Good−Bye,A person without Meeting Anymore・・・




「ノイ、トラ・・・?」
かすんだ目で、赤い血が飛び散った。
ノイトラだ。
天に向かって祈るような、罪を洗い流すような、彼の姿は見ていて痛々しい。
意識は流されるように虚ろで、ふわふわしている。夢を見た後、こうなるとネルは知っていた。
くたくたになるまで走り回って、遊んで、笑って、眠りにつく。するとぐっすりと疲れが取れ、よく眠れるのだ。
今の状況は、その眠りから覚めるわずかな時間に似ていた。
目が覚めているのだが、意識が現実と夢の狭間にいる。上下左右が確認できるまで覚醒しているが、それでも立ち上がるまでの気力はなかった。
うっすらと、瞼の間から見えたのはノイトラという名の、暴君にも似た破面の男。
別にノイトラの事なんて、好きでも嫌いでもない。仲間だと思ったことはない。同じ破面であるが、圧倒的に共通項がない。
仲間だとは思えない。まして恋人でもないし、友人でも家族でもない。何でもない存在。はっきり言ってしまえば赤の他人だ。
仮面を割られたが、今となってはその事自体を忘れていたのだ。憎んでも過去は戻らないし、今の生活も気に入っている。何より、一護という存在に会えた。それだけを思い返せば礼を言ったって構わない。
自分とノイトラをつなぐ今の関係図を言うのなら、加害者に抵抗する被害者だ。大事な人を傷つけられ、ただ守ろうとした。
殺そうとは思わなかった。死ねばいいなんて、一度たりとも思ったことがなかった。
死にたいと言っていたから、天邪鬼のように反対の事を思って、生きる理由を作ればいいのにと、何度も思った。
ノイトラは獣だけど、獣ではない。
生死に胡乱な考えは、生きる本能を持つ獣らしからぬものだ。
生き急ぐがごとく、死に急ぎ、誰よりも何よりも戦いを渇望していた。
それが不安で、守ろうとした。それが、ノイトラの誇りを傷つけると知っていた。
けれど、今目の前に広がるそれを見てしまった。
倒れ行く、最強を目指した5番。
無感情にそれを見て、さよならを告げる。


あなたは私にさよならを言う暇すら与えない
どこまでも、嫌な人



倒れ付した其の貌は、何の感情も浮かんでいなかった。
まるで、虫けらの死骸のように、彼は倒れ付していた。
うっすらと開けた目は、再び閉じられた。




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