる。

「クララは・・・いつになったら妻は元の姿に戻るのだ!?」
私達はこそこそと積荷の陰に隠れ、その会話に聞き入った。声の主は言うまでもなくドアのものだ。
だが内容は矛盾している。クララと言えばドアの妻で数年前に亡くなったと聞いた。
この言い方はまるで今も生きているようだ。人質にでもされたか?

「さあな、我々の知るべきところではない。せいぜい金を集める事だ。
 それ次第ではマグニス様も『悪魔の種子』を取り除いてくれるだろうよ」
話が終るとディザイアンは姿を消した。こっちへ来なかったので少し安心した。

「お父様・・・・」
気遣わしげなキリアをドアは抱きしめた。

「もう少しだ・・・もう少しでクララは元に戻るのだ。そうだ! 知恵を絞ればいくらでも―――」

「―――どういうことだよ?」

ロイドが声をかけるとドアは仰天した。

「・・・何だよ、まるで死人でも見たような面だな」
「ねえ、ロイド。そのセリフはありがちだよ」
ジーニアスがロイドをつっつく。

「そだね、点数つけるなら・・・40点かな?」
「う、うるせーな」

バカな・・・! 何故神子がここに・・・?」
「ニールさんに聞いたのよ。・・・・・・どういうつもりかしら?」
リフィルが目を細めてドアを睨む。ハッキリ言って怖い、そして迫力がある。

「ニールが・・・裏切ったのか!?」
「裏切ったのはアンタでしょーが」
怒るドアに対し私は冷たく言った。

「でもどういう事なんだ?あんたの奥さんは死んだって聞いた。
 でもさっきの話じゃまるで今も生きてるみたいじゃないか。人質にでも取られてるのか?」
嫌な予感がした。私の嫌な予感はよく当たる。悲しいまでにだ。ドアが声を荒げた。

「人質だと!? クララなら、妻なら・・・」
ドアは自分のすぐ傍にあった覆いを取った。

ここにいる!!

なっ!?

私は鉄格子の牢に入っていたそれを凝視する。見覚えがあった、イセリアで戦ったあの化物。
悲しげに咆哮するその様はまるで泣いているようだ。

「泣いてる・・・」
コレットが手を握り締めて震える声で言った。

「あの人・・・苦しいって泣いてる!!」
わかるんだ、アレが元は人間だったって事を。

「どうだ! これがクララの変わり果てた姿だ! 神子よ! 世界を再生するのだろう!?
 だったらクララも救って見せろ!!」
ドアは先ほどより声を荒げて叫んだ。

「黙れ! あんたの奥さんは確かにかわいそうさ! でもあんたの言葉を信じて戦って死んだ人もいるんだぞ!」
「そうだよ! 根本的には何の解決にもなってない!
 コレットが世界を再生して、ディザイアンを封印すれば―――」

「今まで何人もの神子が旅に失敗している! そんなものに希望を持てというのか!?」

むかっ(←より発せられた音)

じゃああんたは何に希望を持つんだよ!? 辛いから苦しいから何!?
 ディザイアンと手を組んで状況が変わったとでも言うの!? あんたは自分で墓穴を掘ってるんだよ!!」

我慢できずに私がそう言い放つと、ドアは怒りをたたえた目で睨んだ。

「何が神子だ! 世界再生だ! 自分だけが正義だと思うな!!」
ふざけろ!!
ロイドが一際大きな声で言い放った。その声に秘められた感情は、私をびびらせるほどのものだった。

「正義なんて言葉ちゃらちゃら口にするな!!
 大体奥さんを助けたかったら総督府の地位なんて捨てて薬を探せば良かったんだ!
 あんたは・・・奥さん一人のために地位を捨て切れなかったただの臆病者だ!!」

うわ、キッツイな〜・・・。でも私はそれを否定したり、フォローを入れたりするほどお人好しでもバカではない。
だって事実だから。私は自分に甘い人間を庇うほど、優しくはない。

「もうやめて! みんなが強いわけじゃないの! だからやめてあげて!!」
コレットが悲しげに叫ぶ。

「だけど!」
まだ食い下がるロイドに、私は彼の頭を軽く小突いた。

「はいはい、キミは少しクールダウンしなさい。気持ちはものすごーくわかるけどね。
 クララを元に戻す薬を探しに牧場へ行こ。どうせ寄ることには変わらないし。いいよね? コレット」
コレットは大きくうなずいた。

「・・・私を許すというのか?」
「あなたを許すのはわたしではなく街の人達です。でもマーテル様はきっと許してくれます。
 だってマーテル様はあなたの中にいて、あなたの再生を待ってくださるのですから・・・」
コレットはまさしく天使のように微笑んで言った。
慈愛に満ちたその笑みは神子と言うより、聖女と言った方がしっくりくる。
・・・しかしこの考え方ってキリスト教に似てる。
となると唯一神の主はこの場合マーテルで、コレットはイエス=キリストってところだろうか。

ばかばかしい!

突然キリアがそう叫んだかと思うと、ドアはその場に膝をついた。

「お前達のような劣悪種にマーテル様が慈悲を下さるものか!!」

は・・・・?

そう言ったキリアの手は鋭く光り、血に濡れていた。
理解が遅れたが、どうやらキリアは自分の父親をその鋭い爪で突き刺したらしい。

「貴様、何者だ!?」
ロイドが抜剣しながら聞く。キリアは、いやキリアだった彼女(?)は不気味な笑みを浮かべた。

「ふふふ・・・わたしは五聖刃の長、プロネーマ様の下僕」
「プロネーマ? マグニスの部下じゃないの?」
私が聞くとニセキリアはにやりとまた笑って。

「違うな。しかし人間とは愚かなものだ。
 娘が殺された事にも気付かず、ありもしない薬のために右往左往しているのだからな。
 
あははははははっ!!

「・・・言いたいことはそれだけ?」
私は怒りを隠して至極冷静に言った。

「あんたの声ってさ、耳障りなだけじゃなくて私の癪に障るわね。うざったい?
 いや・・・むしろ今すぐ消えちゃえ?」
このっ・・・―――劣悪種がっ!!」
私の挑発(?)に乗ってきて、キリアの身体が瞬時に変化する。紫色の猫背の魔物だ。
鋭い爪を一閃させて、私に襲い掛かる!

きんっ!

「何っ!?」
へへんだっ! ただの小娘と思って甘く見るなよ!!

私はすでに抜き放っていたナイフで爪を受け止める。・・・でも力じゃ敵わないな、こりゃ。
しかし魔物は私から離れて何か呪文を唱える。すると見るからに身体に悪そうな茶色い雨が降ってきた。室内にも関わらずだ。

「何だ、こりゃ・・・!?」
「アシッドレインね! 身体能力を下げる魔術よ!!」
確かに言われてみればいつもより身体全体が重い気がする。
しかしロイドとクラトスの近接組は気にした様子もなく魔物に向かって一直線に走る!

「虎牙破斬!」
「魔神剣、双牙!」
ロイドが上下に切り裂き、クラトスが畳み掛けるように二方向から衝撃波を放つ。

「聖なる力、ここに集いて神の御心を示さん・・・・・・」
コレットが呪文を詠唱する。私は後ろへと下がってコレットを守るようにした。

「・・・エンジェル・フェザー!
音もなく広がった夕日色の羽と同じ色をした光の輪が魔物へと肉薄する!

「きゃあああああっ! そ、そんな・・・プロネーマ、様・・・」
立て続けに攻撃を受け、魔物は倒れ臥した。
だが最後の力を振り絞って魔物はクララの入っている牢へと近づいて鍵を壊した。

「ふふ・・・殺しあえ・・・殺しあうがいい・・・! 人間ども・・・」
それが最後の言葉だった。三流悪役の捨てセリフよりもタチが悪いから厄介だ。
くそっ!余計な事を・・・。
元は人間であったその人は大きく咆哮した。それは泣き叫んでいるようにも見えた。

・・・・来るか?

しかしクララは私たちに構わず地下室の壁をぶち破って逃げていった。

「・・・・う」
ドアがうめいた。まだかろうじて息はあったようだ・・・。

「娘は・・・キリアは無事か?」
「・・・・・・っ!」
私は躊躇した。魔物が言う事が真実なら、本当の彼女はもう―――

「本物の娘さんは無事だ。安心してくれ」
ロイドが誰より早くそう言った。私もみんなも誰も否定はしなかった。

「そう・・・か・・・」

ごふっ

安堵の息と共に血を吐いた。息が、荒い。

「先生!」
「わかってるわ!」
コレットがそう言うとリフィルは意識を集中したが・・・・。彼の血の流れを止める事はできない。
傷は深すぎて回復が追いついていないのだ。
リフィルは悔しそうに唇をかんだ。

「・・・駄目だわ・・・傷が深すぎて回復が追いつかない・・・・」
「・・・いい・・・んだ・・・それよりショコラを助けて・・・くれ・・・」
「・・・・・・わかった」
「これを・・・パルコマスタ牧場の鍵だ・・・・3341で・・・扉は開く・・・」
徐々に声が小さくなる。それを受け取ったロイドの顔は、イセリアのあの時の顔と同じだ。
何とも言いがたい無力感が身体を包み、拳を振るわせた。

「勝手な言い分だが・・・妻を元に戻してほしい・・・キリア一人では・・・寂しいから・・・」
「ああ、わかった」
言い終わるとゆっくりとドアは目を閉じる。とても安らかに永遠の眠りに着いた。
ロイドは悔しそうに肩を震わせた。

「ロイド」

私はロイドに声をかけ無理やりのどの奥から声を絞り出した。それでもハッキリと声を張り上げて言う。
「行こう。この人の、ドア総督の死を無駄にしたらいけない」
私がそう言うと、みんなが大きくうなずいた。




―――――――――――――――――――




パルコマスタの人間牧場は予想以上にあっさりと中に入れた。
何だかトリエットのディザイアンの基地を思い出す。
この技術はリフィル曰く魔科学とゆー機械技術らしい。マナを変換して得たエネルギーが主力なのでこれを使いすぎ世界が滅びかけた事もある・・・らしい。
しかし何でそんな危なっかしいものを持ってるんだ、ディザイアンわ。

「・・・開いたわ」
電子音が響いて扉が自動で開いた。扉の向こうには収容された人々が大勢いた。私達は急いで牢を開放した。
その中に勝気なショコラの姿はない。

「ねえ、この人達はどーすんの?」
「ニールに頼んでみてはどうだ?」
私の質問にクラトスが答える。そう、ニールも仇討ちのようなカンジで着いていくと言い張ったので、着いてきてもらったのだ。

「お任せください、神子様はいかがいたしますか?」
「・・・ショコラを探さないと」
「それに牧場をぶっ潰さねぇと」
「あの・・・」
私とロイド、そしてニールの間に一人の囚人が割って入った。

「そのショコラって子はマグニスの所に連れて行かれたよ・・・」
「! 何だって!?」
「マグニスはどこにいるのさ!?」
「この牧場の一番奥、管制室さ・・・」
その囚人言葉に全員が顔を見合わせてうなずく。やっぱボスは要塞の一番奥にいるか。

「管制室・・・大丈夫、ルートは覚えているわ」
「ロイド、急ごう!」
コレットの言葉にロイドは「ああ!」と力強く答えた。
走って管制室へ向かう途中、私たちはショコラをみつけた。ディザイアンに囲まれている。

・・・邪魔だああああああぁぁぁぁぁっ!!」

勢い良く私の蹴りがディザイアンに決まる。
背後からの奇襲、それもドロップキック。バランスを崩したところをさらにナイフで斬りつける。
我ながらせこいなぁ。でもやめない(おい

「大丈夫か?」
そんな私の奮闘を背景に(嫌な背景)ロイドが気遣わしげに声をかけた。

「た、助けに来てくれたんですか?」
驚いたように言うのはショコラだ。危うく管制室に連れて行かれそうになった。ギリギリセーフだ、セーフ。

「うん、ケガはない?」
「大丈夫です・・・本当にありがとうございます」
深々とお辞儀をしてお礼を言うショコラ。ロイドは照れたのか頭をぽりぽりとかいた。

「あの、神子様がここにいらっしゃるということは、いよいよドア様が動き出したのですね!」
・・・・あ・・・・。そうか・・・ショコラはまだ知らないんだ、彼が死んだってことを。

「私も連れてってください!私も戦います!」

ま、まぢですか?

ショコラの予想していなかった頼みに私は慌てた。
「・・・危険だよ?」

ジーニアスが静かに重みのある口調で言う。しかしショコラの意志は固かった。
「承知の上です」

「・・・連れて行こう。今戦力を割くのは危険だ」
「そうだね、いいよね?コレット」
コレットは何も言わず微笑んだ・クラトスはそれを見てスタスタと先に進んだ。

だーかーらー、アンタ護衛だろーが。
コレットを置いてくなって、にーさん。

私は呆れつつクラトスに続いた。転送装置の前でクラトスは待っていた。
おそらくこの先にマグニスがいるのだろう。
私ははぁ〜、と手に息を吹きかけてパンッ! と頬をたたいた。それにびくりとジーニアスとコレットが反応する。

気合は充分!

「うし!行くぜ、野郎ども!」
私は高らかに言った。




―――――――――――――――――――




転送装置を作動させて気がつけば管制室だ。広い部屋だ。まるで悪の組織のアジトだ。
いや事実そうなのだが。
私が部屋を見渡すと突然・・・・

『ようやく来たか!天に見放された神子と豚どもがっ!!』

・・・と言うでっけぇ声が聞こえた。古い言い回しだ、
20点(採点するなよ)

「天に見放されただと?」
クラトスが目をひそめる。
ん? どうかしたのか?

「天から見放されたのはお前だ! マグニス!!」
剣を抜き放ち勇ましくロイドが言い放つ。すると天井から何か降りてきた。どういう仕組みなのか空中に浮かんだイスで、それにマグニスが座っていた。その目は私達をバカにしきっている。

「所詮は豚の浅知恵よ」
そうマグニスが言うと転送装置から光が消えて、別の左右の転送装置からディザイアンに囲まれた。
逃げ道は・・・ない。ってか逃げる気ないんだけど。

「か、囲まれましたぁ〜」
ロイドはディザイアン、マグニスを油断なく睨み、クラトスはいつでも抜刀できるように剣を構えた。

がはははははは! お前らの行動は全て筒抜けよ!!」
すると向こうにある窓のようなものに映像が映された。
ニールが脱出しようとするが閉じ込められると言う映像だ。
カメラでも仕込んでいたのか、この牧場! プライバシーもクソもないな、オイ!

「な、何でニール達があんな小さいところに入ってるんだ!?」
「ロイド、そうではない。あれは魔科学の投影機だ」
「とーえいき?」
クラトスは小さくうなずいた。

「離れた場所を映し出し記録する事ができる」
「・・・・ってことは私たちの行動は筒抜けって事? うわ、プライバシーの侵害、最低ー」
私はおどけて肩をすくめた。慌てた所で意味がないし(
少しは緊張感を持て

「ドアが裏切る事も承知済みよ! わかるか!? 貴様らの行動全てが無意味なんだよ!!」
それを否定するかのようにロイドは腕をふった。

「無意味なんかじゃない! お前を倒し、この牧場を潰せばみんな助けれる!」
「はあ!? 良くもまあそんな事が言えるなあ! 
 イセリアが燃えちまったのは、お前の無意味で無駄で無策な行動のせいだろうが!!」

「無い無いうっさいなあ! 責任転嫁しないでよ!
 そもそも全ての悪の根源はあんたらディザイアンでしょーが!!」
「ふんっ!良く回る口だなぁ、オイ!」
私はそれにぐっ、と親指を立て、それをビシッ!と自分に向ける。

「任せなさい! 口だけは達者だ!!」
威張れないけどねっ☆(涙)

するとマグニスはニヤリとやらしー笑みを浮かべた。私のシックスセンス(第六感)がこーゆー顔をして笑う奴は大抵、いや常にロクでもないことを考えていると告げていた。
イヤーな予感がする。

「そうだな・・・あそこに映ってる連中でもう一度再現してやろう!」
「や、やめろ!」
怒りより悲鳴に近い声を上げるロイド。マグニスはまたにやりと笑った。

「おいおい、遠慮するなよ・・・。お前が殺したババア・・・マーブルみたいにしてやるよ!!」
「マーブル!? マーブルってまさか・・・!?」

・・・・っ!?
ショコラは震えながら言った。

まさか・・・っ!?

「そうだぜぇ、ショコラ! テメエのババア、マーブルは殺されちまったのさ! そこにいるロイドになぁ!!」
「っ!!」
「ウ、ウソ・・・!!」
ショコラは震え、私達から離れた。しかしジーニアスが慌てて弁解した。

「ち、違うよ! ロイドはマーブルさんを助けようとして・・・!」
「ロイドが殺したんだよなぁ?」
ジーニアスの言葉をマグニスが奪うように言った。ショコラが怯えるようにまた一歩と下がる。

「だめっ!!」
コレットが叫んだ。それから続くようにディザイアンがショコラの腕をつかんだ!

「ショコラを放せ!」

来ないで!!

助けようとロイドは駆け寄ろうとしたが、足を止めた。他でもない、ショコラの声で。

「おばあちゃんの仇に助けられるなんて死んでもゴメンよ!」
「死ぬなんて言っちゃ駄目!どんな時でも死んじゃうより生きているほうが絶対いいよ!」
コレットの説得にショコラは否定するように激しく首を横に振った。

「ほおっておいて! 私のことはドア様が助けてくれるわ!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
この一言で私の中の何かが切れた。

「・・・? ・・・?」
私はショコラに向き直りコレットを制した。私が制さなければきっとコレットはショコラを助けようと飛び出ただろう。
頭は冷静だった、しかし何かが熱い。

「・・・そうやって来るかどうかもわからない助けを、ずっと死ぬまで待ってるつもり?」
私は冷たく軽蔑した目でショコラを見た。

「・・・死んだ方がマシ? じゃあ死ねよ、死んでみなさいよ・・・」
段々と声が震える。怒りで。

「死ねよ! 死んで見せろよ! 自殺なんてバカでもできる! 自分は何もできないくせに!?
 あんたのおばあさんは私を!う うん、ジーニアスをロイドを・・・文字通り死んで守ってくれたんだ!
 なのにお前は何!? おばあちゃんの仇に助けられたくない!?
 ふざけんな!!
さらに声を荒げ、わたしは言い放つ。

「お前が一体何をした!? 人質になって、ただ私達の足を引っ張ってるだけじゃないか!
 それなのに助けられたくない? ドアが助けてくれる? 甘ったれるな!
 そこまで言うなら自力で脱出ぐらいして見せろ! できないに決まってるけど!!
 私たちに助けられたくないなら・・・本当に死ぬ気で逃げればいいさ!」
私は息継ぎをせずにまた言う。

選べよ! 何もできない役立たず!!
 私たちに助けられるか、来るはずない助けを待って大嫌いなディザイアンに捕まっているか、死ぬか・・・。
 自力で逃げるか! 選べ!
 そして決めろ!!

それにショコラは瞬きもせず涙で潤んだ顔で、私を見た。ショックを受けてる。

「ちっ・・・そいつを連れて行け」
私の荒いだ叫びが気に入らなかったのか、マグニスが舌打ちしてあごをしゃくった。

どけ! ショコラはまだ答えてない!!」
私は勢い任せでショコラを追いかけようとした。しかしディザイアンに阻まれた。

「来るぞ!」
ロイドがそう言うと、ディザイアン達が一直線にこちらに走ってきた。

「どけっつってんだろうが!!」

ざんっ!

怒りと腹正しさの二つの感情に身を任せ、私はディザイアンに斬りかかった。もはや何も見えない。
ただ目の前にいる敵が邪魔だった、それだけだった。
どうしようもない感情のまま周囲を見回す。ショコラとディザイアンの姿は無い。
もう連れ出されたのか。失望で拳を白く、血が出るまで握り締めた。

「死ねえええっ!」
「っ!?」
気がつくと鞭を振り上げるディザイアンが迫ってきた。まだ残ってたのか!?
避けれないっ!

・・・が数秒後、ディザイアンはどさりと倒れた。

「ボサっとするな、死ぬぞ」
クラトスだ、クラトスが助けてくれたんだ。私は小さくうなずいた。少し冷静になった。
頭にあった熱が一気に冷めていく。
落ち着いて深呼吸する。・・・大丈夫だ。

金属の床を踏みしめ、ロイドが走るのを見た。
クラトスが剣を一閃させると、ディザイアンがばたばたとウソみたいに倒れていく。
私はチラリとマグニスを見た。コメカミあたりがひくひくしている。
ロイドとクラトスがディザイアンを全て片付けるとロイドは剣を振り払いながら言った。

「観念しろ、マグニス!」
「誰が観念するかぁ! こうなったらこのマグニス様じきじきに相手にしてやる! 神子共々、葬ってやらぁ!!」
「できるもんならやってみろ!」

かくして第二ラウンドの開始だ。マグニスは巨大な斧を手に床に立ち、その斧を持ったまま大きく振り回した。
そのバカ力はさすが五聖刃と言うべきか、・・・ま、だからって負けてやるなんて甘い考えはカケラとないが!!

「うらぁっ!」

ぶぉんっ!!

小さな火の粉を撒き散らしながら、その斧を私たちに向かって振り回す!
な、何とか避けたが当たれば一撃で骨が粉砕するぞ、これわ。

「水に呑まれろ・・・スプレッド!」
ジーニアスが呪文を唱える。
すると地面から水柱が立ち、文字通りマグニスが水に呑み込まれた。
水圧を舐めたらいけません、あれはかなり痛い!

「獅子戦吼!」

ごばあっ

水柱に穴を開けた強烈な衝撃は、勢いを忘れずに放たれる!マグニスが放ったものだ。
なるほど、「気」の衝撃波でスプレッドを押し返したのか。

・・・って感心してる場合ぢゃない!

「瞬迅剣!」
クラトスの剣が唸り、風のようにマグニスを突く。マグニスは苦痛で顔を歪ませ反撃するっ。

「イラプションッ!」
「ファーストエイド!」
マグニスの魔術とほぼ同時にリフィルの回復術が炎に包まれたクラトスのヤケドを癒す。

「行くよ、ロイド!」
「ああ!」
ジーニアスのセリフにロイドが大きくうなずき走る!

「ライトニング!」
「虎牙破斬!」
タイミングぴったりに雷と斬撃がマグニスを襲う!まだだ!

「行くぜ!
 襲爪雷斬っ!!
ジーニアスのライトニングの威力を殺さず、それを剣にまとって大きくロイドは振り下ろす!!

勝負は、決まった。

「な、なぜだ・・・・!? 優良種たるこの俺が・・・人間などに・・・・」
そりゃ、あんたが自分の力を慢心してるからだよ。
そう思ったがあえて口には出さなかった。私の言葉を大人しく聞くわけないし、言う義務もない。

「それはお前が愚かだからだ、マグニスよ」
抜き身の剣を持ったままクラトスが歩み出た。

「クルシスは神子を受け入れようとしている、わからないのか?」
その言葉にマグニスの顔が怒りから驚愕に変わった。

「そう・・・・か・・・俺は・・・だまされてたのか・・・・・」

どさっ!

そう言ってマグニスは、あちこちに付いた傷の中でもっとも深いと思われる傷の部分を押さえて倒れた。
そして感じる強烈な違和感。・・・何かがおかしい。それが何かはわからないが。

「だまされた? どういう意味だ?」
「・・・わからないわ」
リフィル首を横に振り、近くにあった装置の一つに近付き操作した。

「これで囚われていた人は脱出できたわね」
「本当? よかった・・・・」
コレットが安堵の息を吐く。だがリフィルはさらに機械を操作した。

「さて、これでいいかしら。時間は十分後ね」
「へ? 何が?」
「この基地を爆破します」

ぶっ!

思わず吹き出した・・・。さらりと言ったな、さらりと!

「叩くなら徹底的やるべきでしょう? 少なくともこの辺り一帯のディザイアンの勢力は激減するわ」
それはそーなんだが・・・。顔に似合わず過激にございますね、リフィル先生・・・。

「でも姉さん・・・」
ジーニアスの気遣わしげな視線にリフィルはいつもより声を和らげた。

「・・・私達と彼らは違うのよ、忘れないで、ジーニアス」
・・・・? どーゆー意味だ?
リフィルが指を動かすのをやめると警報がなった。考えても始まらないな、こりゃ。

「早く脱出しよう。俺達まで吹っ飛んじまう」
それぞれがうなずき、かくしてパルマコスタの牧場は炎に包まれた。
私の心に、何かしこりを残して・・・・。



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