読む前にお手持ちのBLEACH33巻をご用意ください。
なければ、ジャンプ本誌を出してください。
でないとワケがわからないと思います。
287.Don`t Forget Till You Die 【あなたが死ぬまで、忘れないでください】
「・・・何してんだ、テメエ」
力をかけたその一撃は、黒刀によって阻まれた。
「こっちのセリフだ。動けねえやつに、何斬りかかってんだよ・・・!」
それに、新たに現れた十刃らしい眼帯の破面は一笑した。
「目も当てられねえなァ、グリムジョー! あァ!? 敵に負けて、命まで守られてよぉ!」
それを冷たい目で睨むのは、一人の破面だ。
「ザエルアポロと手を組んだ挙句、
卑怯な手段で背後からネルのど頭をかち割った男のセリフとは思えないっす」
「うるせえよっ!! まだ記憶取り戻してないくせに、口挟むな!」
つっこむノイトラ。まだ名前も名乗っていないのに、あっという間に脱線した。
「本当の事を言っただけっすよー!! ノイトラの卑怯もんー、眼帯ぃー、童貞ー、マゾー!!」
「誤解を受けるような事をほざくなあああああああっ!!」
誤解を受けるような、ということはいくつか真実が混ざっているのだろうか。
「・・・ネルちゃんの中で眼帯は悪口なのかな?」
織姫はうーんと唸る。何となく女の直感で卑怯ものとマゾは本当っぽいなと感じた。
そして。
「・・・どうでもいいが、女・・・砂に埋まった・・・助けろ・・・うぷっ」
本誌でもいまだどうなっているのかわからない、哀れなグリムジョーは砂に埋まっていた。顔だけ出ているのが奇跡みたいだ。
「ああ、グリムジョーがさっきの衝撃で砂の中に埋まってる!
何か海水浴に行く人がよくやってる砂風呂みたい!!」
「いいから・・・引き上げろ・・・戦って死ぬ以前に、戦いに巻き込まれ窒息死だなんて、
敵に情けをかけられるより恥だ・・・」
グリムジョーの仲間は死神と戦って撃沈したというのに。
こんな最期では仲間に顔向けできないのも、当たり前と言えば当たり前だ。
「教えといてやる」
ノイトラの口からもれ出た舌。そこから見えたのは、唾液に濡れた5の数字だ。
「!」
「俺の階級だ。わかるか? てめえがそこまでボロボロになってようやく勝ったそこのカスより、
俺の方が上なんだよ」
そして、ノイトラはにい、と笑みを深める。
「・・・す、すごい」
織姫はその光景を見て、呆然とした。テスラに拘束されているが、そんなことがどうでもよくなるほどに驚愕していた。
「すごい! あの人、舌を出してるのに腹話術みたいに喋ってる!!」
「そ、そこかよ、驚くのは!?」
「だって、ウルキオラの4番より下なんでしょう? ・・・グリムジョーは6番で、あんまり強くないって思うけど」
「井上、全国のBLEACH読者が、心の隅の方でで思ったことだ・・・つっこんでやるな」
誰もが思ったことだからこそ、つっこんではいけないのだ。
288.The Bad Joke 【悪い冗談】
「やめて! こんなの・・・黒崎くんはケガしてるのに!」
織姫は悲痛な声で叫んだ。しかし、それをかき消すようにノイトラが怒鳴る。
「うるせえぞ! バカか!? ケガしてるから何だ!?」
非情な言葉だった。その声には、躊躇や容赦、情けは存在しない。
「戦いだぜ。不平等が当然だぜ。戦いってのは不平等と不寛容が生み出す怪物だ」
ざっ、とノイトラは一歩、一護に近づく。
「あいつが気に食わねえ、あいつになら勝てる、あいつが許さねえ」
また、一歩。
「あらゆる理由で敵をつくり、敵を作った瞬間から、呼吸一つまで戦いのうちだ」
武器を構えなおし、ノイトラは一護を見下ろす。
「敵の本拠のど真ん中で、あんだけハデに戦って、誰にも狙われねえなんて悪い冗談だぜ、死神」
そして、ノイトラは抑えきれない破壊衝動を撒き散らすように言う。
「来いよ」
にい、と形容しがたい笑みをノイトラは浮かべる。
「てめえとグリムジョーの戦いは頭っから見てた。てめえの手の内は全部知れてるがな」
「・・・そんなっ」
織姫は目を見開いて、肩を落とす。
「黒崎君がそんなストーカー行為をされていたのに、私は気付けなかった・・・!!」
「おい、ちょっと待て。間違っちゃいないが、ストーカーってどういう意味だ女」
「私の黒崎君が汚された! 汚されちゃったよ、たつきちゃん!」
「そのセリフは色々とヤバイから、井上!」
ちなみに、これを書いてる作者はまだ見ていません(関係ねえ)
289. The Scarmask 【傷跡の仮面】
「タイトルだけ聞くと、ネルのやつが傷物にされたって感じだよな・・・」
「その言い方は止めろ、死神! ・・・ま、まあ、俺も男だ。責任を取れと言われればだな、あれだ。
それに、あんなメスをもらうような物好きはいねえだろうし・・・」
「一護〜! 私は傷物だけど、一護ならお嫁にもらってくれる?」
「なっ、いや、ちょっと待て、ネル! まだお前とそんな関係じゃないだろ、俺たち!」
「気にしなーい! 一護だけだもの。私に優しくしてくれて、守ってくれた人は!
あ、ペッシェとドンドカッチャ以外って意味ね、もちろん」
「・・・あ、ネルちゃん、ノイトラがものすごい勢いで落ち込んでるけど・・・」
「大丈夫。昔から鋼皮と精神の強さは一人前だったから。どんなに沈めても、いつか浮上するわ」
「・・・・・・。何か、可哀想だな・・・」
ノイトラは、驚いたことに素手で斬月を掴む。
普通なら血が飛び散ってもおかしくないはずなのに、ノイトラは平然と斬月を掴んだ。
そのせいで一瞬、一護の顔が硬直する。
「何だよ、切れそうなのは見かけだけか」
来る、と一護は身構えたが、ワンテンポ遅い。
「避けて損したぜ」
そして、強烈な頭突きが決まった。その衝撃は凄まじく、一護は後方に吹っ飛ばされる。
「いやあああああっ、黒崎君の顔が、黒崎君の顔が傷物に!!?」
「・・・そんなに騒ぐことでしょうか?」
男の顔が傷つくことに、あまり価値を見出せないらしく、テスラは叫ぶ織姫に対して小首を傾げた。
「当たり前じゃない! 黒崎君が傷物にされたのよ! あなた、責任は取れるの!?」
「いや、それは・・・」
「黒崎君のお家は、門限は七時で、夜遊びもマトモに出来なくて、お家のお手伝いもしなきゃいけないのに!
黒崎君がお掃除できない身体になって、エプロン姿が見れなくなったら、私・・・っ!」
そこは泣く所なのでしょうか、井上さん。
「藍染様のご命令は“攻撃を受けない限り、六花を破壊してはならない”。攻撃すれば、破壊します」
冷徹とも取れる声で、テスラは言う。織姫の顔に、汗が静かにつたった。
「抵抗しないで下さい」
(・・・黒崎君・・・!)
何も出来ない自分が悔しい。織姫は奥歯をかみ締めた。
(・・・あれ?)
織姫はあることに気付き、きょとんとしてテスラをじっと見た。
「・・・何か?」
(六花で攻撃したらダメだけど、素手で締め上げたら、やっぱり六花を破壊されちゃうのかな)
「・・・?」
(肘鉄じゃあ、びくともしないかな。破面って力は人間より強いみたいだし。でも、外見の作りは同じだし、急所はおんなじなのかな)
「・・・どうしました?」
(鼻フックはさすがに痛そうだけど、股を蹴っちゃうとか。頭突きするには身長が足りないし、投げ飛ばすとか。
いっそのこと、噛みついちゃおうかな)
物騒な事を考えているだけですよ、テスラさん。
291. Thank You For Defend Me 【ありがとう、私を守ってくれて】
「ま、待てよ、ネル! お礼って・・・お前まさか、あいつと戦うつもりじゃ・・・」
一護は突然のネルの変化に混乱しながらも、微笑むネリエルを見た。まさか、あの暴虐を具現化したような破面に挑むというのだろうか。
ふっ、とネリエルは微笑んだ。何も心配は要らないと。
「背後から蹴りを一回、頭突きで顔を一回、横殴りに腹を一回、私を守ろうとして左手を一回、
顔を横殴りに蹴ること一回、私をまた助けようとして顎に一回、私を盾にされて肩を痛めて一回、
利き手をへし折ろうとして一回・・・」
ふふ、とネリエルは不気味に笑って。
「最低でも背中に一発入れて、顔を三回殴って、両手をへし折るから安心して、一護」
「ね、ネル?」
何か完璧にど頭にきたらしく、何かネリエルは怖い。
「大丈夫」
ネリエルは一護に微笑んだ。
そして、一陣の風が吹く。
「すぐに殺すから」
「本編と言ってる事がちがうぞ、ネル!? 落ち着け、そこまでしなくていいから!!」
「一護を傷物にした罪は、帰刃した破面たちの総体重より重い!!」
「いやワケわかんねえから、それ!!」
294. IF YOU CALL ME BEAST, KILL YOU LIKE TEMPEST.
【もしもあなたが獣と呼ぶのなら、嵐のようにあなたを殺す】
「・・・なぜ、ネリエル様なんだ・・・? 他の十刃の誰でもなく・・・」
テスラの問いかけに、ノイトラは目をむいて答えた。その瞳に宿る憎悪に近い色は、他に例えようがない。
「気に食わねえんだよ。戦場で、メスがオスの上に立つのがな」
ぞっ、と。
テスラの背筋に悪寒が走った。
「それだけだ」
それだけ、それだけの理由でノイトラはネリエルに戦いを挑んでいたというのだろうか。
―――――
「というわけで、ノイトラは彼女と因縁があるわけだが・・・」
「おかしくねえか、それ。アレ、ハリベルだっけ?
残った十刃の番号を逆算すると、あいつも1番から3番の誰かだってことになるけど」
「あの人も女の人なのに、矛盾してるね。何でだろ」
「・・・アレか? 好きな女の子をいじめたいっていう、アレなのか?」
「うるせえぞ、外野ァ! テスラも余計な茶々を教え込むな!」
295. The Last Mission 【最期の任務】
ネリエルはその優れた体技で、ノイトラの斬魄刀を蹴り飛ばす。その細い身体にどれだけの力があるのか、想像もつかない。
ノイトラは距離をとり、ネリエルを見据えて不敵に笑う。
「まだ抵抗すんのかよ。往生際の悪りぃこったな」
それに、ネリエルは考えた。このまま続けても、埒が明かない。ならば。
「・・・・・・残念だわ・・・」
ネリエルは自分の斬魄刀を構えなおす。刃を地面に水平にして、手をかざす。
「この姿に戻ってすぐはキツそうだから、本当は使いたくなかったんだけど・・・」
まさか。
ノイトラの目に微かな怯えが宿った。
それは恐怖に似ていた。
「―――ノイトラ」
ネリエルは、一歩ノイトラに近づき、口を開いた。
「あなたって、最低。顔も見たくない。死ねばいいのに」
「がっ!?」
ぐっ、とノイトラの細身の身体が揺れ、胸を押さえる。
どうやら、何か心の大事な部分に急所突きを喰らったらしい。
「私、自分より弱い男には興味ないの」
「ぐふっ!!」
またのけぞるノイトラ。ネリエルは相変わらず無表情だ。
それを見て、一護は呆れたように。
「・・・何で効いてるんだ?」
それは永遠の謎なんですよ。
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