離 さな い
きっ と、永 遠に
「・・・ろ」
「・・・何?」
ゆっくりと、口を開くイールフォルトは人形みたいだと、ザエルアポロはしみじみと思う。
「・・・やめ、ろ」
「何を?」
くく、とザエルアポロは喉を鳴らした。我ながら猫みたいだと思いつつ、親愛なる兄の言葉は無視する。
「く、び・・・」
「ん?」
「首を、縄で、絞めるな・・・っ!」
イールフォルトは自分の首先、赤く鬱血した縄の痕を掻き毟るように引っかいた。
ザエルアポロはそれを軽く聞き流し、さらに縄を締める力を強めた。
「か、ふっ・・・!」
「ふふっ」
ザエルアポロは苦しむイールフォルトの顔を見て、クスクスと笑う。
その笑いは、まるで蟻の行列を踏みにじる無邪気な子供そのもののような笑みだ。
ザエルアポロはイールフォルトを傷つけると、奇妙な高揚感を感じる。綺麗なものは大好きだが、それを粉々に壊してしまった時に出る、おかしなまでの悦楽。
例えるなら、繊細な硝子を、地面に叩きつけるような感覚。もしくは、真っ白な雪原を、黒い足跡で汚していくような。
そんな背徳に満ちた感情に囚われていく。
「兄貴」
「う、あっ」
「・・・かわい」
苦しむイールフォルトを、心底愛しいと言わんばかりに。
ザエルアポロはイールフォルトの鼻先にキスをする。縄を少し緩め、呼吸をさせる。
おかしなものだが、破面も呼吸が必要らしい。もっとも、人間と違って酸素が必要ではないが。
けれど、破面が人間に近い性質を持っているのは事実だ。少なくとも、ザエルアポロはこの感情は、獣に持てるような下等なものだと思っていない。
イールフォルトを見ると、その顔を苦痛で彩りたくなる。
イールフォルトに触れると、その肌に傷を残したくなる。
イールフォルトの目を、抉り出してやりたくなる。
その身体を、ばらばらに引き裂いて、自分だけの玩具に、人形にしてやりたくなる。
ただ、それをやらないのは、単純にイールフォルトの反応がなくなるから、やらないだけだ。最初の二つはすでに実行済みだが、三番目だけはいまだ、行っていない。
「・・・兄貴だけだよ」
ザエルアポロはこほこほと咳き込む兄に口付ける。
イールフォルトの眦からこぼれた涙をすくい、愛しげに頬を撫でる。
欲情も、愛情も、あなたにしか感じない
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