拍手に置いていたSS各種です。
たびたび増えるかも


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その手から紡がれていくもの(織姫視点のウルキオラ)

白い手が好きだった。
その事に気づいたのはいつだろうか。
自分には決してない、男の手。
ウルキオラの腕は、男にしては細いものに分類されるが、決して貧相なものではなかった。
その腕は軽々と自分を持ち上げ、時には指先で撫でられる。
細い指は、長くしなやかで、食事中、頬についた食べかすをつい、と掬い取ってくれた。
斬魄刀を抜く姿は、優雅でさえある。
本来、女性特有の柔軟さとしなやかさが、彼にはあった。
女性らしいのではなく、女性の長所を持ちえた男だった。
誰よりも、それこそ藍染のような全てを飲み込むそれよりも、市丸のような酷薄なそれよりも、白の色が似合った。
爪は、黒く塗りつぶされている。
それは、きっと白という色で自分が食いつぶされないためのものなのだろう。
白い手が好きだった。
けれど、今は白いあなたに、なぜか心惹かれる。



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傷つけあうことでしか、わかりあえない(ザエルアポロ)

顔を殴る。腹を蹴る。喉を引き裂く。手のひらに突き立てる。
ありとあらゆる暴虐を行った。
骨が見えてくるほどに、肉をえぐり、切り裂いた。
満遍なく、容赦なく、躊躇なく、ただ静かに。
その作業の途中から、悲鳴は途切れ、喘ぎ声にも似た叫びしか聞こえない。
澱んだ色をした血の色と、白皙の肌に、桜色の肉片。
どんなに身体を嬲り、解析し、知り尽くしても、止まらない。
知らない事が多すぎる。見た事のない顔があふれ出していく。
己の重さに耐え切れず、地に落ちた椿のような兄。
か細い腕でしがみ付いてくるそれを、振り払い絶望させたいという想いと、優しく受け入れてやりたいという思いが交差する。
どうしたいのか、わからない。けれど、ただ一つわかっているのは。
自分が普通に狂っているということだけ。


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傷を癒すのは(イールフォルト)

ぶつり。
指先に尖った刃が突き刺さった。
傷口から滴る赤い液体。死んで、虚になったというのに、この空っぽの身体には血が流れている。
痛みはある。けれど、この程度のことは日常茶飯事だ。
だが、目の前にいる弟にとっては、この傷というものが耐え難いものだったらしい。
露骨なまでに顔をゆがめ、俺の指先をなめ上げた。
何をするのかと、反論できなかった。
あまりにも自然すぎる動作で、それを咎める俺のほうが間違っているのではないかと思い知らされるほどに。
指先を几帳面かつ丁寧に血をぬぐい、止血する。
それから白い包帯で巻いてきた。そこまでしなくていい、と言いたかったが、世話を焼かれるのが嬉しかった。
いつも弟や、他の破面の世話を焼くのは俺の役目だった。
最後に額にキスをされると、無性に泣きたくなった。
その時の俺に出来る事といえば、弟の背を追いかけて、手を伸ばして求めるだけだ。
伸ばされた手が、振り払われないことを祈りながら。


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Please do not please Cry(イールフォルトとザエルアポロ)

泣くかと思った。
グリムジョーについていく、と言ったら、弟は泣きそうな顔になった。
その、しおらしいとさえ思える弟の顔に、俺は何も言えなかった。
動揺を悟られないように、背中を向けてザエルアポロの自室に背を向ける。
俺は、背中越しに泣いているのではないかと、不安を抱きながら、ザエルアポロを切り捨てた。
しばらくは、逢わない方が良いと思った。
きっと、会えば罵声を吐かれ、下手すれば監禁されるかもしれない。
ふと気付いたのだが、面と向かわずに逃げるような行動を急かされたような喧嘩は初めてだった。
互いに罵り、時には殴り、そんな動物的な争いが常だったのに。
ある日、ザエルアポロに会った。褐色の瞳を細め、忌々しそうに俺を睨む。
俺は視線の居心地の悪さに、その場を離れようとした。
「兄貴」
ぴたりと。
その低い声に呼び止められると、俺は身動き一つ出来なくなる。
「捨てるんだね」
それは疑問と言うにはあまりにも断定するようで。
俺は、答えられなかった。恐ろしかったのだ。どうしようもなく。
自分で別れを告げるのは平気なくせに、ザエルアポロに言われることが怖くて。
俺は、泣いて弟にしがみつく。
いつだって、泣かされるのは俺なのだ。


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ファニー・ゲーム(ノイトラとザエルアポロとテスラ)

「・・・ちくしょう。どうしたらあの女に勝てる・・・」
「ノイトラ様・・・口に出てますよ」
「愚痴るんなら自分の宮でやってくれないかな。何で十刃でない数字持ちの部屋に来るの、君たち」
部屋で飲んだくれるノイトラ。それを慰めるテスラ。
そして、部屋の主であるザエルアポロは呆れて二人を眺めた。
「ネリエル・・・。あのアマ・・・どうやったらぎゃふんと言わせれるのか・・・」
「ぎゃふんとはまた古いな。ノイトラ、お前、酒を飲むと面白くなるタイプ?」
「・・・・・・・・・」
ザエルアポロの愉快な推測に、テスラは目を伏せる。否定はしない。
「っていうか、ノイトラってきっとさぁ」
ザエルアポロはすぐ側にあった酒瓶から、ワイングラスに中身を注ぎ、ぼやくように言った。
「女に負けるのが嫌って言うよりも、ネリエルに負けるのが嫌なだけじゃない?」
「・・・・・・・・・」
その一言にノイトラは沈黙する。
「・・・そういうワケじゃねえよ」
「何で目ぇ逸らすの。こっち見て言えよ」
ノイトラは嘘をつくとき、他人の目を見ない。
その事を知っていたテスラは、苦笑いを浮かべる以外、自分のできることが思いつかなかった。


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