STORY:追いかけられた先に

過去から来た、と言われてもあまりピンと来ない。
ただ、阿散井や雛森、松本といった副隊長の面々から、四番隊の卯ノ花や、京楽や浮竹の隊長達から事実だということは聞かされた。
あの、市丸隊長と知り合いと聞いて、少し反応してしまったのは事実だ。
戦う時は力を貸す。そうは言ったが、それ以外で関わると言うのは想像できない。
「・・・吉良副隊長! 後生です、かくまってください!!」
だからこそ、いきなりかくまってと言われた時は目を白黒させた。
「あ。・・・ええっと」
「失礼します!」
過去からやってきた死神、宮能 まつ梨は三番隊の主のいない隊長室に窓からひらり、とかろやかに飛び越えて入った。
「どうしたんだい?」
「しーっ!!」
わけを聞こうとするとまつ梨は切羽詰った顔で、口元に指先を立てて、静かにしてくれと目で訴えた。
そして、窓の向こうから怒声が聞こえてきた。
「・・・ちくしょう! あの女、どこ行きやがった・・・」
「クルクル、どこー!? 返事してー!!」
そこには、特徴的な髪型をした十一番隊の隊長と、その背中にしがみついた小さな副隊長の姿があった。
それだけで吉良は事情を察した。
彼らに気に入られてしまったらしい過去からの来客は、必死に逃げ回っていたらしい。身体を机の中にちぢこませ、息を潜める。
しばらく、そのでこぼこコンビは辺りを見回したが、まつ梨が別の場所にいると思ったか、見当違いの方向へ走っていった。あの二人の方向音痴は一部では有名なので、もうしばらくは大丈夫であろう。
「・・・もう行っちゃったよ」
「ふう・・・助かった・・・」
吉良のセリフに、まつ梨はやれやれと壁にすがるのをやめ、立ち上がる。そして、額に濡れた冷や汗を拭った。
「・・・大変だね、君も」
本心からそう思ったので、気遣うように声をかける。それにまつ梨は苦笑いを浮かべる。
「・・・いえ、そんな。十一番隊の隊舎をうろついていたら、捕まっちゃって・・・」
「十一番隊には良く行くのかい?」
十一番隊といえば、護廷十三番隊最強の戦闘部隊だ。まつ梨は兄と師であり育ての親を助けるため、修行をしていると聞いたが、そのためだろうか。
「はい、まあ。斑目三席と手合わせをしてもらってるんです。・・・でも、さすがに更木隊長とは、ちょっと・・・」
「はははっ・・・」
それには苦笑いするしかない。あの死神代行の、黒崎 一護ですら逃げ回っているのだ。ここは、荷車に轢かれたと思って、諦めるしかない。
「あ、吉良副隊長も、よろしければ今度、お手合わせ願えますか?」
「え、僕がかい?」
吉良は少し驚いたように目を丸くした。そんなことを頼まれるとは思ってもいなかった。
自分と彼女の接点は少ない。力になりたいとは思ってはいる。だが、過去に知人が多くいる彼女では自分の存在がかすんでいるのではないかと思う。
まつ梨と吉良をつなぐ接点といえば、まつ梨を護廷十三隊に再入隊するための案内をしたときくらいではないだろうか。
もちろん、頼まれれば修行相手にはなるが、それほど自分が彼女にとって重要な存在とは思えない。
「僕よりも、十一番隊の人の方がいいんじゃないかな?」
「いえ・・・何ていうか、あの人達は実戦で相手を倒すためのコツを、そのまま教えてくれるんですけど・・・」
言って、まつ梨は言葉を濁した。
「そのー、他の鬼道とかは全然駄目で・・・。吉良副隊長さえよろしければ、色々と教えて頂きたいなぁ、と」
それには吉良はぽかんとする。
だが、もじもじと、頼み事をするまつ梨に、吉良はくす、と笑みを浮かべる。
自分が思っていたよりも、彼女にとって吉良の存在は意外に大きかったらしい。
「ああ。構わないよ。・・・君とは、一度じっくり話してみたかったしね」
それは本当だ。それにまつ梨は満面の笑顔で答える。
「はい、よろしくお願いします!」

「そういえば、吉良副隊長。気になったんですけど」
「何だい?」
「私の事は、名前で呼んでください。兄もいるので、ややこしいんで」
「えっ!? あ、いや、それは・・・その」
「まつ梨ですよ、ほら、言ってみてください」
「うっ、いや・・・その・・・」
「・・・それとも、私も吉良副隊長ではなくて、名前で呼んだほうが良いですか」
「え!? いや、僕はその・・・」
「・・・? 顔が赤いですよ?」
「・・・っ、いや、何でもない! ほら、早く行こうか!!」
「? は、はい」


吉良はきっとまつ梨の名前を呼べないと思います。
すっごい悩んだ挙句、まつ梨さん、と声をすぼませて呼ぶのでしょう。
まつ梨は名前呼びにあんまり抵抗がないタイプに違いない。一護のことも呼んでたし。


STORY:秘密の特訓中

「一護くーん!」
とある廃棄された倉庫の一つ。織姫に教えられたそこに、まつ梨は一護に会いにやってきた。
「ま、まつ梨!? 何でここに!?」
「え、一護くんの様子見に来た・・・って何、その格好っ!!」
一護の格好は凄まじかった。
いつもの黒の死覇装。だが、その上に来ているのは、ピンクのひらひらエプロンだ。
眉間に皺を寄せた、ちょっと近寄りがたい外観とあいまって、もはや似合っているのか似合ってないのか、良くわからない。
「・・・あれ。アンタ・・・一護と一緒におった死神ちゃんやん」
まつ梨に気付いたのは平子 真子だ。まつ梨は平子に一度、助けてもらったことがある。
一応、仮面の軍勢の立場としては死神と対立しているらしいが、まつ梨にはその辺が理解するつもりがないらしく、意外と親しく――やや一方的ではあるが――させてもらっている。
「何でお前がそこにおんねん!!」
キャンキャンと露骨に叫ぶのは、猿柿 ひよ里だ。相も変わらず声がでかい。ジャージを着込んで、ぎろりとまつ梨を睨んでくる。
「一護くんが修行してるって聞いて、差し入れをもってきたの。あ、これ、つまらないものですが」
「あ、こりゃまあご丁寧に」
ささ、と重箱を平子に渡す。伊花によって躾けられた礼儀作法は、仮面の軍勢にも通用するらしい。
「受け取んなや、このハゲ!!」
「ぐはっ!?」
スパーンと、景気良くひよ里に平子は後頭部を殴られた。
「痛いわ、ひよ里! 何すんねん!?」
「じゃかあしい! ようも知らん奴から、もの受け取るんやないわ!」
「お前は俺の母ちゃんか! ええやん、別に! 一応は顔見知りの死神や!!」
「・・・で、まつ梨、何でここに」
騒ぐ二人をよそに、一護はまつ梨に話しかけた。背景で「やっかましいわ、このハゲ!!」とか「誰がハゲやねん!!」とかいう関西弁の醜い応酬が繰り広げられたが、見なかったことにする。
「・・・私じゃ、一護くんの修行相手は無理だから。だから、別のことで役に立ちたいなって」
一護の虚化。まつ梨も事情は浦原と夜一から聞いている。
それは一護自身が乗り越えるべき壁であり、己の出る幕ではない。だが、何か出来ないかと考え、お弁当を作って持ってきたのだ。
「ま、まつ梨が作ったのか?」
動揺を悟られないように、一護はおそるおそる聞いた。
「うん、詩葉さんと一緒に作ったんだよ」
「そ、そっか・・・」
一護はじっと、差し出された重箱を見た。
本人を前には言えないが、まつ梨の料理の腕は微妙だ。別に食えないことはない。
その証拠に、十番隊の乱菊はばくばくとおいしそうに食べていた。まつ梨の料理は、味付けが全てにおいて甘いのだ。
玉子焼きはまだいい。だが、にぎり飯が甘いのは勘弁していただきたい。
煮物も、甘い味付けで、これも食べれないわけではない。
そして、詩葉。彼女の家事の腕前は壊滅的といって良いほどのものだ。誰かと一緒に料理をすれば、だいぶマシなのだが。
「・・・・・・・・・・」
一護は戦慄した。こんなに恐れおののいたのは、剣八に瀞霊廷内の行き止まりに追い詰められた時以来だ。
そして、一護の出した結論は。
「なあ、平子。お前、まつ梨の手料理食うか?」
「え、マジ?」
平子(という名の生贄)に差し出すことにした。しかも、彼女の料理の腕を知らないので、普通に喜んでいる。
「・・・一護くん、それ、どういう意味?」
さすがに目の前で横流しされるのは腹が立ったらしい。ジト目で一護を睨む。
そして、持っていた重箱の他の荷物を手渡す。
「・・・いいよ。じゃあ、一護くんにはこっち」
どすっ、と明らかに重箱以上の重さの何かを、まつ梨は一護の手に置いた。
「うわ、何だこれ!?」
それは、一応は重箱だった。形だけは。
しかし、外観は何を血迷ったのかショッキングピンクだ。紫のハート模様が毒々しく彩られてる。見ているだけで頭痛がしそうな色合いだ。
「・・・浦原さんが作ったお弁当よ」
「何で!?」
予想外の手作り弁当の存在と、その作り手に唖然とする。
「今日、一緒に作ったのよ。・・・多分、悪ふざけで」
「悪ふざけで弁当作んなよ! ・・・っていうか、料理できたのか・・・」
変なところにショックを受ける一護。その反応は実は今朝のまつ梨と同じ反応だったりする。
作り主があの人だとわかると、弁当から変なオーラが流れているように見えてきた。
「まあ、そういうわけだから、全部食べてね」
「いや、ごめん。これはちょっと、無理だまつ梨」
「平子くんと、ひよ里ちゃんは一護くんのために作ったお弁当食べて良いから。あと、これデザートの杏仁豆腐ね」
まつ梨は一護を軽く無視して、風呂敷の中に入れたタッパーを平子とひよ里に渡す。どうやらこれも手作りらしい。
「ええんか? こんなに」
「いいのいいの。お世話になったのは事実だし。一護くんのこと、しっかり鍛えてね」
笑顔でいうが、目が笑っていない。どうやら自分の料理の腕前を馬鹿にされた事を怒っているらしい。
「・・・ま、頑張ってね」
それでも最後に見せた笑顔は、ちゃんと笑っていたのがせめてもの救いなのだろう。


仮面の軍勢と仲良しなまつ梨が書きたかっただけです。
しかしゲーム本編で相性MAXになるとタンピアスをくれる平子に、よりにもよって何でタンピアスなのか小一時間くらい問い詰めたい。


STORY:日常を守るために

征源さまを救うため、虚圏に向かい、最後の戦いを終えて、数日。
まつ梨は今日もうららかな日々を過ごしていた。
「これで終わり!!」
・・・虚を倒しながら。
「最近、虚が多いね」
やれやれと、肩をすくめながら藤丸は刀を収める。
「そうね・・・。まあ、帰る前に見回りでもしておきましょう」
「ああ」
まつ梨は空座町の西を、藤丸は東を回る事にした。
「あ、まつ梨ちゃーん!!」
買い物の途中だったのか、織姫が手を振る。
「見回り?」
「ええ。虚が出てるし、あんな事件の後だからこそ、気を引き締めないと」
「気をつけてねー」
そういって見送られる。
次に会ったのは。
「・・・む」
河原を歩いているチャドだった。
「チャドくん」
「見回りか?」
「うん、いつ敵が襲ってくるかわからないから」
「・・・気をつけろ」
「ええ。油断はしないわ」
そういって見送られる。
そして、次に会ったのは。
「まつ梨さん?」
「雨竜くん・・・買い物?」
もう大分日が落ちていたが、どうやら買い物のために外出していたらしい。
「ああ。・・・糸を切らしてしまってね」
手にかけている袋は、どうやらコンビニではなくて、裁縫道具を売っているお店のものらしい。几帳面な彼らしい持ち物だ。
「見回りかい? 最近、虚が多いから」
「うん。・・・雨竜くん、もう暗いし送っていこうか?」
「ええっ!? いや、別に、僕は一人でも・・・」
虚が出るから危ないのでは、という意味で言ったのだが、どうやら雨竜は少し違うニュアンスで捕らえたらしい。
「普通、逆じゃないかな・・・井上さんといい、どうして・・・」
「・・・雨竜くん?」
「・・・いや、いいよ。どうせ、すぐ近くだし・・・」
「そう? ・・・気をつけてね」
何やら葛藤していた雨竜の様子に気付かなかったまつ梨は、そのまま雨竜を見送った。
「・・・さて、帰りますか」
空座町は今日も平和だ。


最終決戦後の双子は空座町の平和を守るべく、今日も頑張ってます。



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