「・・・なあ、相棒」
「ん?」
空は満天の星空。
その美しさに素直に感動していると、ギグが声をかけてきた。
「お前さ、よく文句言わねえよな」
「・・・何が?」
唐突な質問に私は首をかしげる。ギグは呆れているみたいだった。
「ババアに世界救えって言われてハイハイって素直に里を出てよ。腹立たねえのか?」
「んー・・・」
私は頭をかいた。
まあ、確かに世界を救うだとか、世界を食らうものがどうとか、良くわからなかった。
知らされてなかったのだから、それは当たり前だけど。
「大体、お前はババアに騙されたんだろ?恨み言の一つ言っても、バチは当たらねえよ」
「そうだね・・・」
ギグの言葉に、私はうなずいた。
「ギグに裸を見られたり、お手洗いについてこられたり、酷いこと言われたりしたけど・・・」
「・・・それ、オレのせいじゃねえからな。ババアのせいだからな」
あと、変な言い方すんな。
ぶすっと不機嫌そうに、ギグは付け加えた。言葉にしてみると、ひどいなあと改めて実感する。
「でもね。それでも私の恩人だから。里の皆も、知らなかったし。私一人だけ知っていても、あんまり変わらなかったんじゃないかな」
「利用されるだけ利用されて、黙ってんのか?それ、お人好しつーよりただのバカだろ」
ギグは歯にもの着せぬ言い方をする。それが私には少しだけ新鮮だ。
こんなひねくれた思想を持つのは、里にはいなかった。
「うーん・・・利用、じゃないよ。ほら、あれだ。ギグともやってるやつだよ」
「はあ?何だ、そりゃ」
私はにっこりと笑って、ギグには見えない笑顔で答えた。
「取引きだよ。ギグは私の身体の支配権が欲しい。だけど、私は身体を渡さない。で、私はギグに力を借りて、その分の支配権をギグに渡してる。そんな感じだよ」
「・・・そうかぁ?全然取引きになってねえだろ。世界を救うことで、相棒に何かあんのかよ?」
それに私はあるよ、と笑う。だらしない笑顔だ。ダネットあたりに情けない顔をするのではありません!と叱られそうな顔だ。
「レナ様は私を育ててくれた。その見返りに、世界を救ってくれって頼んだ。世界が救われたら、色々な人が喜ぶでしょ?それが見返りかな」
「ハッ!くだらねぇー!他人がどうなろうと、知ったこっちゃねえだろ、普通はよ」
「うーん・・・まあ、それだけじゃないけどね」
「あん?」
ギグが、私の中で訝しげな声を出す。
変な気分だ。顔も見えないのに、相手がどう思っているのか、何となくわかってしまう。とても変な気分だ。
「私はずっと、里の中しか知らなかった。安全もあるんだろうけど、ずっと外に出たいって思ってた」
小さい頃、読んだ絵本には色々な景色があった。
荒野や、砂漠。海と言う巨大な水溜り。大きなお城や、花畑。
全部、本当に見たことなんてなかった。
「世界を救ったら、きっと何でもできるんだ。そしたら、世界の果てまで旅して、色んなものを見てみたい」
その時、破壊神として恐れられたギグがそばにいるのかは、わからないけど。
でも、とても楽しそうだ。私がいて、ダネットがいて、ギグがいて。
3人で他愛ない話をして、旅をする。それこそ、終わりない旅を。
「ギグも、一緒に行く?」
それに、ギグは面食らったみたいだった。数秒ほど沈黙する。
「・・・アホか」
「あははは」
今日も世界は美しい。
私は少しでもこの世界を救うに値する、美しいものだと自分で確かめたい。
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