気に入らない。
ただ一言、そう言えば、あの女はそう、と答えた。
それだけのことが、気に入らず、ノイトラは派手にテーブルの上にあるコップを地面に叩きつける。
がしゃんと砕けたかけらを、さらに踏み砕く。
おやめなさい、と言われ、その真っ直ぐすぎる目を受け止めた。
知るか、と短く返答して、ぐりぐりと地面を踏み下す。
足を退けると、ネリエルは地面に落ちたコップのかけらを拾い集めた。
何をしていると聞くと、怪我をするかもしれないでしょうと、黙々と白いかけらを集める。
罰が悪くなって、ノイトラは沈黙した。
「おい」
「何かしら」
何だ、この状況は。
気まずい沈黙。声をかけたというのに、ノイトラは押し黙った。
言葉を選び、何を言えばいいのか考えている。
おかしなものだ、そんなことは声をかける前に考えるものではないか。
ネリエルの作業は止まらない。ノイトラは黙ったままだ。
「つっ、」
「ネリエル!?」
ぎょっとしてノイトラはネリエルを見た。指先には傷、血が流れている。
お笑い種だ。十刃ともあろう者が、割れたかけらで傷つくなんて。
ノイトラは条件反射なのか、ネリエルの腕をつかんだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
ノイトラは己の所業にぎょっとした。信じられない顔で、自分の腕と、掴んだ手首の主を見た。
「心配してくれたの?」
ネリエルが、柔らかい表情で聞いてくる。
ノイトラは、その目線によって、石化したみたいに硬直した。動けない。
「・・・?」
どうしたの、とそういう顔をして首をかしげる。ノイトラは硬直しながら、ぎこちなくネリエルの腕を開放した。
何でもねえ、と言って背を向ける。
「そう」
ネリエルは再びかけら集めの作業に没頭した。
ノイトラは、その胸に宿る苛立ちにも似た熱を持て余している。
その正体は、いまだわからずじまい。



              ――実る前に、朽ちてしまいそう

                          早くに気付いていれば、少しは違う結末が見えたのか。




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