砂漠の花、トリエット。
私はへばっていた。
「暑いー・・・、ここはサハラ砂漠かー鳥取砂丘かー?」
「やめなよ、。・・・・余計暑くなるから」
私をたしなめるジーニアスの声にも覇気はない。ここは砂漠の花トリエット・・・の入り口付近。
なぜならディザイアンがうろついているのではいれないのである。
「お! どっか行くみたいだぞ!!」
どーやらやっと行ったらしい。
ディザイアンの話し声を盗み聞き(オイ)してわかったのだが、ロイドの手配書を張り出していたらしい。
「・・・・・・・・なあ」
その張られた手配書を凝視し、ロイドはつぶやいた。
「何がー? ・・・・ぶっ!」
思わず吹き出しそうになった。その手配書は似ていない、とうゆーか何とゆーか・・・。
「よ、良かったね、ロイド!! これならきっと気づかれないよ!」
フォローのつもりなんだろうけど口元が引きついてるぞ、ジーニアス。
「しっかし・・・これ。フォシテスが描いたのかな?」
想像してみた。
変な機械のある牧場の主人フォシテスが、部下に命じてモンタージュする姿(しかも何か変)
・・・かーなーりー笑えるのですが、その光景。
ハーフエルフ・・・いやディザイアンの美的センスと視力って悪いのか?
それともわざとか、わざとだったらお茶目だ、ディザイアン。
「・・・私、ディザイアンに対する何かが変わったよ、ちょっとだけ」
まあ手配書のことは気にしなくてもいいだろう、多分。
何はともあれ情報収集。コレット達は旧トリエット遺跡に向かったらしい。そこに封印とやらがあるのだろう。
私たちは必要なもの、保存食、水、マント(肌を出すとやけどするので)を買って一旦町から出ようとした。
だが。
「見つけたぞ! ロイド=アーヴィング!!」
「・・・・・・・・・は?」
「なるほど、手配書にそっくりだな。捕まえろ!!」
「ちょっと待てえええええええっ!!」
思わず絶叫。
どーゆー目とセンスをしているんだこやつらは。
私のさっきの考えは前者か、前者なのか?教えてマーテルさま!!(何でだ)
「覚悟しろ! ロイド=アーヴィング!!」
かくして。
素敵なセンスと視力のディザイアンとの戦いは幕を開けたのだった。
数分後。見事気絶した私たちは謎の建物に運ばれたのだった。
―――――――――――――――――――
「・・・へー、面白いな、ここ」
きょろきょろと周囲を見回し、感慨深げに私はつぶやく。
気絶して(と言っても運ばれる途中で気がついた)ここに運ばれた私達。ジーニアスはうまく見逃してもらった。
・・・何とゆーか意外と優しいしフレンドリーだ。本当に悪の根源か、こいつら。私だったら見逃さないぞ、絶対(おいおい)
まあ、それはともかく。私とロイドは牢から脱出し、探索中である。けっこー広い。
「・・・何かコレットを守るために追いかけているのに、助けてもらうために捜してもらってるみたいだな」
「・・・・・・ロイド、それは言わないで。情けないから」
「・・・・・・ああ」
本気で情けないな、オイ。何はともあれ脱出しないと。私とロイドはそろりそろりと足音を立てずなるべく急いだ。
すると背後から扉が開いて、声が聞こえた。
「あっ、貴様!」
ひ、ひええっ!!
声にならない悲鳴を上げ、私はロイドの首元を引っつかみ、我ながらすばらしい速さで逃げた。
振り向かず走り、何も考えず扉の前に立ってその中に入った。
「これで一安心・・・・」
心臓に悪い・・・・寿命が縮むって、コレ。
ふぅっ、と息を吐く。多分私たちを見つけるのには時間がかかるだろう。
「何者だっ!?」
「うどぅわあっ!?」
もはや悲鳴にならない悲鳴だ。私とロイドはぎょっと振り返って、それぞれの武器を構えた。
部屋の中には男が一人、それ以外に人の気配はない。ディザイアン、だと思う。
顔は兜で隠しておらず、なかなか男前なお兄さん。美形だ。青い髪を束ね、その瞳は油断なくこちらを見据えている。
ついでに付け加えるなら、強い。ロイドもその事実に薄々気づいているのか、いきなり斬りかかるような迂闊なマネはしない。多分、私達二人でも敵うかどうか・・・。
だが背を向けて逃げるわけにもいかないので、じり、と距離を置く。
男の手のひらに光が集まる。ジーニアスの魔術と同じだ。ロイドが男に向かって先ほどのセリフを返した。
「人に名前を尋ねるときは、まず自分の名前から名乗るもんだぜ?」
聖堂でクラトスに言ったセリフまんまである。・・・正論なんだが腹立つよなぁ、これ。
しかし男は挑発には乗らず(・・・挑発してるんだよね、このセリフ)笑みを浮かべた。
「ははは! いい度胸だな。しかし私は生憎貴様のような下賎な者に名乗るような名は持ち合わせていない」
うわ、ムカつく。ロイドも同じくカチンッときたのか言い返す。
「奇遇だな。俺も生憎他人に名前を名乗れない、一般常識を知らないやつに教える名前はないぜ」
良く言った!! 偉いぞ、ロイド! もっと言ってやれ!!(他力本願な)
「貴様・・・」
男の表情が一気に怒りに変わる。まあ当然か。
「・・・ん? そのエクスフィア・・・? そうか、貴様がロイドか!!」
はい?
男の視線はエクスフィアからロイドに移った。手から光と敵意が消える。
「・・・だったら何だって言うんだ?」
食ってかかるかと思いきや、ロイドは冷静に返した。男はじっ、とロイドの顔見てフッ、と笑った。
・・・どーでもいいが私のこと、視界に入っていねぇだろう、兄さん。
二人だけの謎の空間を作らないでいただきたい。いや、切実に。
「なるほど・・・面影はあるな」
「面影? どういう意味だ?」
・・・・・・・・・。
私は黙って男の顔を見た。彼もハーフエルフなのだろう、魔術を使ってたし。
そしてロイドの両親のことを少なからず知っている。何者だ? この男。
「リーダー! 神子らが侵入してきた模様です!!」
扉から何か聞いたことがある声がした。
「あっ! 聖堂でコレットを襲ってクラトスに返り討ちにされた・・・・えーと、ボータだっけ?」
「お前らは・・・・・」
あ! 私のこと、ちゃんと視界に入ってる! 複数だよ、無視されてない!!
「ボータ、そいつがロイドだ」
「・・・・そうでしたか、これは傑作ですな」
ボータはにやりと笑みを浮かべた。
・・・・何だと言うのだ。
「私は一旦退く。奴に私のことが知られたら計画が水の泡だ」
「神子はいかがなさいますか?」
「お前に任せる」
「・・・・了解」
男は奥にある扉を開け、こちらに、いやロイドに向かってその瞳を細めた。
「・・・・・・ロイド、次こそは貴様を我が物とする」
ひききっ!(←何かが凍った音)
「・・・覚悟しておくのだな」
そう言って男は最後までロイドの方を気にしながら去っていった。
・・・ちょぉぉっと待てや兄さん(←脳みそ半分凍結中(フリーズ))
「・・・ってアンタは自分の言ってること理解してるんですか!?」
思わず敬語だよ。
「不純同姓交遊を求めるならまだしもっ! 身体目当てかよ!
この犯罪者ッ、世間一般常識があんたを裁くぞ!!
ってかむしろ私が貴様を裁く、裁いてやる!!
そこになおれっ、手打ちにしてくれるっっ!!」
「・・・なぁ、アイツ、もうどっかに行っちまったぜ?」
ロイドがおずおずと私の迫力に押されつつも言った。
あ、しまった。脳が凍結してワンテンポほど遅れてしまった。
・・・聞こえてるかなぁ、私の(心の)叫び。届け私の電波(ヲイ)
「・・・しっかしこの状況ってもしかしなくても大ピンチ?」
ぽりぽりと頬をかいて緊張感のカケラも感じさせずに言う。
緊張感がなく、シリアスな空気をぶち壊す。それが私の長所である(本当か?)
そして、いきなり扉が開いた。敵の増援、ではない。
「ロイド! !!」
「ジーニアス!!」
颯爽と現れたのは我らが神子一行!ないすタイミングだ、おねーさん100点あげちゃう!!
「二人とも、大丈夫?」
「へーきへーき!・・・たださっきロイドは別の意味でピンチだったけど。」
「?」
コレットとジーニアスが首をかしげる。
・・・・知らない方が良いことって、どの世界でもたくさんあるのね(悟った口調)
「ちょうどいい、ここで神子もろとも始末してくれる!!」
ボーダがその手に持った曲刀を振り上げる!
・・・ぃん!
それをクラトスが見事に受け切るっ!
「クラトス!ロイドっ!ボーダは任せたよ!!」
「はどーすんだ!?」
一緒に床を蹴り、走りながらロイドが聞く。
スピードをさらに上げ、私はディザイアンを大きく跳躍して飛び越える。
「とりあえず・・・」
背を取られて慌てるディザイアン。遅い。
「ザコは任された!!」
ざんっ!
肉を断つ音。・・・この感触だけはどーやっても慣れそうにないなぁ。傷は深くないが大きく斬り裂いた。
倒れるディザイアン、これで一人っと!!
「ウィンドカッター!!」
幾多もの風の刃がディザイアンの皮膚を斬り裂く。これで動かなくなるのが二人。
ロイドとクラトスは二人がかりでボータへ斬りかかる。ボータの額から汗。押してる押してる!!
ぎいぃぃんっ!!
「くっ・・・やはり貴様に対して私一人では荷が重かったか」
見事刃の部分だけ斬り落とされた曲刀を投げ捨て、ボータはクラトスを睨んだ。
「退け」
クラトスのその一言にボータは何も言わず、青い髪の男が去った扉へと消えた。
「はぁ・・・とりあえず危機は去ったぁ・・・」
本当にとりあえずだけどね。
「そうだな」
ちゃきん、と剣を鞘に戻し、ポツリとロイドがつぶやいた。・・・何か元気がない。そんな空気を振り払うように私は言った。
「コレット達と合流できたし・・・、こんな所に長居は無用! 脱出しよ!!」
―――――――――――――――――――
トリエットの宿、オリーブ停。ここで現在私達は・・・・。
「素晴らしい!!」
・・・ロイドのエクスフィア講座を受けている。
「つまりエクスフィアとは潜在能力を引き出す道具ということね」
目をキラキラさせてボータの持っていたエクスフィアの飾りのついた曲刀を眺めるリフィル。
・・・・・・・・・何か怖いぞ。
「私も・・・使いたい」
「うーん・・・・」
ロイドは唸った。言いにくそうなロイドの代わりにクラトスが言った。
「難しいだろうな。要の紋がなければエクスフィアは人体に有害なだけだ」
「・・・あ、だとしたら研究材料の中に・・・・・・」
リフィルはバックから色々と取り出した。大量に。
・・・ずっとこれを持ち歩いていたのか。重いぞ。
「ん?」
そんな『研究材料』の中から、私はどこかで見たことある金の輪を見つけた。
「ねぇ、これ要の紋に似てない?」
「どれどれ・・・ってこれ、要の紋じゃねぇか!」
その要の紋をみてロイドが声を上げる。おやまあ。
「何っ!? ではこれで私も・・・・!!」
「あ、だけど呪文部分が擦り切れてる・・・。でもこれくらいなら俺でも治せるな」
「それじゃあそのエクスフィアは私がもらう! 異存はないな!?」
男言葉になっているリフィルの有無を言わさぬ空気に圧倒され、誰も彼女に逆らわなかった。
―――――――――――――――――――
「夜はやっぱり冷えるな・・・・もう少ししたら宿に戻ろう」
夜の砂漠は当然ながら寒かった。昼とは打って変わって静かだった。空は空気は澄んでいて、星が良く見えた。
何か眠れないので散歩をしていたのだが・・・・。
「・・・あれ?」
クラトスの姿が見えた。あの特徴的なマントは一発でわかる。
「何してんだ?こんな時間に。」
私も人のことは言えないが。彼も眠れないのだろうか?
クラトスは宿の前にある小屋につながれたノイシュの頭をなでていた。
その背後からなぜか足音を忍ばせて、ロイドが近づいた。
じゃきっ
「うわっ!」
目にも止まらぬ速さで抜刀した刃が銀光となり、ロイドの喉元に突きつけられた。
・・・なーにしてんだ、あの男。ロイドを殺す気か。
「・・・ロイドか、すまない。驚かせたようだな」
見ている私も大いに驚きましたが。心臓に悪いです。
「私の背後には立たないほうがいい。敵と認識して斬るかもしれん」
アンタはゴル○か。もしくは英雄嫌いの某オノ男か。オレの背後に立つんじゃねぇ!! ってか?
「ノイシュがなついてるな、珍しい。あんた動物好きなのか?」
「いや、・・・ただ昔、動物を飼っていたことがある」
「へえ」
50へえ。・・・・・・じゃなくて。
そして、二人はそれ以降会話が続かない。クラトスもロイドも黙ってノイシュを見ている。
・・・何かお見合いして、話のネタが尽きた男女みたいだ。
あ、もちろん役柄的にクラトスが男で、ロイドが女ね。私の趣味と偏見から(待て)
そして、静かに、真剣な瞳でノイシュからロイドに視線を移すクラトス。それに気づきロイドはとぎまぎとした。
・・・・・・本気でいい雰囲気なんですが、お二人さん。でも止めない、だって女の子だもん(わけわかんねぇ)
「・・・ロイド、お前の太刀筋に迷いが見えた。迷いを見せれば・・・・・お前が死ぬぞ」
・・・・・・・・・。
ロイドはクラトスの言葉にうつむいた。図星、なのだろう。
「迷いを見せれば死ぬのが戦場だ。自分の身は自分で守れ」
「・・・・・わかった」
それを聞くとクラトスは宿に足を向け、やがて立ち止まりまたロイドに向かって言った。
「・・・明日は早い。早く寝ろ」
そう言うとクラトスはスタスタと宿へ戻った。
「ちぇっ! ちょっと俺より腕が立つと思って偉そうに・・・・」
ちょっとか?ちょっとなのか?
そんな私のつっこみを知ってか知らないでか、ロイドは腕を組んでつぶやいた。
「・・・・・・いや、大分かな?」
「あはは! わかってんじゃん」
宿の陰から私は笑みを浮かべ、ロイドに声をかけた。
「?もう寝たんじゃないのか?」
「眠れなくて散歩してたの。宿に戻ろう、クラトスも早く寝ろって言ってたし」
するとロイドはじぃっとこっちを見てきた。
「・・・聞いてたのか?」
「あ、あはははは・・・・。偶然、ね。クラトスは心配してるんだよ、彼なりに」
「心配・・・ねぇ。ただ単に俺が足手まといにしないようにしてるだけだと思うけど」
うっ、それは否定できん。
「いいじゃん、強くなれるんだから」
「そうだけど・・・」
「はいはい! 男が四の五の言わない! 結果よければ全てよし! 明日は早いからもう寝よ」
「あ、ああ」
ずるずるとロイドをひきずり、私は宿へ戻った。夜空にぽっかりと月が一つ、私達を照らした。
―――――――――――――――――――
旧トリエット遺跡。火の精霊イフリートが封印された地で、そのイフリートによって滅んだ遺跡。
何で滅んだかと言うと、世界再生に失敗したせいだとかなんとか。
トリエットからは大して離れていなかったのがせめてもの救いだろう。しかし暑いことには変わりはない。遺跡に着いて、私はあることに気づいた。
「あれ? ノイシュは?」
「ああ、いつものことだよ。魔物がいるといつもどっか行くんだ」
ああ、言われてみれば。
森を通ってイセリアまで行く途中、何度か魔物に襲われたけどその度にノイシュの姿はなかったしなぁ。
「魔物の気配に敏感なのだろう。こういった場所ではノイシュの事はあてにしない方がいい。かわいそうだ。」
・・・・・は?
「どうした?」
「あ、いや、別に・・・」
クラトス・・・あんたの口からかわいそうなんて単語が出るなんて・・・。
自覚してないけど、あんた絶対動物好きだって。絶対。
「コレット! こっちに来るんだ!!」
ささっといつのまにか台座のようなものがある場所へ移動したリフィルは、また男言葉でコレットを呼んだ。
「ふふっ、これは神子を識別するための石版だなっ♪ それに見ろっ、この隠し扉を!」
しゃがみこんで砂を払うと、そこにはいかにも怪しい地下へと続きそうな階段を隠す石版があった。
「くくくっ! 思ったとおりだ!これは古代大戦時に使用された魔法障壁のカーボネイトだ!
ああっ、この滑らかな肌触り! 何て見事なんだぁ♪」
「あ、あの・・・リフィル・・・さん・・・・・・?」
思わずさん付けしたが、リフィルは聞いちゃいない。ジーニアスはため息をついた。
「・・・いつもこうか?」
「そう・・・なのか?」
そのあまりの豹変ぶりにクラトスは相変わらず抑揚のない声で、ロイドは驚き掠れた声でそれぞれ聞いた。
「ああもう・・・隠してたのに」
・・・なるほど、聖堂で聞いた笑い声はこれが原因か。
何と言うか・・・。言葉が見つからないわ。それ以外になんて言ったらいいのか、わからないの。
「コレット、ここに立って手を当てるんだ」
「はい」
コレットが石版に手をかざすと重苦しい音を立てて、入り口が開いた。
「わー、すごい! わたし本当に神子みたい!」
「神子なんでしょ! もー」
ジーニアスのあきれた一言に、コレットはえへへと笑った。
「では行くぞ」
こうして、クラトスを先頭に遺跡探索が・・・・・・。
ん? いやいやいや、封印の間の探索がスタートした。遺跡自身は探索しなくていいんだよ。うん。
―――――――――――――――――――
地下にある遺跡なので暗いと思いきや、意外と明るかった。それは所々にあるたいまつの炎のおかげだろう。
・・・ただ酸欠になりそうで心配だ。
遺跡には王道の罠や仕掛けがあった。消えているたいまつに炎を灯し、祭壇への道が開く仕掛けだった。
謎を解き、火を灯し、そして・・・。
あっという間に私達は封印の間の祭壇についた。
「素晴らしい!ここも魔科学で造られているな!」
魔科学? どっかで聞いたことのある・・・と言うかゲームで。ファンタジアでそんな単語があったような・・・・・・。
ゴゴゴゴゴッ・・・!
「うわ! 何っ!?」
祭壇から何か吹き上げてきた!
現れたのは犬のような魔物。でっかい炎をまとったのが一体、それを小さくして骨だけにしたのが二対。
あらかわいい、の一言で終らせるような姿ではない!!
「何! こいつらわ!?」
「おそらく火の試練の一つよ! クトゥグハ! ・・・来るわよ!!」
「うん、任せて!!」
私はちらりとロイドとクラトスを見た。二人は当然ながら戦い慣れている。
ロイドは骨のクトゥグハを、クラトスはでっかいヤツを。
接近戦しかできない私は必然的に残った一匹、クトゥグハボーンとなる。
・・・ヤバイなぁ。
何がヤバイかって? ンなモン決まってる。
私は一般人です。軍人でもなければ、肉をかっさばいて売る肉屋でも魚屋ない!
つまり戦い慣れていないのである。ついでに動きも鈍い。
「くっ!」
散ってくる炎を避けてナイフで斬りつけて逃げるヒッド・アンド・ウェイ戦法。
これはかなり効いたがようだが、いかんせん私の体力が保たん。それに暑いから、汗をかいてさらに体力消費。
・・・ちくしょー、これじゃ足手まといだよ。
「!!」
へっ?
コレットの声がして気付いた。クトゥグハが私に近づき、爪を振り下ろそうとしている。
「アクアエッジ!!」
水の刃が足元を滑る。私は咄嗟にナイフで身をかばう。
ざくりとクトゥグハボーンの腹が薙ぎ払われた。クラトスだ。
彼は私の方をちらりと見るとクトゥグハへと、また斬りかかり、やがて倒れ伏した。
・・・足手まといだとか思われたなぁ、きっと。
「っ、大丈夫?ケガはない?」
「・・・平気、クラトスが助けてくれたから」
心配そうな顔でジーニアスが私に近寄る。剣についた炎を振り払っているクラトスに私はお礼を言った。
「ありがと、助かったよ」
「・・・大したことはしていない。気にするな」
いや、死にかけたのですが私は。大したことですが。
それとも私の命は大したものではないのでしょーか? 傷つきますよ、私。
『再生の神子よ、祭壇に祈りを捧げよ』
レミエルの声だ。どこにいるんだ?
ふと気付くが、祭壇には何か・・・ガラスケースのようなものがせり上がり、その中に赤い光があった。
コレットはその謎の光球に向って歩いた。
「大地を護り育む大いなる女神マーテルよ、御身の力をここに!」
パアアアァァッ
赤い光が輝き、やがて消えると天使レミエルが降臨した。
「我が娘、コレットよ。見事な働きであった」
レミエルは満足そうにうなずいた。
「第一の封印は解かれた。『クルシス』の名の下にそなたに天使の力を授けよう」
「はい、ありがとうございます・・・お父、様・・・・・・」
お父様と呼ばれるのが聞こえているのかいないのか、レミエルの足元から四色の光が放たれ、コレットの身体に吸い込まれた。
「うわあ・・・」
思わず息を呑んだ。コレットの背からは、夕焼けの赤紫色に煌めく光の羽が生えた。
「天使の変化には苦しみが伴う。しかしそれも一夜のこと、耐えるのだ」
その言葉にコレットはうなずく。
「試練なのですね、わかりました」
「次の封印は遥か東、海を隔てた先にある」
そう言うとレミエルはゆっくりと上昇し、消えた。ただ最後に。
『次の封印で待っている。再生の神子にして、我が最愛の娘コレットよ・・・』
という声が残った。
「すごいなぁ! コレット、本当に天使になったんだね!」
「うん、ほら」
ぱたぱたとコレットは羽を羽ばたかせた。
「すごいすごい!」
「えへへ〜」
子供のように(いや子供なんだが)はやしたて、それに笑顔で答えるコレット。
「はいはい、二人とも、おやめなさい。トリエットに戻るわよ」
「・・・はぁい」
「はい!」
対照的にジーニアスとコレットが返事をした。
―――――――――――――――――――
自慢じゃないが昔から、悪運だけは人並み以上、諦めは悪いほうで変なときに意地を張る負けず嫌いで口よりも手足が先に出る。それが私という人間の客観的評価だ。
本気で悪運が強いと思う。だってコレットはトリエットに着いた途端、具合が悪くなったのだ。
悪運がいいなぁ、こーゆー時だけ(どーでもいいが後のことは関係ない)
しかし医者に見せたがコレットの具合が悪くなった原因はわからない。
どーやらレミエルの言っていた試練とやらはこれのことらしい。コレットが一晩耐えるしかない。
・・・・私、本当に何にもできないなぁ。情けない・・・。
「あ、そだ! クラトス!!」
「・・・何だ?」
夕食を食べ終えて、しばらくして私はクラトスに話しかけた。
「クラトス、あのさ私に剣術教えてよ。足手まといにはなりたくないから」
「ほぅ・・・・・・?」
感心したようにクラトスは声を上げた。
「私はこのパーティーの中で一番経験が欠けてる。体力とかもね。そーゆーわけでよろしく頼むよ」
「・・・己の力量がよくわかっているな」
このセリフ、ロイドとかに言ったら怒るだろうなぁ。私は苦笑を浮かべた。
「まーね。あとは知識が少々と火事場のクソ力と・・・度胸。とりあえず今の私にあるのはこれだけかな」
「・・・・・・フ」
「?」
今・・・クラトス笑った?
「いいだろう、根を上げるなよ」
「了解です!」
私はふざけて敬礼をした。またクラトスが笑ってちょっと嬉しかった。
―――――――――――――――――――
朝。クラトスにしごかれ(涙)身体はボロボロだったが、一晩眠るとすっかり疲れは取れていた。
・・・ただ物音が聞こえて目が覚めたが。すぐ寝たけど。
「あ、ロイド、おはよ〜」
「ああ、コレット。昨日は大変だったな」
「うん、もう平気。大丈夫だから」
ぶんぶんと手を振り回すコレット。危ないって。
「あ、そうだ。昨日の夜、誰か襲われなかったか?」
「は?」
「・・・・・・何があった?」
眉をひそめながらクラトスが聞く。
「部屋に誰か忍びこんだんだよ。起きてたからすぐ追い払ったから、顔は見えなかったけど」
「ディザイアンかな?」
ジーニアスの言葉にぽんっと頭に一人の男が思い浮かんだ。
そう、ロイドを我が物にすると爆弾発言した、あのにーちゃんである。
・・・ピンポイントで思い当たるフシがある私も私だが。
「・・・早く出発しよ」
得体の知れないストーカーに怯えつつ、私たちは次なる封印を目指した。
・・・・・・ストーカーは犯罪だッ!!
BACK
NEXT
TOP