「なあネル」
「何スか、一護ぉー」
ぐりぐりぐり、とネルは一護の腹に頭をこすり付ける。
「く、くすぐってえから、それはやめろ! お前は猫か!?」
「ネルはれっきとした破面ッス! 力は弱いし、ほとんど役立たずのゴミくずっすけど、それでも破面ッス!」
「いや、自分をそうまで貶めるなよ・・・、今、虚夜宮だったか? ちゃんと案内できてるし」
「じゃあ、ネルたつはこれから観光案内で生活していけそうッスね!」
「いやいやいや、それはどうかと思うぞ、俺は。・・・つうか、俺の話を聞け! 脱線させんな!」
そう叫ぶと一護は、やかましいぞとルキアから冷たいお言葉を賜り、フッと石田からは馬鹿にされた目線を向けられた。非常に腹が立ったが、そこは無視した。
「・・・あのさ、ネル。お前、ここにずっと住んでんのか?」
「はいィ。ネルたつは、虚夜宮でなくて、ずっとこの砂漠地帯で暮らしてるっす」
「そっか・・・」
一護は一旦言葉を区切り、慎重にネルに問いかけた。
「十刃のヤツらは、見たことあんのか?」
それは、ある意味で仲間の情報を売れということだった。だが一護はダメモトで、聞いてみた。
「・・・ないッス。でも、噂くらいなら聞いたことあるっス」
「それでいいから、聞かせてくれねえか?」
「・・・わかったっス!」
ネルはこくりと力強くうなずいて、元気に返事をした。

「ウルキオラって知ってるか?」
「知ってるっす! クセモノ揃いの十刃の中で、比較的マトモな思考を持つお方っす!」
さらりと他の十刃に対して、失礼な事をのたまうネル・トゥ(年齢不詳)
そのセリフから、あんまり十刃に対して忠誠心はないのかもしれない。
「マトモって・・・そう、なのか?」
一護はウルキオラのやってきた所行を思い返す。
現世に始めてやってきた、つまりは一護にとっての始めての破面との遭遇だが、あまり良い印象はない。
だが、思い返してみれば、あのヤミーとかいうのと比べれば、理性的で冷静に物事を対処してきた。
それに、井上のこと。怪我をしていないか、それが心配だが、一度は一護のもとへやってきたのだ。その辺を踏まえてみると、無駄のない合理主義者ではないのかと人物像が浮かんでくる。
「マトモっすよー。ゴミの仕分けちゃんとしてくれるし」
「ゴミ分け!? 出るの、ゴミが!? 虚夜宮から!?」
「そりゃ、破面の皆様は人間っぽい所があるから。ちなみにウルキオラ様は最近、ガーデニングにハマってるらしいっす」
「何だよ、その情報! やめてくれ、頭の中に無表情でじょうろ持って水遣りするあいつの姿がー!!」
想像力たくましい一護は、ウルキオラのガーデニングを想像して、頭を抱えた。
「じゃあ、アイツ! グリムジョーはどうなんだよ!?」
「グリムジョー様っすか?」
「そう、何か弱点とか!!」
弱点、と聞いてネルはしばし考えて。
「名前覚えられにくいって、困ってたらしいっす」
「おおい! そんなのがコンプレックスなのか、グリムジョー!」
「ちなみにネルも、フルネーム、全然覚えてないっす!」
「威張るなよ!」
「じゃあ、一護は言えるっすか?」
「・・・ええーと、グリムジョー・ジャガー・・・ジョニーだったか?」
「ジョージじゃなかったすか?」
「ジャン・・・ジェーン、ジャーキー、ジョイ・・・」
「最後の、何か汚れを落としそうっすねー」
グリムジョー・ジャガー・ジョイ。確かに洗剤のCMに出てきそうだ。
油汚れはきっと許さない。
「柑橘系の果物が嫌いで、たまねぎも食べないそうっす」
「へえ」
「んで、肉も好きだけど魚も好きらしいっす。最近のマイブームは卵かけご飯、しょうゆ抜き」
「・・・へえ」
「あと、マタタビを嗅ぐと酔っ払うとか」
「それって完璧、猫じゃねえか!」
つっこむ一護。ネルは聞いた話を言ってるだけっす〜、と半泣きだ。
はあ、と一護はため息をついて仕切りなおす。
「・・・ま、いいや。次」
「えーと、アーロ・ニーロさまは現世のヒーローもののキャラに声がそっくりって噂っす」
「声?」
「オレ、参上!! ってのが良く似合うそうっす。あと、服の趣味が凄まじく悪いらしいっす」
「・・・へー」
「興味なさそうっすね、一護」
「興味ねえからな。はい、次」
そのアーロ・ニーロの姿が一護そっくりであることに、当然ながら一護はまだ気付いてない。
まさか、あんなレースのひらひらを着せられるのだから、彼に取り込まれた志波 海燕はさぞや無念だろう。
石田は友達になれそうだと目をきらきらさせそうな気がする。
「えーと、ノイトラ様はその姿を見ると、何かお腹が減るそうっす」
「何でだよ!?」
「後姿がハマグリに似てるそうっす」
「ハマグリ!? 何で!?」
「さあ・・・実際に会った事ないから、わかんないっす」
ちなみに他にはスプーンだのとか言われているが、一護は興味がないので聞き流した。
関係ないが、不良化するという意味のグレるの語源はハマグリだったりする。
「あとー、何でも何年か前に、女の破面に派手にふられたらしいっす。略奪愛っす」
「何でそんなプライベート情報が流れてるんだよ!?」
「虚圏では娯楽が少ないから、こーゆー恋愛がらみの情報はあっという間に漏洩するんすよー」
ノイトラ、会った事ないけど可哀想だなと一護は思った。
「貧乳より巨乳派らしいっす! 一護はどっち派っすか?」
「・・・もういい、ネル。聞いてて心が痛い・・・あと、さり気に変なこと聞くなよ」
一護は聞きたくない破面の一面を知って、さめざめと泣いた。
「んじゃ、ザエルアポロ様」
「・・・グリムジョーのフルネーム並みに言いにくいな」
ザエルアポロ、早口言葉にしたら舌を噛みそうな名前だ。
「一護もそう思うっすかぁ? ネルもこの名前を覚えるの、二週間はかかったっす」
「いや、二週間かけて覚えるなよ。んで、どんなヤツ?」
「マッドサイエンティストっす! 気をつけるっすよ、一護! すっごい変態で、気に入った人間をホルマリン漬けにして鑑賞するらしいっす!」
「・・・関わりたくねえな」
今までの十刃の中でも、一番のクセモノかもしれない。変態のマッドサイエンティスト。関わりたくない。
変態はあの下駄帽子の店主だけで充分だ。
「ブラコンで、お兄さんが亡くなって、鬱状態らしいっす」
「破面にも兄弟いるのか?」
「目の前にいるっすよ! ネルとペッシェとドンドカッチャ!!」
「それは例外だろ」
「じゃあ、ネルは一体・・・!?」
一護のセリフに絶望するネル。
「わかった、兄妹でいいよお前ら。メンドくせ」
「最後の一言に大いに傷ついたっすよ、一護ぉー!!」
うわーんと泣くネル。一護はため息をついて、よしよしとネルの頭を撫でる。
「あー、悪かった悪かった」
「じゃあ、今度お詫びに一緒に遊ぶっす!」
「はあ」
「鬼ごっこするっすー。波打ち際で、水のかけあいっこするっすよー」
「わかったわかった」
虚圏に海なんてないのだが、まあ、ネルのやりたいようにしようと思う。
そして、一護は虚夜宮を見据える
そこには大いなる力を持った破面が待ち構えているのだが。
「・・・女に振られた破面って、どんなだよ」
あんまり怖くないのはなぜだろうか。




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