かつて世界の中心にマナを生む大樹があった
しかし戦争でいつしか大樹は枯れ、代わりに勇者の命がマナとなった
女神マーテルは天使を神子に遣わした
「私が眠れば世界が滅ぶ、私を目覚めさせよ」
天使は神子を生み、神子は天へと続く塔を目指し、女神を復活させる
これが世界再生の始まりである


―――諦めないで・・・

闇。
一筋の光の存在すらも許さないそこに、澄んだ声が広がる。

―――人は・・・・汚くないから・・・・

声が近づき、続ける。嘆くような、何かを込めて。

―――お願い・・・・

声に懇願の意がこもる。空間が、いや闇が収縮する。

―――もう一度だけ・・・・もう一度だけ・・・

声は段々と遠ざかり、空間は加速する。



―――人を・・・・信じて・・・・



そこで全てが途切れた。




―――――――――――――――――――




「ねぇ・・・大丈夫かな、この子」
「・・・・息はあるけど」
「・・・・あ! ねっ、ロイド! 今動いたよ!」

耳元で何やた声が聞こえる。全部で3人、少年2人に少女1人。私は倒れこんだ身体を起こして、眼を開いた。

「・・・・何? ・・・誰?」

重い頭を揺さぶって、状況を確認する。
目の前には予想したとおり、男の子と2人と女の子が1人いた。
1人は茶の短めの髪を立てた男の子。もう1人は見たことのない不思議な作りをした服を着た銀髪の利発そうな男の子。
そして、金髪に青い瞳とゆーファンタジーのお約束な風体の女の子。
年は全員私より年下か同い年ほどで、私の顔を心配そうに覗き込んだ。

「え、えーと・・・・?」

明らかにおかしい状況に私は首をかしげ、周りを見回した。
私は山を切り立った教会のような・・・丸い天井の建物が後ろにあった。私はその建物に続く階段の広く空けた(と言ってもフツーに狭いんだが)に倒れていたようだ。
私は不安そうにチビッコ(とゆー年でもなさそうなんだが)に聞いてみた。

「・・・・・すんません。ここはどこ?」
「え? ここ? ここは聖堂だよ。そんなことより、どうしてこんな所に倒れてたの?」

私はしばし考え。

「・・・私の記憶が正しければ、ベッドで眠ってたんだけど、私」

私はぽりぽりと頭をかいて言った。
そして自分の記憶を確認する。
私は普通の女子高生である。
いつものよーに家帰ってご飯食べて、風呂入って寝て。

そして気が付けばココは何処?

「あ、もしかしてディザイアンに襲われたんじゃねぇの?」

茶髪の少年の顔がかすかに怒りに染まる。
何?そのディザイアンって。会社かなんかの名前?(絶対違う

「何? そのディザ何たらって」

そう聞き返した刹那――――

「み・・・神子さ・・・・ま・・・・」

!!

血塗れの老人が、今にも倒れそうな足取りで歩いてきた。

「祭司長様!!」

金髪の子はその老人に駆け寄った。他の2人も同様に。

「しっかり! しっかりして!!」
「ディザイアンが・・・聖堂に・・・これ・・・を・・・・・」
「喋らないで!!」

私は思わずそう叫んだ。祭司長と呼ばれた老人の身体は赤に染まっていた。傷は深い。医学の素人の私でも、この傷の深さ酷さはわかる。
・・・・・助からない。

「神子さ・・・ま・・・早く・・・神託を・・・・そして世界、再生を・・・・・」
「っ!!」

休息に体温がなくなるのがわかって、私は目をそむけた。

「コレットっ!?」

銀髪の子が驚いたようにコレットと呼ばれた金髪の女の子を呼び止めた。
金髪の少女―――コレットはゆっくりとふり返った。

「神託を受けなきゃ。それがわたしの神子としての使命だから」

その言葉に私は弾かれたように叫んだ。

「ねぇ! さっきの見たでしょ!? 人が死んだんだよ!? 君も死ぬかもしれないだよ!?」

するとコレットは首を横に振った。

「これも試練だから。大丈夫ですよ」
「でも・・・!」
「俺も行くぜ」

すっと茶髪の少年が前に出る。

「えっ? い、いいの?ロイド」
この少年はロイドという名前らしい。腰にさしていた2刀を軽く叩いた。どーやら本物ではなく、木刀のようだ。

「ああ、元々神託を見に来たんだしな。それにドワーフの誓い第一番!
 平和な世界が生まれるように、みんなで努力しよう!」

神託? ドワーフ? ちょ、ちょっと待て・・・ここは日本か? いやそれ以前に地球なのか?
・・・どーでもいいがドワーフの誓いって校則みたいだな。本当にどーでもいいけど。

「ボクも行くよ! 姉さんが心配だし・・・・その・・・・・・」
そう言って銀髪クンは剣玉をとる。・・・・・何に使うんだ。

「・・・ありがとう、2人とも」
「ま、待って!!」
私は慌てて3人を呼び止めた。

「状況が全然まったくこれっぽっちもわかんないけど・・・私も連れてってくれないかな?」
「え?」
「・・・でも危ないですよ?」
私は苦笑して頬をかいた。

「ここで1人になる方が危険だって。足手まとい・・・にはなるかもしれないけど逃げ足だけは天下一品だし!
 大勢の方が心強いよ、多分!」

威張れねぇ・・・本気で威張れねぇよ。このセリフ。

「どうする? ロイド」
「んー・・・、たしかにこのまま置いてくのはマズイよなぁ・・・」

私は迷子か。いや、否定できんが。

「じゃあ一緒に行こうよ。ボクはジーニアスだよ」
「俺はロイド、こっちはコレットって言うんだ」
「あ、私は。・・・よろし」

神子はどこだ!?

く、と続くはずだった言葉は、わめき散らすような声でかき消される。

「・・・・急ごう」
その言葉にジーニアスとコレットはうなずき、階段を上って私もそれに続いた。
そして。

がっ!

「のわっ!」
「うわっ!」
「きゃっ!」

階段を上る途中でこけました。・・・ぬれた地面は滑りやすいのです。
私は思わず前方にいたロイド君の服から生えた(?)白いひらひらを引っつかみました。
それに驚いて連鎖反応してコレットがコケる。

「あ、あう〜。ごめん・・・・・」
「い、いいよ。ケガはないか? 2人とも・・・」

ぱんぱんとほこりを払い(そーいや私の格好ってTシャツにジャージだ)ロイドは私に手を差し伸べ、私は彼の好意に甘えて手を取って立ち上がった。
そしてコレットの方へ行きロイドは「大丈夫か?」と聞いて「えへへ、平気だよ!」と笑顔で返す。微笑ましいなぁ・・・・。
そして、この光景に気付きこちらを見てくる怪しい集団。兵士? と思ったが少し違う。兜を被っているのが数人、そしてその中の1人だけが素顔をさらしている。
しかし注目すべきはそこではない。1人の老婆を囲んでいる。とてもじゃないが穏やかな空気ではない。

「お祖母さま!」
「コレット!? 何故ここに!早く逃げるのじゃ!」
「・・・・でも!」

どうやらこのおばあさん、コレットの祖母らしい。
しっかしヤバくないか?この状況!

「なるほど・・・お前が神子か」

そう言って一人の男が前に出る。いかつい顔をした、この怪しい集団の中で唯一素顔の男だ。耳が尖っている。
それをのぞけば普通(・・・とは言い切れないんだが)っぽい。

「恨みはないがその命、貰い受ける」
んなっ・・・!? いきなり暗殺(隠れてないけど)宣言!?

「ふざけるな、ディザイアン!」
ロイドが声を荒げて剣を抜く!!

「ふん、威勢のいいガキだ。それほど死に急ぎたければ望み通り殺してやる」

―――――っ!
背中に悪寒が走った。ホラー映画で感じる悪寒とは違う、死の恐怖。
怖かった、でも唇を噛み締めて何とかその場に踏み止った。

「お待ちください、ボータ様」

そう言って兜を被った男が前に出る。私よりかなり背が高い。2メートルはある。
私の体重分はありそうな、どでかいハンマーと、扱いにくそうなモーニングスター。

・・・・・すっげぇ嫌な予感がする。

「このヴィータルにお任せを」
「ああ。好きにしろ」
あああああっ! やっぱりいぃ!! 嫌な予感大当たりですか!?

「では・・・・死ねぃ!!」

ぶぅんっ!!
うなりを上げて鉄球が襲い掛かる!

うわああっ!
思わず後ろに跳んで避けた。

どごおぉっ!!

そしてひび割れる地面。地面がひび割れた。大地そのものが震えた気がした。
ひええっ、なんちゅー腕力ですか!!

さん!」

私は脱兎のごとく、ロイド達の元へ走った!

「はー・・・はー・・・死ぬかと思った・・・・」
「ど、どうするの、ロイド?」
不安げに聞くジーニアス。

「やるしかないだろ・・・!」
「・・・同感。あんな危ないのを野放しにしておくのはちょっとね・・・」
コクコクとうなずく私。しっかしあのモーニングスターは厄介だな。

「ところで・・・みんな、武器は? ロイドは剣で・・・・」
「わたしはこれ・・・・」
そう言って取り出したのは輪っか。なるほど、形状から見てチャクラムってヤツか。

「ジーニアスは?」
「ボクはこれ・・・」
そう言って剣玉を見せる。・・・・いや、確かに痛いけど。これで殴られると。

「あと魔術と・・・」
「魔術?」
「ジーニアスはエルフなんだ」
「・・・ふーん」

ファンタジアか? ここは。まあとりあえず無理やり納得する。
とりあえず、このメンバーで作戦を決めるとしますか。

「じゃあ、まず!相手の飛び道具を無効化するため! とにかく走る! 止まったら絶対狙われるから。
 相手の攻撃が外れた瞬間を狙って攻撃、んで逃げる。
 ジーニアスは魔術で援護して、コレットもチャクラムで遠距離から攻撃。問題は・・・・・」

私はちらりと横目でロイドを見た。私のこの戦術において、文字通りの特攻はハッキリ言ってかなり危ない。
下手すれば・・・と言うか絶対ただじゃ済まない。
私の視線に気付いたのかロイドは笑った。

「俺がやるぜ、その役目」
「いいの? 危ないよ?」
「俺しかいないだろ、そんな事ができるのは」
「・・・じゃ、頼むよ。特攻隊長!つーわけで散れ!!」

だっ!

私の声に応え、一斉に走る3人!

「いーい!? なるべく個々で移動!固まると一気に全滅するかもしれないから!」
「ほう!?」
ヴィータルが感心したような声を上げた。

・・・ふっ! だてに○リビアの泉は見てないわ!!関係ない)RPG好きの知識をなめるなよ!

「魔神剣!」
ロイドの双剣から衝撃波が放たれる!

「レイトラスト!」
続いてコレットのチャクラムがヴィータルを切り裂く!

「ぐああ!」

ひるんだ!私は大声でロイドの名を呼ぶ!

「ロイド、今だよ!」
「ああ!」

だっ!

ロイドが敵に向かって一直線に走る! しかし・・・・・・・。
「あっ! やっぱりダメ! 逃げて!」

ヴィータルはすでに体制を整えて、その鉄球を・・・・。

「はあ!」
投げた! アレは避けれないって!!

「わあっ!」

ずざざざざ・・・
直撃は免れたが、吹っ飛ばされた。い、生きてるかーい? ロイドー?
そこに畳み掛けるように近づくヴィータル。
万事休すか・・・・!?

ざっ!

「!?」

ざしゅっ!

「んなっ!?」

肉を断つ音。いきなり現れた乱入者。何が起こったか頭が付いていかない。

「バカ・・・な・・・・」
地響きに似た音共にヴィータルは倒れた。血がどばどばと溢れ、それを見て死んだのだと確認する。

そして1人の乱入者に目を向けた。

男だ。血のついた剣を携えた精悍な顔。
年は私よりも年上に見えるのだが10代か20代か、何とも年齢が断定できない、そんな雰囲気の持ち主であった。
髪の色はロイドと酷く似ていて、髪型は一言で言うなら某RPG7代目主人公のチョコボ頭である(待て)なかなかの美形さんでこっちを見てきた。

「・・・無事のようだな」
明るさを感じさせない淡々とした響きが入った声で彼は言った。

「こ、このおじさん、メチャクチャ強いよ・・・・」
お、おじさん・・・
ひでぇ・・・・20代(多分)でおじさん・・・、全世界のロマンスグレーが泣くぞオイ。

「退け」
「・・・・・・・・・・・・」

彼の言葉にボータとやらを含めた兵士は、空気に溶け入るように消えた。
何だか知らんが・・・助かったぁ・・・・。

「もし・・・・もしやあなたは教会の手配した傭兵では?」
おぼつかない足取りでおばあさんはこの男に近づいた。

「ああ、その通りだ」
「おお・・・! それは・・・!」
「待てよ! ファイドラばあさん!」
ロイドが立ち上がって声をかけた。

「護衛なら俺がやるよ。いいだろ?」
「しかしなぁ、ロイド。遊びではないのだぞ?」

―――――っ!?
な、何だ?この傭兵の兄ちゃんが顔を驚愕に歪ませた。その空気がわかったのかロイドは首をかしげた。

「な、何だよ?」
「お前は・・・ロイドと言うのか?」
確認するように聞く。何か・・・死人が生き返ったとでも言いたげな口調である。
しかしロイドはそれに気が付かないのか、顔をしかめて言い返した。

「そうだけど・・・人に名前を聞く前に自分の名前を名乗ったらどうなんだ?」
かなり偉そうなセリフだ。いや正論なんだが。
この男はそんなことを気にせず、フッと笑った。

「私はクラトス=アウリオン。先程も言ったが傭兵だ。金さえ払えば神子の護衛を引き受けよう」
するとおばあさんはしばし考えて。

「・・・・わかりました。お願いしますじゃ」
そういうと傭兵クラトスはうなずく。

「では行くぞ、神子よ」
「神子?」
「・・・コレットのことだよ」
私の呟きを聞いたのか、ジーニアスが耳打ちした。

「待てよ! 俺も行くぜ!!」
ロイドの言葉にクラトスは冷たく返した。

「足手まといだ。ここで待っていろ」
うわ、キツッ!さっきの驚愕した形容しがたい雰囲気とは大違いだな。

「何!?」
「待ってください。わたしからもお願いします。ロイドがいないと不安なんです・・・・」
助け舟を出すようにコレットが言う。・・・いや、助け舟ではなくて、事実不安なんだろう。見知らぬよう人とずっと一緒ってのも気まずいし。

「・・・・・勝手にしろ」

呆れを込めてそう言うとクラトスは踵を返しすたすたと行ってしまった。
・・・・オイオイ、護衛なのにおいていくのかよ。

ま、いいや。

「あのさ、コレット。・・・あー、呼び捨てでいいかな?」
「ええ、いいですよ」
「あ、それじゃ敬語もなしの方向で。えーと・・・・」
「?」
私は少し迷って、やがて口を開いた。

「私もさ、その・・・ついてっていいかな?」
「もちろんです!」
満面の笑みを浮かべて応えるコレット。私は苦笑する。

「敬語」
「あ・・・・」
私はまたクスッと笑った。

「ちょっとずつ直してね」
「うん、よろしくね」
私とコレットは笑い合って言った。




―――――――――――――――――――




聖堂。その中で私はコレットの使命について聞かされた。
コレットは天使とやらに選ばれた神子でこの世界、シルヴァラントの救世主になるために今日、神託を受けるらしい。
そして神子は世界を守る精霊を目覚めさせ、マナで世界を満たす旅に出る。そしてこの世界の災厄の源ディザイアンを封印する。それが神子コレットの使命で世界再生とやらなのである。
以上、大体こんなカンジ。ちなみにそのほとんどの知識はクラトスとジーニアスから聞いたもの。ロイドは私と一緒にふーんへーほーとか言っていた。
いいのか、シルヴァラントに住む人間としてそれで。

・・・と、ともかく私たちはこの聖堂のどこかにある神託の祭壇とやらに向かっている。ちなみに聖堂には『試練』として魔物と呼ばれる怪物たちがいた。
正直言ってあまり苦戦はしなかった。クラトスが文字通り瞬殺するのである。群れで襲ってきたときもあったが、ロイドとジーニアスの攻撃であっさり片付けられる。私とコレットの出る幕はない。
女は楽だぁねぇ・・・。

その時である。

わははははははは・・・・・!!!

「なっ・・何っ!?」
聖堂に響き渡る哄笑に私達は足を止めた。

「今の・・・リフィル先生?」
ロイドとコレットは顔を見合わせた。

「誰?」
「学校の先生。ジーニアスの姉ちゃんで美人なんだけど怒ると怖いんだよなぁ」
「へぇ」
この世界・・・シルヴァラント。私の住んでいた所とはかなり違うが、学校なんてあるんだなぁ。ロイドは授業を聞いてないっぽいけど。

「でもリフィル先生はこんな笑い方はしないよ?」
コレットがどうしてだろ?と考え込む。

「魔物のせいかもしれん」
淡々とクラトスが言う。
・・・見ると笑いが止まらなくなる魔物。どないやねん。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ジーニアスはどこか悲しげに、そして諦めたようにため息をついた。
何か知らないが、色々と苦労しているようである、ジーニアス。若いのに大変だねぇ。

「まあ魔物なんて俺が片付けてやる!」
おお! 頼もしいセリフ言うのね、ロイド君。
するとクラトスがふり返り、真剣な(いや、いつも真剣な顔なんだが)顔でロイドを見た。

「一つ聞くが・・・その剣は我流か?」
「あ、ああ、そうだけど・・・。何だよ?」
クラトスは懐から本を取り出した。使い込まれたやや薄めの本。

・・・・クラトスさん、あなたはこんなのを常に懐に忍ばせているのですか?
・・・・・・・・・・・・・・いえ、いいです。聞きません。何か怖いから。

「何だよ? これ」
「神子を守りたいのだろう?なら基本くらいは学んでおけ」
そう言って本を渡す。書かれたロゴは『剣における戦術指南書』。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

それにロイドは見入り、ぽそっと言った。
「読んでみる・・・・・」
クラトスはロイドに背を向けて微笑んだ。こっちからでは丸見えです。

「少しは見所があるようだな」
ロイドはむっとした顔になったが本をしまった(どこに?と聞かないよーに)
気のせいかクラトスがこの本を渡し、ロイドが素直に受け取ったとき、結構優しい・・・・何というか慈愛のこもった顔で笑ったような気が・・・?

私の目が腐っているからか?(多分違う)

それはともかく、私は機嫌の悪そうなロイドに話しかけた。
「ロイド」
「? 何だ?」
「・・・あとでその本、私にも見せてね」
こっそりとクラトスに聞こえないように耳打ちする。

「あ、ああ。いいぜ」
「ありがと! ・・・ってあれ?行き止まり?」
いや、良く見ると違う。光の膜のような何かで、扉の向こうが覆われている。

「・・・・・・・・・・・・・・」

RPGのお約束。私は近くに手頃に落ちていた石をぽいっと扉へと投げた。

ぱあぁぁんっ!!

石が、弾けた。壊れたのではなく、弾けた。

・・・・・・・・・あ、危ねー!! こんなヤバイ仕掛けがホイホイあるのかこの聖堂わ!!

「―――神子、ここはどうするのだ?」
まったく動じた様子を見せず、クラトスがコレットに聞いた。
・・・少しは驚くとか感情の起伏を見せろよ、クラトスさん。さっき見たけど、あれが最後なのか?

「あ、多分これを使うんだと思います」
ごそごそとコレットは何か取り出す。

「・・・・指輪?」
「『ソーサラーリング』って言うんです」
「ちょっと貸してくれよ」
ロイドが指輪に手を伸ばし、はめる。

「こうか?」
「ちょ、ちょっと待て!!」

ボッ!

「うわおうっ!!」

止めるのも遅くソーサラーリングから火花が散る。それを紙一重で避ける私!
・・・・自分の反射神経を誉めてやりたいです、ハイ。

「ロイド! 人に向けて撃っちゃダメ!!」
取扱説明書はないのか!あったら絶対人に向かって撃ってはいけませんとか、子供の手の届かないところに保管してくださいとか書いてあるだろうな、きっと。

「わ、悪ぃ・・・じゃ改めて・・・」
ソーサラーリングからまた火花が散った。火花が扉の石版に当たるとフッと光の膜が消え、扉が開いた。

「じゃ、行こ!」
「あの・・・・行き止まりだけど」
扉の向こうには淡く輝く台座があった。それ以外何もない。しかしコレットはすたすたと台座の上に立ち・・・・・。

シュンッ!

消えた。

「コレット!」
ロイドとジーニアスの2人が慌ててコレットを追いかけ、同じように姿を消した。

・・・・・まぢですか?
「・・・・・行くぞ」
「へ? あ、待って!」
唖然とする私にクラトスが声をかけ、すたすたと台座に向かった。置いていかれるのは嫌なので私も急いでコレットを追いかける。

「神託の祭壇か」

気が付くとそこは展望台のような場所。ロイドとコレット、ジーニアスの3人の姿を確認できてほっとした。
そして光を放つ宝石が目の前にあった。痛烈なまでに力を感じる不思議な石だ。

「!!」

降り注ぐ光と共に人が降りてきた。天使、人の姿をして白い翼を生やしたその姿ははまさしく――――
しかし一瞬ワイヤーで吊られてんのかなぁと思った(情緒のない・・・・)がそんなものはない(当然だ
しかし・・・翼で羽ばたく力で浮いているのではない事は明らかだった。もし羽ばたいただけで飛ぶんなら飛行機とヘリコプターと飛行船に土下座させてやる。物理法則を無視するんじゃねぇ。
そんな私の思惑を知らず、天使は微笑を浮かべた。

「我が名はレミエル。間なの血族の娘を新たな神子として天に導く『クルシス』の天使」

クルシス? 何だそれ?
しかし・・・レミエル。その名は聞いたことがある。確か・・・黙示録の天使とか何とか・・・・。
ま、いいや。私は天使レミエルの話を黙って聞き入った。

「時は満ちた。・・・神子コレットよ、前へ」
「はい」

コレットは祭壇の前へと歩み寄った。頼むからコケないでね。コケたらシリアスな雰囲気ぶち壊しだから。ここに来る途中何度コケたことか・・・・(遠い目)
そんな心配をよそにコレットの胸に宝石が吸い込まれるようにくっついた。ついでにその宝石から金の飾りが生えてきた。

「今、この時よりそなたは再生の神子となる。『救いの塔』を目指すがよい・・・」
穏やかにレミエルが続ける。

「再生の神子コレットよ。封印をとき、彼の地に刻まれた天の階を上れ」
コレットは祈るように手を組み、静かに答えた。

「神子はその任を確かに承りました」
レミエルは満足そうにうなずいた。

「では我ら『クルシス』はそなたが封印を解くごとに、天使の力を授けよう。そして天使として生まれ変わったとき世界は再生する」

・・・・この世界?
その言い方は・・・まるで・・・・・・。

「ありがとうございます。必ず世界を再生します」
私の考えはコレットの声でかき消された。

「まずは、ここより南の方角にある火の封印を目指し祈りを捧げよ」
そしてレミエルはゆっくりと消え・・・・。

「あ! お待ちください!」

なかった・・・・。な、何だ?

「レミエル様はわたしの本当の・・・」
「火の封印で会おう。・・・・我が最愛の娘コレットよ」
え・・・・?

「・・・・あ、はい・・・・!!」
そう言うとレミエルは微笑みながら姿を消した。コレットは嬉しそうに去ったレミエルのいた天井を見ていた。

・・・・・・・空気を壊すようで悪いが、天使(自称)レミエル。うさんくさいぞ(失礼)
大体天使なんざ羽がなければただの人だろ(本気で失礼

「神託は下った。神子、お前はこれより封印を解く為長い旅に出るのだろう?」
コレットはこくんとうなずいた。

「はい、そうなると思います」
「ならば護衛が必要だな。報酬次第では私が引き受けても構わん」
「本当ですか?あ、でもお祖母さまに聞いてみないと・・・・・」
「わかった。戻って話をしてみよう」
クラトスは言いたい事だけを言い終わると、さっさと1人で先に行ってしまった。

・・・・アンタ、本当に護衛をする気があるのか、オイ。

「勝手なヤツ!」
憮然とジーニアスが毒づく。

・・・はっ!もしやおじさん呼ばわりされたのを根に持っているのか!?
大人気ない!大人のくせに(多分)大人気ないし粘着質だな、クラトス=アウリオンよ!!

「わたし達も帰ろ、ロイド」
微笑みながらコレットが言う。

私は帰るという言葉の重さを噛み締めて、3人の住んでいる村、イセリア村へと案内された。
私の波乱万丈な旅は、こうして私の知る由もなく幕を開けたのだった。

・・・・ここはどこなんだっ!?



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