大体、日が昇って二日半。
朝と昼と夜をそれぞれ二回ずつ、朝日が空のてっぺんに届く頃、あの二人はやってくる。
その日が楽しみにしている乱菊は、少しそわそわしている。
楽しみではない、と言えば嘘になるが、ボクは乱菊ほど待ち遠しくはない。
「ギンくんっ、乱菊ちゃん!」
「まつ梨っ! 待ってたわー!」
乱菊は待っていましたとばかりに客人に抱きついた。
赤い髪飾りに、亜麻色と言うのだろうか。茶色に黄みを帯びさせた、淡い色の髪の毛。黒の死覇装。
宮能 まつ梨。死神で、なぜか自分達の世話を焼くお節介な女の人。
「はい、お弁当!」
「わーい!」
そう、これ。これがまつ梨を来るのを、何とも言えなくさせる理由。
まつ梨の弁当。まずくはないけど、大量にあるそれを完全に食い尽くすのは色んな意味で辛い。
甘いものは嫌いじゃないが、それをガツガツ食えるような才能はない。けれど、悪食の乱菊はまつ梨の手料理を食べ、素直に喜んでいる。あの悪食が将来、身を滅ぼさないか心配だ。
「・・・藤丸は?」
まつ梨の兄の姿がないので首をかしげた。まつ梨は世話焼きで、優しい。しかし、その優しさが時には凶器となるので、堤防役が必要なのに今日はいない。
となると、逃げられない。ボクは悪意から逃げ出したり仕返しするのは得意やったが、この優しさに立ち向かう意気込みも、逃げ出すような度胸もない。
「ギンくんは、これね」
「え?」
ボクも手渡されると思ったそれは、弁当ではなく干し柿だった。ボクの好物でもある。
「・・・どして?」
「好きなんでしょう? 乱菊ちゃんから聞いたわ」
「・・・・・・」
乱菊を見ると、乱菊はがっつがっつと弁当をかっ込んでいた。ボクに残す余裕は毛頭とないらしい。別にええけど、何か腹ぁ立つのは何でやろ。
ふと思う。手の内にある干し柿。これを届けるために、来てくれた。そう思うと、胸がむず痒い。
まつ梨。身長差のあるせいで、ボクはまつ梨を見上げるような体勢になる。ボクの顔を「どうしたの?」と覗き込んでくる。
「・・・まつ梨」
「・・・ん?」
「また、干し柿くれへんかな?」
それに、まつ梨は笑った。
「うん、いいよ。伊花さまに頼めば、もっともらえると思う」
「そっか」
次にまつ梨と会えるのは、二日半後。
日が二回昇って、朝と昼と夜を二回、その日のお昼にまつ梨はやってくる。
「あー・・・はよ大人になりたいわ」
「え? いきなりどうしたの、ギンくん?」
「別に」
大人になれば、干し柿もまつ梨も、一緒に独占できるんやないと思っただけで。
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